夢の記憶
これは夢なのだろう。
儚げで今にも壊れてしまいそうな夢。
紅く染まった世界に少女がいる夢。
こんなにも綺麗に涙する人を初めて見る夢。
その少女に手が届きそうで届かない夢。
「すまない」そんな声が聞こえるそんな……。
***
枕元に置いてあった携帯のアーム、蝉の鳴き声、扇風機の音とベランダからの侵入者により夢から現実へと引き戻される。
「あ、おはよう。錫牙」
平然とベランダから神々しい太陽をバックに現れた少女は今まさに不法侵入をし俺のベットの上に我が物顔で座る。茶髪にポニーテール、膝上を優に十センチ以上は超える丈のスカート。正しく今時のJKという感じの少女。隣の家に住んでいてなおかつ幼稚園から今まで同じクラスの幼馴染である月宮鏡だ。月宮は俺が目を開けるのを確認すると手近にあったノートで仰ぎ始める。
「……なにしてんだよ」
「なにって、新婚さんごっこ?」
朝っぱらから何言ってんだこいつ。
人のノートで仰ぎながら品行さもあったもんじゃない。すると、月宮はノートで仰ぐのをやめベットの上に手を置きこちらの方に前屈みになる。
「ほら、貴方起きて。今日の朝ごはんはぐちゃぐちゃに混ぜたスクランブルエッグですよ。起きないんですか? でないとキスしちゃいますよ」
絶妙に食欲を落としてくる言い回し。これでスクランブルエッグが出てきたら完全にこいつのせいで食べる気が失せる。と考えているのもつかの間、月宮がこちらにゆっくりと近づいてくる。俺はそれを避けるようにベッドから降りる。
「そんなもんに付き合ってられるか」
「ノリが悪いな。いつものように起こしにきてあげたに」
手のかかるやつだと言わんばかりの回答を聞いて呆れながら溜息をつく。確かに、朝は苦手でいくら目覚ましをかけても起きれないときはある。中学生の頃なんて一カ月連続遅刻の伝説を生み出したことがあるくらいだ。そんな俺に見兼ねて、月宮は学校がある日は起こしに来るようになった。だが、わざわざベランダを乗り越える危険を冒してまで起こしに来てもらう必要もない。そのため、ベランダからの侵入を阻止するために何度か鍵を掛け見たことがある。その結果、カーテンが薄いところからモールス信号のように電気をチカチカさせたりベランダでネズミ花火に火をつけ始めた。迷惑行為がさらに加速したため俺は素直に鍵を開けている。
「というか、この部屋相変わらず暑いんだけど。なんでクーラー使わないわけ?」
「クーラー苦手なんだって知ってるだろ」
「勿体無い。人間の科学の進歩を使わないなんて。宝の持ち腐れだよ」
絶対に意味が違う。
そう文句を垂らしながら扇風機の前に座り『す〜ず〜は〜の〜あ〜ほ〜ん〜だ〜ら〜』と話し出す。騒がしいことこの上ない。俺は学校がある日に目覚めのいい朝なんて今後二度とこないと思いながら、Tシャツを脱ぐ。
「どうしたの?もしかして、こんなに可愛い子が起こしに来てくれたから興奮でもした?」
冗談めかして言う月宮に暑さからなのか妙に苛立ちを覚え、俺は月宮に近づく。そして、イラつきの渾身の一発デコピンを月宮の額に食らわせた。
「いったーい!なにすんのよ!」
ぷくーと頬を膨らませこちらを睨む。
可愛くない、可愛くないぞ。
「今さら誰がお前に興奮なんかするか。というか、目ならとっくに覚めたから出てけ」
「何それ! 楽しい朝はこれからでしょ」
「騒がしい朝の間違いだろう」
「賑やかだよ!」
すると月宮はベットから立ち上がりあっかんべーとこちらに見せてくる。俺のデコピンの仕返しのつもりなのか。
「あー、はいはい。とっとと帰れ」
俺は月宮の襟を掴み引っ張りながらベランダへと向かわせ外に出るよう急かす。その際、朝なのに元気なことで「離せ」や「変態」などと騒ぎ出すが、そんなもの全て無視し追い出す。そして自室に戻る月宮を見送ってから鍵を閉め俺はリビングへと降りて行った。
***
月宮が自宅に帰るのを見送りリビングへ降りる。そこには朝食として用意されたスクランブルエッグ。おかげで、食欲が激落ちだ。それらを食べ終えると、テレビでやっていた占いが目に入った。ちょうど最下位と一位の発表で乙女座と山羊座のどちらかといったところらしい。そして、朝から元気のいい女子アナが最下位乙女座と発表する。
「……最下位」
俺の星座でもある乙女座が言われ軽く落ち込む。別に占いを信じているわけではない。が、最下位というのは何であろうと嬉しいものではない。おかげで、朝から気分がダダ下がりの俺はそのままリビングを後にしようとしたときテレビから今日のラッキーアイテムが聞こえてきた。
アイスクリームと。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
とりあえず、始められました!
まだ主人公幼馴染に起こしてもらっただけですが。
自分としてもこれから書くのが楽しみです。
投稿はゆっくりだと思いますが、よろしくお願いします