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ーー7ーー

病院から帰ってすぐに、花火に電話をした。

「どうした、大丈夫だったか」

コールが鳴りはじめてすぐに出た私の優しい親友は、少し眠そうな声だ。いつもより柔らかい口調で、私のことを心配してくれているのが分かる。

「心配させてごめんね。大丈夫だったよ」

さて、どうしようか。

花火は眠たそうだし、このまま話したら長くなりそうだし、この通話でどこまで伝えようかと思っていると、電話の向こうから微かに笑ったような声が聞こえた。

「なんだ、うまくいったのか」

ため息まじりに、花火が軽く呟く。

「一時はどうなるかと思った」

不思議だ。一言だけなのに、花火には分かってしまうらしい。

「どうして分かったの?」

「声で分かる」

花火がなんとなくそう言うので、私もそれだけで分かった。やっぱり親友だ。

「大丈夫ならいいんだ。明日になったら全部聞く」

「あ、やっぱり眠たいんだね」

「分かるか」

「分かるよ、花ちゃんだもん」

花火が私の声だけで分かってくれるように、私だって花火の声だけで色々なことが分かる。ずっと一緒にいた、大好きな友達だから。

花火がいなかったら今日はどうなっていたことか。彼女がいなかったら枢に会った時にもっと取り乱していたし、彼女とファミレスに行かなかったら枢には会えなかった。

「ありがとね。おやすみ」

今日のことは全部が花火のおかげだ。

また明日、学校で事細かに話すことを約束して、電話を切った。明日、きっと怖い顔で色々と聞き出されるんだろう。楽しみだ。


「それで、リリの親友がわざわざ僕に挨拶にきてくれたわけだね」

寝不足のまま登校して一日をなんとかやり過ごした放課後、朝からずっと枢のことを聞いてきていた花火が、私の携帯電話から枢を呼び出した。一泊しただけでもう退院なんて、と思ったけれど、そんなものなんだろうか。

「あたしの大親友を泣かしたやつを泣かしてやろうと思って」

"大親友"を強調した花火が、ファーストフード店のテーブル越しに枢を睨みつける。今日も怖い顔は絶好調だけれど、これで上機嫌なのが私には分かる。

「……と、友達思いの大親友がいて幸せだね、リリは」

枢は花火と面識がないから、怒っているとしか思えない彼女の顔つきに少々ビビっているみたいだ。

「あんたがリリの元カレかぁ」

「あの」

「なんだよ」

「いや、その……」

すごい。あの枢が花火に手も足も出ない。もしかして、椿にもこんな感じだったんだろうか。

「まあ冗談だ」

枢があまりにもビクビクしてるので、からかうのに飽きたんだろうか。花火が鼻からふっと息を抜いて軽く笑った。

「もう絶対にリリのこと泣かすなよ」

花火に睨まれてそんなことを言われた枢は、今にも泣き出しそうな顔で大きく頷く。それはもう何回も。

「も、もちろんです。もう、はい、絶対」

「つぎ泣かしたらマジでどうなるか……」

「生涯大切にする。ほんとに」

恥ずかしくなるようなことを枢が堂々と言ったのを聞いて、花火は満足そうに頷いてから立ち上がった。

「じゃ、あたしはもう行くわ。あとはふたりでな」

そのまま、私の頭に軽く手を置いてから花火が去っていく。改めて思ったけれど、彼女はなんでこんなに男前なんだろう。

「……大迫力の親友だね」

花火の姿が見えなくなるまで見送って、枢が溜まっていた息を全部吐き出すようにため息をつきながら呟く。私にとっては完全に慣れたものでも、枢にはよほど恐ろしく見えたんだろう。事情が事情だけに、私の知り合いがあんな怖い顔をして睨みつけてきたら、普通の神経をした人間なら萎縮するのは当然だ。

