連絡する相手
神月からの「泊まっていけ」という言葉に動揺を隠せない俺は思わず口に含んだコロッケを吹き出しそうになる。それを我慢し飲み込み終えると、神月の言葉を聞き直した。
「今、なんて?」
「だから、今日は泊まっていけ」
「何故」
「この時間ならもう電車がない」
そう言われ時計を見てみると二十二時十五分を指していた。確かにこの辺の電車は終電が早い。だからといって、この時間ならまだないわけではない。
「いや、まだ大丈夫だろう」
「今からここを出たとしても駅に着くのは三十分後だけど?」
その言葉を聞き俺は、神月が言った意味をようやく理解する。終電の時刻は二十三時。今食べているものを食べきった後、俺が走って行ったところで間に合うかと言われれば無理だ。電車がなければ歩くわけだが約二時間半。歩ける距離ではない。それに先程のこともある。それならお言葉に甘えさせてもらうのが一番安全な策だろう。
「わかった。お言葉に甘えて泊まらせてもらう」
「そうこないと。せっかく月宮さんに大神が今日は僕の家に泊まってるからって親御さんに連絡してもらったお願いが無駄になる」
うんうんと首を縦に振りながら狐川言う。
というか、今なんて?
「月宮に連絡させたのか!?俺の親に」
「さすがに夜遅くなっても帰ってこなかったら心配するだろうし」
確かに何も連絡が無いまま帰ってこなかったら心配はするか?俺の親は割と適当なことが多い。そのおかげで俺の朝は月宮任せなわけだし。でもさすがに朝帰りをしたことがない息子が帰ってこなかったら心配するか。
だからといって、勝手に連絡するものなのか。いや、気を失ってたわけだしやむ終えなかったのだろうが、相手が相手だ。
「なんで月宮にしたんだよ」
「さすがに、大神の親の連絡先までは知らないし。月宮さんとは家がお隣の幼馴染みって聞いていたから」
そう言われればそうだ。むしろ、狐川が俺の両親の連絡先を知っていた場合の方が問題なのではないだろうか。そんな状況とならば、月宮に連絡するのが妥当だ。俺は再び、泊まりの話から止まっていた食事を始めた。俺の食事はまだコロッケを口にしたのみで全く進んでいない。少し冷めてしまった味噌汁を口にすると。
「食事、終わったら流しまで持ってきて」
神月は俺に声をかけ、立ち上がり台所の方へと行ってしまった。というか、俺以外は皆食事を終えており居間には俺といつ空になったのか食器を前にお茶を飲んでいる狐川だけとなっていた。




