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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
プロローグ
15/93

片付けの推理

狐川と一緒に部屋を出て声のする方へ歩いて行くとやはり夏麻の部屋の前に辿り着いた。


「こうなった経緯を説明してもらおうか」


「いや、あのね。片付けをしようと思ってとりあえず床に散らばっているのをどうにかしようとしたんだけど……」


全員の目が現在進行形で散らばっている物に向く。明らかに昨夜から全く片付いていないどころか昨日まで散乱していなかったベットや本棚、タンスにまで被害が広がり酷くなっているように思う。


「ちょっと待って!ちゃんとやったって!」


そう夏麻が指差す方を見る。そこには、何も置かれていない机が一つありました。


「言っておくが、何もない=片付いているではないからな」


「う……」


夏麻は明らかに肩を落とし床に置いてあった本を集め始めた。それを見て、神月はため息をついた。


「午前中だけだ。それ以上はできない」


夏麻はパッと顔を上げ神月に飛びつく。


「さすがみーやん!さすみやですね」


「ふざけてないでさっさとやる。四季、悪いがそういうことだ。他のことは頼めるか?」


「もちろんです。お任せください」


「なら、最初に腹ごしらえを……」


こっそり抜け出し居間に行こうとした夏麻の首根っこを掴み神月は部屋へ戻す。


「四季が食事の支度が整うまで片付けだ」


「僕達も手伝おうか?」


狐川の提案を神月はきっぱりと断った。


「いや、午前中は私と夏麻の二人でやるから大丈夫」


満面の笑みで言う神月とそれを聞き明らかに嫌がっている顔になる夏麻。先程までの喜びなどはとうに消えていて。俺は心の中で夏麻のことを応援した。そうして、俺達は夏麻と神月を残し部屋を出た。




部屋を出て居間へ狐川たちと向かっている途中。先ほどの神月の言葉を思い出した。


「何もない=片付けたことにならないってなんで神月そんなこと言ったんだ?」


「それは……あまりにも机以外がひどかったとか?」


そんな理由で神月が言ったとは思えない。俺と冬歩は考えてみるが一向に答えは見つからない。そうこうしている間に居間に着いてしまった。


「今お茶淹れますから座って待っていてください」


四季は台所の方へ行ってしまった。残った俺達は適当に座り四季のお茶を待つ。しばらくすると、お盆に湯呑みを四つと急須を乗せた四季がやってきた。


「さて、なぜ雅様が先ほどのようなことを言ったのか気になりますか?」


「え」


「四季はもうわかってるの?」


「まぁ、私だけでもないですが」


そう言われ俺と冬歩はここにいるもう一人の人物を見た。


「まさか、狐川もか?」


「毎回のことだからさすがにね」


「ちょっと待って!それじゃあ、なんで私がわからないの!」


冬歩は身を前に出し狐川に迫る。


「それを僕に聞かれても。単に観察不足なんじゃない」


「なに!」


そうして、狐川のtシャツの襟を掴み『なんで』や『なぜ』などと言いながら揺らし始め勢い余って狐川のことを押し倒してしまった。


「冬歩様!いくらなんでも強引に色仕掛けをしすぎです」


「え、そうかな?上手くいくと思ったんだけど」


「むしろ脅迫に近いかと」


その言葉を聞き冬歩は再び狐川を揺らし始めた。


「それで、あれはどういう意味だったんだよ」


俺は無理矢理話を元に戻すと、四季が聞いてきた。


「では、逆にお聞きします。あの部屋を見て可笑しいとは思わなかったですか?」


俺はもう一度あの部屋の状態を思い返してみる。


「机の上だけ異常に何もなかったのと昨夜より散らかっていた」


他は特にない。そう思い黙っていると。


「それだけですか?」


「他に何かあったか?」


「あったでしょう。机以外でもう一つ綺麗なところが」


いつの間にか起き上がっていた狐川が言った。


「あの部屋でか!」


狐川は頷いた。あの状態の机以外でどこが綺麗だったというのだろうか。ベットや椅子の上にでさえ本や服が置かれていて座るスペースがなかったというのに。


「まぼろん、ついに頭でもいかれたの?」


「失礼だな、どこかの誰かさんみたく脅迫までして答えを聞き出そうとする頭のネジがぶっ飛んでる奴には言われたくないな」


「なに!」


今にも喧嘩を始めそうな二人を四季が止める。


「まぁ、二人とも落ち着いてください。大神様、先程『昨夜よりも散らかっていた』とおっしゃいましたね」


それに対し俺は頷いた。


「具体的にどの辺りが変わってましたか?」


具体的にと言われあの部屋を思い出しながら話し始める。


「最初は机かな。何にもなかったし」


「それから?」


四季が催促してくる。


「それから……ベットや椅子の上にでさえ被害が拡大していたことかな」


それを言い終えた後四季はパンと手を叩いた。


「そう、それです!ここまでくれば答えまであと少しです」


「答えって?」


未だに理解が追いつかない俺には疑問マークがうかぶ。


「大神ってさ、部屋の片付けやる時ってどんな感じ?」


狐川がお茶を飲みながら聞いてくる。


「どんなって、普通だよ。普通に本や服を片したり部屋を掃除したり」


「脱線とかしないんですか?」


「しない」


その返答に驚いた冬歩はボカンと口を開けて数秒停止した。


「嘘!私なら絶対片付けてる途中で漫画とか読んじゃうな」


漫画。そういえば夏麻の部屋にも漫画は多く本棚に。


「そっか、それだ!」


俺の声に驚いた冬歩はビクッとして俺の方を見てきた。


「なにがですか?」


「夏麻も冬歩と同じようなことをしてたってことだよ」


「同じようなこと?」


少し悩んだあとポンっと手を叩いて、ああっと呟いた。


「つまり、夏麻も片付けてる途中で漫画を読み始めていつの間にか朝になっちゃって慌てて机の上だけ片付けたってことね」


「最後の『机の上だけ片付けた』は違いますよ。単純に夏麻様は片付けた痕跡を残すために、机の上にあった荷物を床や椅子、ベットの上に置いただけです。まぁ、雅様は見た瞬間に見抜きましたけどね」


解説を聞きながらうんうんと首を縦に振る。


「でも、さっきまぼろんが言ってた『もう一つ綺麗なところ』って?」


そういえばそうだった。漫画のことはわかったが『もう一つ綺麗なところ』がいまだにわからない。狐川は頬杖をつきながら。


「綺麗だっただろう。夏麻のベットの上に積まれた漫画。綺麗に下が一巻上が最新刊の十四巻だった」


「なるほどね。たがら、何もない=片付いてるか」


無事に気になっていたことが解決してモヤモヤが消えた瞬間、今までなかった感情が芽生えた。


「お腹ついたな」


ポロリと呟いた。


「そういえばまだでしたね。すぐに準備します」


「いや、催促させるつもりは……」


「いいんですよ。それに、早くしないと夏麻様が倒れてしまいます」


そうして、四季が台所へ行くのを追いかけるように冬歩も行く。


「なら、今日は私が手伝うよ」


「冬歩様、ありがとうございます。では、早速作りましょうか」


「僕達は何してる?」


その質問に俺は素早く答えた。


「とりあえず顔洗ってくる」

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