それはそうと、枢はひとつ勘違いをしている。

「大親友、ね」

「あ、大親友だね」


さて、ここで問題がひとつ。

花火が去ってから、私と枢もすぐにファーストフード店を出た。

久しぶりにふたりきりでの放課後。

まだ太陽も沈んでいない。

しかも、病み上がりの枢は大事をとって三日後まで完全にフリーなんだそうだ。

そのうえ、今日は金曜日。

「ものすごく長くリリと一緒にいられる。初めてだよね」

枢がそんなことを言うものだから、私もなんだか変なテンションになってしまった。

「おじゃましまーす……」

ふたりして変なテンションになった結果、私は枢の部屋に二度目のアタックを決めている。

行くと言ったくせに、部屋が近づいてくるにつれてどんどん動悸が増していった。なんでこんな軽率なことをしているのかと。

それを察したらしい枢が、楽しそうな顔で笑う。

「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ」

警戒とはどういうことか。私が枢に何かされると思っている、とでも思っているんだろうか。心外である。

「警戒なんてしてないけど?」

「じゃあ抱きしめていい?」

「えっ」

枢がにこにこ顔で腕を広げるので、少しびっくりした。いや、びっくりしただけだ。決して嫌なわけではない。ただ心の準備が……。

「可愛いな、リリ。大丈夫だって、映画でも流してお話しようよ」

結局抱きしめなかった枢が、代わりに私の頭を軽く撫でて、小さなテーブルの上にあるノートパソコンを立ち上げる。同じテーブルの上には、相変わらず私の写真。

顔が熱を持ちはじめたので、軽く頭を振って無かったことにできないか試してみる。こんなことではいけない。おかしい、おかしい。私はそんなキャラではない。

「ほら、座って」

テレビの電源を入れながら、枢がソファーを指す。初めて名前を呼んだあのソファーだ。

……いけない。変なことを考えるな。

「何か見たいのある?」

ノートパソコンを操作しながら、枢が話しかけてきた。テレビにもパソコンと同じ画面が表示されている。

……なんでこいつはこんな普通にしているんだ。いや違う違う、普通でけっこうだ。

やっぱり今の私はおかしい!

「……なんでもいいよ」

なんだか、無駄な口を開くと変なことを口走りそうだ。つい口数が少なくなってしまう。不機嫌な感じに見えてしまっていたりしないだろうか。

「……なに?」

頭のなかがぐるぐるしていて、ふと気がつくと枢が私をじっと見つめていた。

「いや、リリ可愛いなって」

「うん、そういうの大丈夫だから」

なんだか無性に大声を出したい。無駄に大騒ぎして有耶無耶にしてしまいたくなってきた。

本当に、どうして枢の部屋になんて来てしまったんだろう。


若い男女が部屋にふたりきりで、映画を見ている。こういうときに流すのは、どういうジャンルが正解なんだろうか。

「……一時間も見といてこんなこと言うとあれなんだけどさ」

何が正解だとしても、とりあえず映画に集中すれば変なことを意識しなくて済むだろうと思ってずっとテレビ画面だけを見つめていた私だけれど、ついに我慢できなくなってきた。

「あんまり面白くないよね、これ」

集中できるほど魅力がない。こんな中途半端な映画を眺めていたら、やっぱり隣に座っている枢のことを意識してしまうではないか。

ひとつのソファーに並んで座るなんて、あの雨の日と同じだ。あの日はどうかしてたし、あの日からずっとどうかしてる。こんな状態で一時間もじっとしてたら落ち着かなくて当然だ。

「……やっぱりダメだったか」

隣から、枢のあくび混じりの声がする。彼だってあまり面白いと思ってなかったらしい。

じゃあなんでこんなもの見せたんだっていう話だ。

「枢、見たことないの?これ」

「ないよ」

「なんでこれにしたの?」

「宣伝してたじゃない、一昨年くらい」

たしかに、この映画が劇場公開されていた頃にはテレビでも街中の広告でも盛んに宣伝していた。CMでにこやかに感想を語っていたあの人たちは全員ウソつきだ。

「せめて自分のオススメとかにしてよ……」

枢が映画を再生しているのは、月額で利用料を支払えば映画が見放題になる動画配信サービスだ。わざわざそんなものを契約しているということは、きっと映画が好きなはず。そんな一面は知らなかったけれど。

