過去
「うわあぁぁ!」
現実世界に戻ってきてもう10分は経過するのに未だに泣いたままでいる冷鳴の傍で、クロネは言った。
「ここにいてもどうしようもない。今は鏡歌の休養を最優先で考えよう。」
クロネの指示で華矢と思夢は鏡歌の肩を持つ。
「ありがとな・・・そうしてくんねぇと、私はまともに歩けねぇ。光を失うって、こんなに辛い事なんだな。」
鏡歌は何も映らぬその目で大地を見つめる。
「皆には迷惑をかけちまったし、今もかけてるよな。ほんとにごめん。」
「いんだよ、こっちはむしろ助けてもらった身なわけだし、あんたは充分すぎる程のモノを失った。こんなのただの自己満足でしかないよ。」
未だに現実を受け入れられないでいる冷鳴は泣きながら後をついてくる。
「清斧女・・・さん?」
思夢の言葉に対して鏡歌は「名前で気安く呼んで良いよ」と言う。
「あ、はい。鏡歌さんはどうして皆で戦うことを避けたんですか?」
鏡歌は思夢の疑問を聞いて少し黙り込み、その後「それは今聞かなきゃダメなことか?」と問う。
「いえ、大丈夫です。」
そうとだけ言って会話は終了する。
「鏡歌の家はここで良いよね?ここからは感覚で行けるかい?」
クロネは鏡歌に質問する。
「冷鳴にはついてきてもらいたい。」
後ろで泣いていた冷鳴は涙を拭い切って鏡歌の肩を持つ。
「あなた達には迷惑をかけたわ。ここからは私だけで行く。今日はありがとう。」
冷鳴はお礼だけ言って鏡歌を連れて建物の中に入っていく。
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鏡歌の部屋の中に着くと、冷鳴はベットに鏡歌を寝かせる。
「しばらくは私が看病するわ。目の調子が良くなることはないでしょうけど、せめて記憶からは私の顔を忘れないでね。」
「冷鳴、ほんとにごめんな。でもこうするしかなかったんだ。」
「分かってる。分かってるけど・・・」
部屋にしんみりした空気が漂う。
「昔話をしよっか。」
鏡歌が口を開いたかと思えば、放った言葉はそんな事だった。
「私らが夢喰少女になった理由ってさ、あいつが始まりだったんだよな。」
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「鏡歌!冷鳴が・・・」
深夜1時を回った辺りで突然電話が鳴るもんだから、出て文句を言おうとしたらその相手は友達の黒金綾香だった。電話の内容は冷鳴の親から来た内容で、冷鳴が睡眠中にとんでもない程の唸り声を上げているとの事。過去にそんな事がなかった為、医者の娘である私に電話が回ってきた様だ。
親は直ちに冷鳴の様子を確認してみたものの、原因は一切不明で、どうする事もできなかった。私と綾香は外の空気が吸いたいと外で話していた。その時、一匹の黒猫が問いかけて来た。
「夢喰少女になって彼女を助けないかい?」
綾香が決めるのは早かった。「友を助ける為なら」その一心で夢喰少女になることを決めた。その瞬間綾香は頭を抑えて唸り始める。数分もがき続けたのち、綾香の体が白い光を放つ。その光が消えた時夢喰少女となって変わり果てた姿となった綾香がいた。綾香は私に言った。
「鏡歌、あなたは夢喰少女にならないで」
最初は意味が分からなかった。
状況が掴めぬまま、私ら2人は冷鳴の夢の中に入り込んだ。
中にいたのは絶望に身を沈められた冷鳴と巨大なスズメバチと無数の蜂であった。なんとか冷鳴は隠れている様子だったが、このままではいつ冷鳴が殺されるかなんてわからない状態だった。
綾香は鎌を構えてスズメバチの方へ飛んでいく。物凄い攻防だったが、みるみる綾香から疲労が出始めているのが見えた。
なにもできない自分が惨めだった。その時、綾香は死んだ。押され切ってスズメバチに殺されたのだ。その時私は決意した。冷鳴と私だけでも助かろうと、綾香の仇をとってこいつをめちゃくちゃに殺してやると。
