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ーー4ーー

この一ヶ月くらい、学校にいても不思議と頭がぼんやりとしてしまう。授業にもいまいち集中できないし、人の話も耳を素通りしている気がする。

やっぱり、あの日はわりとどうかしてたと思う。なんだかちょっとおセンチな気分になっていたものだから、つい枢の部屋までついていってしまって、なんだかんだあって交際がはじまってしまった。

こんなのはよろしくない。あれはほとんど冗談みたいなものだった。というようなことを自分に言い聞かせつつ、制服のポケットで小さく震えた携帯電話を取り出す。

チャットアプリの通知だ。送り主は枢。一時の気の迷いのはずなのに、何故か頬が緩む。

『時間が余ったからちょっと観光。休みに入ったら一緒に来ようね』

実際に顔を合わせて話している時とは全然違う、簡潔なメッセージ。一緒に送られてきた写真には、有名な戦国武将の銅像が写っていた。

「仙台か……」

今日も、忙しい枢は遠いところにいる。今は三百キロ以上も離れているのに、明日の夜にはまた会う約束をしているというのだから、驚きだ。

『休める時にはちゃんと休んでね』

我ながら優しさに溢れる返信だ。送信してから、送ってくれた写真について何の言及もしていないことを思い出したけれど、特に何の感慨もないから別にいいだろう。

アプリの画面に私のメッセージが表示された直後、その上に小さなアイコンも表示される。枢が私のメッセージを読んだというアイコンだ。送信してから一秒も経っていないので、きっとアプリを開いたままだったんだろう。

『帰りの新幹線で休むから大丈夫。ありがとね』

素早く手短な返信と、可愛らしいキャラクターが大きなハートをこちらに差し出しているイラストのスタンプ。簡素なメッセージとスタンプのギャップが面白い。このイラストは、いつもの枢によく似ている。

私からも当たり障りのない返信をして、携帯電話をポケットに入れる。周囲の話し声を聞き流しながら机に頬杖をついて、なんとなくぼんやりと窓の外に目を向けた。

本当にどうかしてた。より正確に言うと、現在進行形でどうかしてる。

まさか、私が枢と本当に付き合うなんて、少し前なら全く想像できなかった。

この私が、あの枢に会いたくなるなんて。

「元気ないね」

ついため息を吐き出してしまったところで、隣から軽い声がかけられる。

「元気だよ」

「ため息をつく健康法か」

声の主に目を向けると、ぎょっとするほど不機嫌そうな顔をした女子生徒が私を見ていた。

「花ちゃん、怒ってる?」

「怒ってねぇよ、ブチ殺すぞ」

「怒ってる……」

小学校からの親友。ちょっと怖い顔をした夏川花火。いつも怒ってるようにしか見えない顔をしているけれど、性格の優しい子だ。ただ、口はものすごく悪い。

「リリがつまんなそうなのはいつものことだけど、なんかいつもと違う」

「そうかな」

そんなにいつもつまらなさそうな顔をしているんだろうか。

「あたしには分かる。リリのこと、リリのブックマークより知ってるから」

私の前の自席に横向きに腰掛けて、花火が私の額に人差し指を当てる。

「当ててやろうか?」

「どきっ」

なるべく冗談めかして声を返したけれど、こういう時の花火は意外と鋭いので、本当に少し緊張した。まあ、よく考えたら何を言われても別に恥ずかしいことなんてないから大丈夫だろう。

「リリ、太った?」

「えっ」

なんだと。

まさか。いやでもこのところ体重を測っていないから、もしかしたら太ってしまっているのかもしれない。いやしかし服がきつくなったわけでもないし……。

「冗談だって」

私があまりにもうろたえていたのか、花火は小さく笑って手を振った。激しくタチの悪い冗談である。もし小学校からの付き合いでなかったら、手が出ていてもおかしくない。

「やめてよ。本当かと思った」

「このところ食い過ぎた?」

「外食のしすぎかなって」

「そんなに?」

「週に二回か三回くらい」

花火に促されるまま答えて、私を見つめている目がすっと細められたのに気づいた。咄嗟に口元に手をやったけれど、もはや遅い。

「あぁ、男か」

「え、何で分か……あっ」

意地悪そうに細められた目が、悪だくみをするように私に向けられる。やはり花火はこういう時には何故か鋭い。それに、カマをかけるなんてずるい。

「リリもついにか。ついに恋煩いか。それでため息なんかついちゃってたんだ。可愛らしいもんだね」

からかうように笑う花火につられて、私もちょっと笑った。

「恋煩いか……」

けれど、私が枢に恋煩いと言われると、なんだか変な気分だ。

「付き合ってんだろ?」

「……うん」

改めて認めると、やっぱり恥ずかしい。どういうわけか、昔から花火には正直に白状させられてしまう。有無を言わせない変な迫力がある。顔がちょっと怖いからだろうか。もう少し優しい表情をしていればとても可愛らしいのに。