「あ、僕のオススメを知りたい?リリはもっと僕のことを知りたいんだ」

「そういうわけじゃない」

我ながら素晴らしい反射神経での即答だった。どきっとするからやめて欲しい。

「間がもたないじゃないの……」

枢の部屋でただそわそわしながら過ごすなんて、心臓に負担がかかりすぎる。だって隣に枢が座ってて、手を伸ばせばすぐに触れられるんだもの。

「じゃあ、何かお話をしようか」

このままでは口から心臓が出てきて死んでしまう。と思っていたら、枢がソファーから降りてパソコンをいじりながら呟く。

「あんまりふたりでじっくり話したことってないよね」

「あぁ……」

枢がパソコンを操作すると、テレビの画面もあわせて遷移する。そのまま眺めていたら、海外のドキュメンタリー番組が始まった。なるほど、集中して見るほどじゃないけれど、黙っても部屋が静かになってしまわないように、という配慮だ。

「でも、そんなに話すことってないわ、私」

最初からこうしておけばよかったのに、とか思いつつ、枢と話せるような話題を探す。

残念ながら、特にない。

「僕はたくさんあるよ」

枢がソファーに戻ってきて、隣に座る。そのまま手を握られたものだから、うっかり悲鳴を上げそうになった。この程度でうろたえてはいけない。手くらい何回も触っている。

「前にリリと美術館にいったよね」

そう言って枢が始めたのは、初めてのデートで行った美術館での展示品の話。あれから彼なりに勉強したのか、細かいことを私に聞いてきた。

「またああいうの見にいこうね」

「そうね」

枢がああいうのに興味を持ったのは驚きだけれど、それがどう考えても私のためだっていうのが分かるから、なんだか恥ずかしい。今だって、いろいろと聞いてくる内容がどんどん専門的な話になっていったものだから、そのうち私でも答えられなくなりそうだ。そんなに深くまで勉強したきっかけが私のためだなんて、これだから枢は……。

