騒ぎ声の理由
翌朝、バンっと障子を開ける音と遠くから誰かの言い争っている声によって目が覚めた。
「おはよう」
そう声をかけてきたのは狐川だった。
「おはよう。確か……」
昨日の出来事を思い返してみる。自分がいる部屋。狐川がいる理由。
「昨日の僕の部屋に泊まったの覚えてるでしょ?」
若干忘れていた。そう言われてみればそうだった。冬歩に狐川の部屋まで案内してもらった後、俺は狐川と夏休みの宿題をした。最初は断ったものの
『でも、言っちゃったんだ。月宮さんに大神が僕と勉強してるって。これが嘘だとバレたらどうする?』
と言われ、色々反論してなんとかやらずに終わろうとした時。
『事実を立証する証拠ぐらいあった方があとあと便利だったりするものだけど。それと、これで夏休み最後に必死になってやってるところ月宮さんに見られたら今日のこととやかく聞かれるかもよ?』
確かにそうだった。月宮はなんだかんだいって勘が鋭かったりする。そして俺は狐川に言われるがまま夏休みの宿題をやり就寝した。
「もう、夏休みの宿題は終わった」
「昨日やったの数学の問題四分の一程度だけだから」
それを聞き俺は頭まで布団をかぶった。
全く『休み』という文字がついている以上、文字通り休むのが当然の権利として与えられるはずだ。なのにその権利は無情にも取り上げられ宿題の二文字が渡される。
「ま、別に寝ていてもいいけど。僕は夏麻の様子を見てくるよ。あの感じだと今年も終わらなかったな」
夏麻という言葉を聞き思い出す。あのいつ片付けが終わるかもわからない散乱ぷりの部屋。
「今年もっていつもこうなのか?」
「そうだね。もし終わっていたのならそっちの方が問題かもしれない」
酷い言われようだ。信用の一欠片もない。
「それに終わっていたらこんなに騒がしく言い合っていないだろうし」
遠くから聞こえてくる声は今もまだ続いている。
「この声の相手は?」
「神月さんだね」
そういえば昨日冬歩が、みーやんとの約束がどうのと騒ぎ夏麻が青ざめていた気がする。
「どうする。布団をかぶってまだ寝てる?それともこの騒ぎの野次馬でもしてみる?」
布団から出ずにもう一眠りしたい気持ちは好奇心には勝てることはなかった。
「俺も気になるから行く」
そうして結局はゆっくりと布団から出て、寝癖を軽く直してから狐川と共に夏麻の部屋へと向かった。