「リリに彼氏ねぇ」

どういうわけか、花火は私の顔を見ながら怖い顔でにこにこ笑っている。

「な、なに?」

「いやいや、大人になったなって」

「花ちゃんだってそんなに変わんないじゃない」

「あたしから長続きするアドバイスをくれてやろうか」

ひとしきり私のことを眺めてにこにこしていた花火が、そんなことを言って急に背筋を伸ばす。そういえば、彼女には中学の頃から付き合っている彼氏がいるんだった。

「……秘訣とかあるの?」

つい身を乗り出しそうになって、それだけはなんとか我慢する。あんまり枢に乗り気だと思われたら困るというか、夢中になっていると認めてしまったら困るのだ。私が。理由はとりあえず置いておくけれど。

そんなことを一瞬で頭のなかにぐるぐるさせた私を見抜いたのか、花火がまた人差し指を私の額に優しく当てて笑った。

「会いたい時は会いたいって言って、キスしたい時はキスしたいって言って、ヤりたくなったらパンツ脱いで抱きついてやんな」

「ちょっと……」

「素直になるんだよ。彼氏に素直になんなくて誰に甘えんのさ」

花火はそう言って、何故か少し顔を赤くした。

いつもちょっと怖い顔をして、私でも彼女の表情は片手で数えるほどしか知らない。けれど、そんな彼女の色んな表情を全部知っている人がいて、その人になら、彼女は素直に甘えられる。きっと、そういう相手と一緒にいられるのは幸せなんだろう。

「花ちゃん、彼氏のこと大好きなんだ」

私と枢は、きっとまだそれくらいの距離まで近づけていないと思う。けれど、いつかは私もそんな風に枢のことを想える日が来るかもしれない。

「あいつがいなきゃ生きていけないっていう相手だから付き合ってるんだ。世界一愛してないと一緒になんかいられないよ」

花火の愛はすごく大きい。

私もいつか、こんなことを枢に言ったりするのかな、なんて思ったら、恥ずかしいやら気持ち悪いやらちょっと嬉しいやらで、顔が熱くなってきた。


出張先から昨日の夜遅くに帰ってきた枢は、今日の昼間は丸一日ずっと部屋で眠っていたらしい。今日だって学校はあったけれど、さすがに倒れられても困るから、無理にでも登校しろなんてことは言わない。

「すっかり元気だよ」

いつものファミレスから出て、いつも通りの道を二人で並んで歩いている。もうすっかりお馴染みになってしまった。

「明日もお仕事なんでしょ?」

「そうなんだよ。せっかくの週末なのに、ごめんね」

ここ数日、枢は特に忙しそうだ。明日だって、きっと朝早いに違いない。それなのに遠回りして私を家まで送り届けてくれるんだから、私の方こそもっと感謝しなければ。

「送ってくれなくていいから、ちょっとでも早く帰って休めばいいのに」

答えは分かっているけれど、何回でも同じことを言う。

「少しでも長くリリと一緒にいたいからいいんだ」

枢のそんな言葉で胸が高鳴るなんて、以前なら考えられなかった。隣を歩く時に手をつなぐ事も、一緒にいる間はずっと会話が途切れないなんて事も、この一ヶ月で私と枢の距離感は急激に変化した。

「心配してるんだからね」

変化したといえば、私がそんな言葉をかけるようになった事も、驚くべき変化だろう。実際、本当に枢が無理をしすぎて倒れてしまわないか心配している。

「そんなに心配してくれてるんだ」

枢が嬉しそうな顔をして、私の手を握る力を少しだけ強くする。

「じゃあもっと頑張るね」

「無理するなって言ってんでしょ」

今だって必要以上に頑張っている。これ以上は、本当の本当に体力の限界がきてしまう。

もう少し強く心配しているということを伝えた方がいいかもしれない、なんて思って言葉を探していると、枢がぽつりと呟いた。

「ちょっとくらい無理しなきゃだめなんだ」

枢には珍しい、ものすごく小さな声。もしかしたら、私に聞かせるつもりなんかなくて、無意識にでてきたひとりごとかもしれない。

「……本当に無理しないでね」

枢の口からどうしてあんな言葉が出てきたのか、いまは聞かない事にした。

やっぱり疲れている。枢が私のために頑張って疲れてしまうなんて、それは少し嫌だ。

「何か、私に出来ることとかあれば言ってね」

何が出来るか、どこまでの要求までなら応えてやれるか考える前に、ついそんな事を言っていた。やっぱり、元気な枢でいて欲しいからなんだろうか。

「うーん?リリが何かしてくれるの?」

枢が立ち止まって、まわりをきょろきょろと見回す。私もちらりと周囲を窺ってみると、夜の住宅街なんて、人の姿はほとんどない。だからどうだってわけでもないけれど。

「じゃあ、ぎゅってしていい?」

周囲を見渡して人影がないのを確認した枢が、私に向き直って小さく囁いた。

「ちょっとだけぎゅってさせてくれたら、すぐ元気になっちゃうよ」

「……そんなことでいいの?」

この一ヶ月、手をつなぐ以上の接触をしてこなかった枢にしたら相当な冒険だ。それなのにどうしてだろう、そんなもんか、みたいな不思議な感情が湧きあがってきた。まるでもっとなにか、別のことを期待していたみたいに。