「さて、ちょっとはリラックスしたかな」

枢がそう言いながら、握った手に優しく力を入れる。そういえば、趣味の話をしていたからか、少しだけ落ち着いた気がする。

「うまいこと操られてる気がするわ」

「だってリリ緊張してるんだもん」

緊張してるなんて、そんなこと言われても困る。ここは彼氏の部屋だし、ふたりきりだ。

「緊張するに決まってるじゃない」

私はこんなにもどきどきしてるのに、枢はいたっていつも通りだ。そこがまた気に食わない。

「いいよね、枢は。なんか落ち着いてて余裕あるみたい」

こんなんじゃ、私ばかりが枢に振り回されてるみたいだ。嫌じゃないけれど、私だって少しは枢を振り回したい。

すると、枢が握っていた手を離した。

「僕だって余裕ないよ」

笑いながらそう言う枢の声が聞こえたと思った瞬間、いきなり身体が横から引っ張られる。

「ちょっと……」

気がつくと、私は枢に肩を抱かれるような形で彼の胸にもたれていた。

「ほんとはね、さっきからずっとこうやってくっつきたかったんだよ」

枢の声なんかほとんど聞こえない。

耳元から伝わってくるのは、枢の鼓動だろうか。私の心臓の音かもしれない。

「どきどきしてるの分かる?」

私の髪を撫でながら、枢が耳元で囁く。声なんて返せないので、私は頷くのが精一杯だ。

「昨日の病院からずっとだよ。リリがあんなことするから」

「……あんな、こと?」

裏返りそうな声でなんとか返しつつ、私が昨日やったことを思い返す。

病院で、枢に……。

「あっ」

忘れはしない。けれど、思い出すとものすごく恥ずかしい。

「僕はあれのせいで一睡もできなかったんだからね」

「嘘!寝てた!」

「寝てたよ。こうやってちゃんと目を閉じて、朝までぐっすりだった」

枢の手が、私の目元をゆっくりと覆う。

視界が真っ暗になった。

「なに、枢……」

なにをするつもりなのか。考えようとして、すぐに分かった。理解したときにはもう、唇は重なっていたけれど。

「リリ、可愛い」

「何もしないって言ったのに」

唇を離して、目元を覆っていた手も離れる。開かれた視界には、思っていたよりもずっと近くに枢がいた。

「こんなに可愛い子がほんとに僕と一緒にいてくれるんだ」

息ができなくなるほどの至近距離で、枢が見たこともないくらいふにゃふにゃと笑う。

完全に私と一緒にいることに幸せを感じている顔。ものすごく喜んでいる。

そんな顔を見せられたら、私だって嬉しい。幸せだ。

この幸せは、どうやって表現したらいいだろう。ものすごく伝えたい。とても幸せだと。

「かっこよくて優しい枢と一緒にいてあげる。ずっと一緒ね」

なんて月並みなことを言ってみたら、これは思いの外恥ずかしかった。慣れないことはしないほうがいい。このままではからかわれてしまう。

枢の声が返ってくる前に、私は彼の口を塞いでやった。


なんだか、枢の腕の中がすっかり定位置みたいになってしまった。先ほどまであんなにもそわそわどきどきしていたのが嘘みたいに、私はすっかり彼の胸に身体を預けてしまっている。

ぴったりくっついた胸から聞こえてくる規則的な鼓動に耳をすませていると、私の髪の毛をずっと撫でていた枢がぽつりと呟いた。

「初めて会った時のこと、リリは覚えてないよね」

胸から頭を上げて枢の顔を見る。冗談を言っているようではなさそうだ。

「初めてって、半年くらい前だっけ、もうちょっと前かな。覚えてるに決まってるでしょ」

さすがに、そんな最近のことを忘れるようなタイプじゃない。それに、最初の頃は枢の印象があまり良くなかったから、こいつ嫌いだ、と思ったのをよく覚えている。

私が枢と初めて会った日。つまり、婚約者であると両家の親に紹介されたあの日のことだ。

「馴れ馴れしくて、目線もやらしいし、なにこいつって思ったのよく覚えてるよ」

初めて会ったあの日から、枢は同じだ。最初からなぜか私との結婚にノリノリで、今はすっかり大人しくなったけれど、私のスカートを思いきり見ていた。

しかし、枢はどういう訳かくすくすと笑いながら首を振った。

「ほら、覚えてない」

「え?違うの?」

まるであの日よりも前に会ったことがあるかのような口ぶりだ。私には全く身に覚えがない。

「僕とリリは夫婦だったんだよ」

顔を上げたままだった私の頭をまた胸に抱きかかえ、枢がゆっくり話しはじめる。夫婦、なんて言われても、意味はよく分からない。

「何の話?」

「四歳の時だよ。会社の懇親会に、親に連れてかれたことがあったんだ。あれは八月だったかな、暑かったから夏だと思うんだけど」

枢は、なんとその時に着ていた服まで細かく口に出しながら、当時のことを思い出すように続ける。

「ホテルの会場でやってたんだけど、まわりはみんな大人ばっかりで、僕なんてまだチビだったから、全然楽しくなくてね。僕みたいに連れてこられた子供が集められてるスペースがあって、僕もそこを覗いてみたんだ」

