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エピローグ

いろいろなことがあったけれど、僕はもうすっかり大人だ。今はもう大人だといっていいだろう。大人になったなって思ってから振り返ってみると、高校生の頃なんて子供もいいとこだった。

「……じゃあ、はい。明日ですね。はは、分かってますよ、僕を誰だと思ってんですか」

取引先との電話を切って、小さくため息をつく。相手は、ほんの一瞬だけ僕の婚約者だった朝倉椿の夫。自分の勤める会社の社長の娘を嫁にするなんて、けっこうな勇気だ。しかも結婚したのは新卒二年目。

当時はまだまだ下っ端だったのに、彼は数年でどんどん出世した。椿のサポートは確実にあったろうけれど、僕だってたまに驚かされるくらいやり手だから、きっともともと優秀だったんだろう。

ここ数年でいろいろなことがあった。

ある程度の目的を果たしたあとは、僕も真面目に高校に通うようになった。友達も少しは増えた。

あの頃に変な縁があって、違う高校の生徒と友達になったのが特に印象深い。そいつは、いまでも仕事抜きで会える数少ない友人のひとりだ。

大学も普通に通った。美しい恋人とふたり暮らしを始めたのがこの頃。振り返ってみればいろいろあったようで、高校時代に比べると圧倒的に平和な四年間だった。

大学を卒業して父の会社に入ったのが二年前。結婚したのもその頃だ。結婚式をあげたのは半年前だけれど。

それなりに忙しい仕事、おかげで余裕のある生活。仕事の忙しさと比較してみると、プライベートにはその数倍の癒しがあるので、今の僕はものすごく幸せだ。

結婚してから引っ越してきたマンションにたどり着く。望むものは全て手に入れてきたけれど、持ち家だけはまだだ。それもそう遠くないうちに手に入れてやろうとは思っているけれど、今のところはまだ賃貸に暮らしている。

オートロックのエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。通り過ぎていく各部屋の扉の向こうにはそれぞれの生活があって、僕の目の前にある扉の向こうには、僕の幸せな生活がある。

全てはあの日からはじまった。

四歳の頃に連れて行かれた会社の懇親会。

あの日に出会った女の子は、本当に僕の奥さんになってくれた。

玄関の鍵を開ける。

「おかえりなさい」

部屋に入ると、大人になってさらに可愛くなったリリが迎えてくれた。あの日と同じだ。でも、これはおままごとじゃない。

リリの顔を見ると、そんなに疲れているわけでもないけれど、一日の疲れなんて全部吹っ飛んでしまった。

「ただいま」

人生がこんなにうまくいくものだとは。

頑張ってみるものだ。まあ、頑張ろうと思えるだけのモチベーションを保てるかどうかという問題はあるけれど、僕の場合はリリがいたから、常人の数倍は頑張ることができた。

リリが側にいてくれれば、この先もずっと頑張れる。

「リリ大好き」

「なに、急に。いつもだけど」

いつものことだって分かってるくせに、すぐ顔が赤くなる。

この顔を見ると、いつまでも一緒にいられるだろうって気持ちがより強くなる。

やっぱり、僕はリリが大好きだ。


おしまい

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