「もっとすごいのがいい?」

枢もそれを察したのか、悪戯っぽい笑顔で私の顔を覗き込んでくる。

「……べつに」

やはり、だめだ。もう枢に見つめられると自動的に胸が高鳴るような身体になってしまった。

「ほら、さっさとしなさい」

このまま顔を見られていると恥ずかしいので、枢は見ないようにして身体を向ける。さっさとしろとは言ったものの、どうすればいいのか分からないので、とりあえず腕は少し広げるような感じにしてみた。

「リリ愛してる」

枢がそれだけ呟いたのが聞こえたかと思うと、すぐに視界が何かに覆われた。

一瞬で前が見えなくなったと思ったら、後ろからも何かが私の背中を強く押す。

押し出されているのに、前からも抑えられている。

そして、顔の近くから、規則的な小さい音が聞こえる。

この鼓動が、いま私を包んでいるもの全てが枢の身体なんだと教えてくれた。

前も後ろも、全てが枢に抱きしめられている。

視界には枢しかいなくて、聞こえるのも枢の鼓動と呼吸だけ。私の背中を包んで髪の毛を撫でているのも、枢の手だ。

いま、全てが枢に包まれている。

抱きしめられるって、こういう感覚なのか。

温かくて、柔らかくて、胸の奥のどこか繊細な部分にゆっくりと息を吹きかけるような、むずむずした感覚だ。

「枢……」

頭がぼんやりしてきて、無意識に呟いた声がいつもと違うことにもすぐには気づけない。

「リリ、大好きだよ」

かつてないほど至近距離で目があった枢が、震えるくらい優しい声で囁く。

このままではどうにかなってしまいそうだ。

本当にこのままでは……。

「……ありがと、リリ。元気になった」

頭がぐるぐるしてきてまともな思考ができなくなろうかという頃、枢が優しく私の身体を離した。

「あ、うん」

急速に頭が冷えてきて、すぐに冷静になる。危なかった。何か良からぬ一線を越えるところだった。

「ありがとう。これで頑張れるよ」

晴れやかな顔をした枢が、本当にちょっと元気になった声で頷く。

「リリとの幸せな将来のために死ぬほど頑張るからね」

枢が私の手を引いて、馬鹿みたいに縁起でもないことを言う。大袈裟なやつだ。

「死なないくらいでいいわよ」

「じゃあ死にかけるくらい頑張る」

「まったく」

もうだめだな、私は……。

温かい手に優しく引っ張られながら、そんなことを思った。

私は、完全に枢に夢中になってしまったみたいだ。


枢と別れて家に帰ると、今日は珍しく父がいた。

「あれ、おかえり。早かったね」

現在の時刻は午後九時過ぎ。いつもより二時間は早い。

「今日は久しぶりにほぼ定時で帰ってきたんだ。何年ぶりだろうな」

「ふぅん」

言われてみれば、父がこの時間に帰ってくるのなんてもう何年もなかった気がする。

「……なんかあった?」

久しぶりに早く帰って来られたのは別にいいとして、父はやけに嬉しそうだ。既に少しお酒を飲んでいるようで、顔がほんのりと赤い。定時で帰宅できた程度ではこんなにはしゃいだりしないだろう。

「お、分かるか」

やや不審人物にすら見えるようなご機嫌な父が、黒い鞄から一枚の書類を取り出した。

「なにこれ」

「昇進した」

「は?」

自慢気に手渡してきた書類を見てみるけれど、何やら小難しいことがいろいろ書いてあって、読むのが面倒臭い。

「……昇進したってこと?」

ほぼ読んでいないけれど、父が昇進したと言っているので、それ関係の書類なんだろう。こういうのって社外秘とかじゃないんだろうか。

「そうだぞ。これで我が家は安泰だ」

「おめでとう。すごいねお父さん」

すごいことだ。本当にすごい。このところ枢が忙しく飛び回っているのを見ているからか、それなりの規模の会社で出世するのがどれほど大変なことなのか、少しは分かりそうな気がする。