親の会社の集まりに連れてこられた子供たち。言われてみれば、小さい頃に父に連れられて私もそんな所に行ったような記憶がある。

「その時に会ったの?」

私は全く覚えていないけれど、枢は「そうだよ」と頷いた。当時四歳。今は十七歳。十年以上も昔のことを、よく覚えているものだ。

「その時、みんなでおままごとしたんだよ」

「そうだっけ?」

一ミリも思い出せない。

「うん。初めて会った子供たちでおままごと。子供役が三人、それから、僕がパパで、リリがママだった」

枢が、その時のことを心から懐かしむような声で呟く。本当に思い出せないけれど、夫婦だったとはそういうことか。

「パパがお仕事から帰ってきたら、ママがおかえりなさいって言うんだ」

私の背中にまわされた腕に、少し力が入る。

「優しい顔して、僕におかえりなさいって言ってくれたのがリリだった。それが嬉しくて。僕はね、いつか自分も結婚する日がきたら、この子と結婚しようって決めたんだ」

枢の胸に顔を埋めて、耳元から滑り込んでくる言葉をじっと聞いている。

「あの日からずーっとリリのことが好きで、父さんが婚約の話を持ってきた時も、僕は絶対に断るつもりだった。でも、渡された写真を見てそんな気はすぐに吹っ飛んだよ」

渡された写真は、私。今もこの部屋の小さなテーブルに飾られている。

「あれ以来一回も会ってないのに、あの日のママだってすぐ分かった。十年以上ずっと片想いしてた憧れの女の子と結婚できるなんて、僕はすごく嬉しかったんだよ。だから……」

「枢」

まだ何か言おうとする枢の声を遮って、私は顔を上げた。彼の顔を見て、私からも言わなければならないことがある。

「ひどいことたくさん言ってごめんね」

十年以上も私のことを想い続けてくれていた枢に対して、私は散々なことを言いたい放題だった。態度も悪かった。嫌われて婚約の話がなくなればいいとすら思っていた。

「枢がそんなに私のこと……」

「リリは知らなかったんだもん。仕方ないし、怒ってないし、嫌でもなかったよ」

枢はずっと変わらなかった。ただ私のことを好きでいてくれただけ。最初からやけに馴れ馴れしかったのも、十年以上私のことを覚えていてくれたからだ。彼にとって、私はずっと近くにいたも同然なんだから。

「ごめんね。あと、ありがとね」

私のことを想い続けてくれていた枢にひどいことをたくさん言った。それなのに、彼は私を嫌いにならないでいてくれた。

そんな枢が愛おしくなって、またキスをする。

小さい頃、お遊びの夫婦だった時には出来なかったこと。その頃には想像もできなかったようなことを、これからはふたりで一緒にすることができる。忘れることなんて絶対にない。

「リリ……」

これまでよりもずっと長いキスのあと、枢が私を見つめながら優しく頬を撫でる。こんなにうっとりした顔で見つめられたら、どうにかなってしまいそうだ。

「ずっと昔からリリのことだけが好きだった」

頬に触れたまま、またすぐにキスをしてしまえるくらいの距離。しかも、枢は私のこと以外なんて見る気がないみたいに、まっすぐ私だけを見つめている。

もう一回、キスしてやろうか。

今度はもう少し、ちょっとだけ大人な感じのキスを。なんて考えたらすぐに恥ずかしくなってきて、枢に触れられたままの顔を少し引いてみる。

すると、枢が微笑んだ。

「ダメだよ、リリ」

どういう訳だろう。少し困ったような笑顔で、枢が私の顔を優しく引き寄せる。

「リリのことずっと好きだったって言ったよね。そういう男の前でそんな顔したらダメだよ。我慢できなくなる」

我慢だそうだ。

これまで我慢してくれていたらしい。

あんなことやこんなことをしておいて、我慢していたらしい。我慢していてこれなら、それをやめたらどうなってしまうんだろう。

「我慢なんてしなくていいよ」

枢になら、何をされてもいい。

「私は枢のものだから」

私がそう囁いた唇は、すぐに枢に塞がれてしまった。

今度は、少し大人のキス。

枢の腕が腰にまわされて、身体ごと引き寄せられる。全身がぴったりくっついても、まだ全然足りない。口のなかが温かい。

枢の膝の上に跨った私の太ももを彼の指が優しく這っても、まだまだ全然足りない。全身から火が出そうなくらい、全部が温かい。

私だってもう高校生。このままで終わりにできるほど子供じゃない。

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