言葉が出るよりも先に私は夢喰少女になっていた。なる際に異常な程の頭痛に駆られたが、今はそんなのなんて全く気にならなかった。
「君は何かを捨てる事で力を発揮できる。」
黒猫は私と契約した際にそんな事を言った。私は綾香との最後の約束を捨てた。力が満ち溢れていた気がした。
「殺す・・・」
私は人間離れした力でスズメバチに猛撃を与えた。十数分にも渡る一方的な攻防の末、私はスズメバチを殺した。冷鳴は変わり果てた私の姿を見て絶句した。
冷鳴は綾香が亡くなった事を知ると、性格が一変した。今までのお嬢様の様なおしとやかな態度は無くなり、私と同じ夢喰少女にもなった。
2人の夢喰少女は心に決めた。この世から怪物共を殲滅させると。
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「懐かしいわね。」
冷鳴は昔の事を思い出して少し悲しげな声を出す。
「あれから1年近く経った訳で、千羅も失った。華矢は千羅の事についてまだ怒ってるはずだ。お前と華矢の2人で行動している時、いつその事で揉めるかもわからない。その時は私と千羅の引き金の話をして納得させてやってくれ。あと、思夢だけは絶対に夢喰少女にさせないでくれ。」
冷鳴は鏡歌の言葉を聞いて少しだけ頷く。
「あなたの為にも私は絶対に夢食怪物共を殲滅させるわ。その時はまた一緒に、思う存分遊びましょう。」
冷鳴は鏡歌を抱きしめる。
「そういうとこは昔と変わんねぇのにな。」
「うるさい・・・」
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いつもの公園で思夢と華矢、そして黒猫のクロネがベンチに集まっていた。
「思夢、過去何回か夢喰少女を見て来たと思うけど、経験者として言えることがある。この仕事は絶対にやるな。いつあんな目に合うかもわからない。それに思夢は千羅さんに助けてもらったその命を無駄にしないでほしいんだ。」
思夢は自分の手の届かぬところに行ってしまった華矢を見て言った。
「私と華矢はどこに行くにも一緒だったでしょ?なら私もなるよ。」
「そんな軽い気持ちでなって欲しくないし、例え私らが離れても、友達じゃなくなる事はないだろ?だからお前は自分の命を大事にしてくれ。私も自分の選んだ選択が馬鹿らしく思えてきちゃったんだ。同じ事を感じて欲しくないからさ。」
華矢はベンチから立ち上がり伸び上がる。
「もう時間も遅いし、帰ろっか。」
公園の時計に目を移すと、時間は既に1時を回っていた。華矢はそっと携帯をいじり、誰かを呼び出した。
早くも2章目終了!気付いてる人はいないと思いますが、投稿ペースが3日に一回ペースになりました!どうしてこうなったかは秘密ですw
なんだか不思議な展開になってきたのではないでしょうか?過去に何回か登場していた引き金とはなんなんでしょうかね?まぁ、それは次回の話なので、この辺にしましょう。
私の執筆しております、本編の「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている」の復活タイミングについては不明なのですが、しっかりストックはしております。気分によって書く小説を変えられるのは嬉しい事ですね!その「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている」なのですが、番外編を執筆中でございます。執筆完了次第「夢喰少女」と「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている」と「活動報告」の場で公開させていただきます。かなり濃い内容となっていますので、お楽しみに!
それとですね、「夢喰少女」の読み方なのですが、本編中では「ドリマー」となっていますが、タイトルとして読む分には「ゆめくいしょうじょ」です。まぁ、この読み方が今後の展開に影響したりするのかもしれませんけどねw
以上、伏線大好き人間・うすたくでした!




