昔の約束
先程から上の廊下が騒がしい。が大体の予想はつく。多分、夏麻と冬歩だろう。食事を終えた私は冬歩に『片付け終えたから見て』と言われ後ろをついって行った。冬歩は、例年通り約束を守り部屋の片付けを終わらせていた。その次に、夏麻の部屋を訪れた。部屋の中に夏麻はいなく、中には当たり前のように散乱した服や本が床一面に広がっていた。それを見た私が、冬歩に『夏麻に部屋を片付けように』と伝えさせて今に至っているのだろう。
「白雪がいるのはあの二人にも伝えたのにもっと静かにすることはできなの?」
今、四季と一緒にいるは白雪が寝ている客間だ。私がここに運び込んだ後。急激に呼吸が荒くなり始め、終いには発熱までし始めたのだ。今は、四季の対応もあって呼吸も安定し熱も微熱にまで下がっている。
「そのことは二人とも遠い昔のように忘れています。それに夏麻様の片付けができないのは今に始まったわけではありませんし」
「だからといって、させないわけにはいかない。夏麻の場合は言われなければならないし」
「そうですね。でも、夏麻様の片付けは朝方すぎて終わるかどうか……」
確かにそうだ。毎年夏休み前には一度部屋を片付けさせているが、毎年のように夏麻は深夜から片付け始め朝になっても終わらずに翌日全員総出で片付けが始められる。
「でも、今から手伝ったら余計やらなくなる。それに……」
「大神様のことですか?」
私は頷く。彼には話してないことが多すぎる。伝えていないこと知らないこと、隠していること。全てを話すわけにはいかないが最低限のことは伝えなければならない。
「一応、約束はしたから」
「そうですね。なら、私との約束も守っていただきたいです」
「してたっけ?」
「してるじゃないですか」
そう言われて思い出そうとしてみるが一向に思い当たる節が見当たらない。もう、降参して素直に四季に聞くしかないと四季の名を呼んだ時。後ろから抱きしめられた。
「お願いですから、もう無茶をしないでください。貴方が傷つくのを見ているのが辛いのです」
そして、ようやく思い出す。ずっと昔にした約束を。四季と交わした無茶な約束を。
「今日だって、満月の夜なのにお一人で戦ってお一人で二人も連れて帰られるなんて途中で襲われでもしたらどうするんですか」
「ごめん」
「全くです。お陰で、こっちは心配で仕方ありません」
「ありがとう」
「でも、この約束は守れないのでしょう?」
「努力はしてる」
その答えを聞き私を抱きしめていた手が離され、私が振り向くと微笑みながらこう言った。
『知っています』と。