「それでだな」

「うん」

「あの……」

書類を返すと、ご機嫌だった父が急に口ごもる。

「どうしたの?」

ご機嫌ではあるけれど、なにかが言いにくそうだ。ただ、こういう場合はだいたい大したことではない。これまでも、この感じで切り出されて困ったことなんてなかった。

「あぁ、うん。実はな、社長の息子さんと結婚しようかって話、あれ無かったことにできそうだ」

ほらみろ。

今回だって……。

「……は?」

「だから、社長の息子さんと婚約の話があっだろ?あれはやっぱり無しにして、取引先のお嬢さんと、みたいな話が出てな」

「うん」

「で、先に婚約の話をしてたうちを社長が色々と気にして下さってな、けっこうな重役の席を用意してくれたんだよ」

「ああ、そうなんだ」

なんだろう。急に胸のあたりが冷え込んできて、話が頭に入ってこない。

「リリ嫌がってたし、このところ息子さんとよく出かけたりして、無理させてたろ?もう気にしなくていいからな」

まだ何か喋っている父の話を聞き流しつつ、頭のなかでゆっくりと話を整理する。いろいろと手を尽くして、なるべく核心の部分はぼかすように。

けれど……。

「つまり、婚約の話は無しってこと?でいいの?」

どうしても、そういう結論にしか至らない。

「そうだ。別の会社のお嬢さんと結婚するって事らしいからな」

私と枢の結婚はキャンセル。

そして、枢は別の女と結婚する。

急な話ではあるけれど、仕方ない。

「うん。良かった」

たしかに、あまり乗り気じゃなかった。こうなる事を望んでいたわけだし、ちょっと前の私ならものすごく喜んだはずだ。

頭がくらくらする。

「私、今日はもう寝るね。おやすみ」

早く自分の部屋に逃げ込まなければ。

「あぁ、おやすみ」

不思議そうな父の声を背中に聞きながら、足早に廊下を進む。右足と左足のどちらを動かしているのか分からない。転びそうだ。

ようやく自室の扉の前に立っても、ドアノブを握る手に力が入らない。

「……おかしいな」

両手でドアノブを掴み、身体ごと扉を開ける。そのまま足に力が入らなくなって床に座り込んでしまった。

「枢……」

震える手でポケットを探り、携帯電話を取り出す。電話帳から枢の電話番号を探す事すら、震える指では難しい。

「もしもし?どうしたの?」

三コールめで電話に出た枢は、先ほどまでと同じ優しい声だった。

「枢……」

枢の優しい声に引き換え、息苦しさから必死に絞り出した私の声はものすごく汚い。息も上がっている。電話の向こうからこんなに荒い呼吸を聞かされたら、私だったら変態だと思うくらいだ。

「リリ?どうしたの?」

「かなめ……」

頭のなかでぐるぐるしているいくつかの言葉を、なんとかして必死に並べ替える。

目が回る。

気持ち悪くなってきた。

「かなめ、私……」

「……大丈夫?」

さすがに変だと思ったのか、電話の向こうで枢がいつになく真面目な声を出す。ダメだ。もう少し冷静にならなければ。

ひとつ深呼吸して、荒い呼吸を整える。

咳払いして、汚い声も少し修正する。

それから、もういちど深呼吸。

「枢……」

「うん。どうしたの?」

「……結婚、しないって、ほんとなの?」

結婚しない。

そう口に出した瞬間、どうしようもないくらい冷たい感覚が胸を突き抜けた。

結婚はキャンセル。

私と枢の関係もおしまい。

「……リリ?」

あんなにざわざわして呼吸を狭めていた胸の鼓動も、いまは不自然なほど落ち着いている。

虚無感とでもいうんだろうか。

声に出して言ってみたら、胸に何か寒々しいものが、すっと馴染んでいった。

「……聞いたの?」

電話の向こうから、枢の声が小さく聞こえる。彼は知ってたらしい。それはそうだ。彼には新しい相手がいる。

「リリ、聞いて。たしかに結婚の話は……」

「無しになったんでしょ?」

「なったけど、でも」

「じゃあ、もう終わりだね」

枢には結婚の決まった相手がいるんだから、私なんかに構っていてはいけない。

容赦なく胸に広がっていく虚無感が、私の口からどんどん言葉を吐き出させていく。きっと頭を経由していない言葉は、自分で聞いていても笑えるくらい冷たくて、渇いている。

「今までありがと。身体に気をつけてね」

「待って、リリ……」

「大好きだった。さよなら」

枢の言葉は聞かず、すぐに電話を切る。

投げ出した携帯電話から、通話が終了した事を知らせる電子音がかすかに聞こえてくる。

終わった。

これで終わった。嫌だった婚約も、胸が苦しくなるくらいの恋も。

なんの感情も示さない電子音が、また私の胸をざわつかせる。

私は制服のままベッドに潜り込んで、布団を頭まで被った。

このままでは、父と母に聞かれてしまう。

いくら拭っても涙が止まらないんだから、こんな時に声なんて我慢できる気がしなかった。

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