表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢喰少女  作者: うすたく
運命
7/24

代償

「てやあっ!」


 ギュイィィン!


 何度となく剣を打ち付ける華矢だったが、それらの攻撃は全て楽器達に弾かれる。骸骨が指揮棒を振るった瞬間、大太鼓のバチが飛んでくる。


 ゴォォン!!


 華矢はそれに直撃し、大きく吹き飛ばされる。


「あぁぁっ!!」


 ズドォォォ!


 飛ばされた先にある巨大な岩の中にめり込む華矢。


「馬鹿・・・夢食怪物を1人で倒すなんて、無理なんだよ。」


 ボソっと何かを呟いた鏡歌は斧を取り出して骸骨の方へ飛んでいく。


「死ねえっ!」


 斧を大きく振りかぶるものの、タンバリンのガードによってあっさり防がれる。


「こいつ、今までのやつとは比べものにならないっ!」


 ズガァッ!


 鏡歌はピアノの下敷きになり地に落とされる。


 やられたのか、華矢も下に突き落とされる。


「はぁ、はぁ、手伝わなくていいって言ったはずでしょ?」


「こいつは1人じゃ絶対に倒せねぇよ。」


「ならば私も参加するわ。」


 後ろから冷鳴の声がする。振り向くとそこには槍を構えた冷鳴がいた。


「冷鳴もようやく参戦するようだね。」


 遠くから観戦していたクロネがボソリと言う。


「行くぞ!」


 鏡歌の合図と共に3人は高速で骸骨の方へ向かう。しかし、何人でかかっても楽器の力によって攻撃が防がれる。


「こいつ・・・強すぎる!」


 未だに骸骨本体にこれといった強力な一撃は入っていない。ここまで防御力の長けている夢食怪物は鏡歌と冷鳴ですらも見たことがなかった。


「鏡歌、あなたは私の行く手を阻む楽器を潰す作業に専念してちょうだい。」


 冷鳴は突然指示を出す。続いて華矢にも指示を出した。


「華矢、あんたは骸骨の気を引くように大きく行動して。」


「そんな、初対面のやつの言うことなんて・・・」


「そんな事言うなって、こう見えても冷鳴の作戦はかなり優秀なんだぜ。」


「行くわよっ!」


 冷鳴は骸骨に静かに向かっていく。そしてついて行く鏡歌。


「なんで指示に従わなきゃなんないのよっ!」


 華矢も仕方なく骸骨の注意を引くように動き回る。


(攻撃する事なんて考えなくて良い。意識をこっちに向ければ良いんだ。)


 作戦通り骸骨は華矢を集中的に狙い始める。


 しかし、飛んできた音符も逃げる専門の華矢にはなかなか当たらない。


 その隙にどんどん接近する冷鳴と鏡歌、行く手を阻む骸骨の楽器なども片っ端から鏡歌が仕留めて行く。2人が骸骨本体の足元に到着する。


「ここからが本番よ。」


「わかってる。」


 2人はアイコンタクトを取る。冷鳴が骸骨の方へ手を振る。その合図に従って2人は骸骨の体を眈々と登って行く。上へ上へと進み、冷鳴が致命傷を与えられそうと判断した場所で足を止める。


「鏡歌は骨の粉砕作業を頼むわ。私は最も大きくダメージが与えられそうな場所を探してそこを刺す。」


 鏡歌はコクリと頷き、それぞれ冷鳴の指示通りに動く。


 バキィィン!!


 鏡歌は巨大な斧で1本ずつ骨をへし折って行く。いつ気づかれるかわからない。それは全て華矢にかかっている。


「意外と堅いな・・・あと3本は折たいところだな。頑張れよ、華矢!」


 2人の活躍の中、骸骨の体を巡回して弱点を探す冷鳴。


「どこ?頭蓋骨ならかなりの致命傷にはなるはずだけど、気づかれる可能性はかなり高い。・・・わかった!指揮棒を持つ右手の関節を固定すれば!」


 冷鳴は直ちに右肩の方へ向かう。


 5m、4mと右肩まで接近した時


「グガァァァォォォ!!!!」


 突然巨大な声を出した骸骨と共に無数の楽器が動き始める。


「なに・・・が?」


「まさか、鏡歌の攻撃に気付かれた?」


「違う、私の回避した位置が鏡歌の付近だった・・・」


 3人は意思疎通でもしているかのように同時に同じことを考える。


「ダメ、これじゃあ右肩を刺せない。華矢!鏡歌!一旦引いて!今はこれは危険よ!」


 指示を聞いて3人は骸骨から身を隠す。


「冷鳴、あれどうすんだよ。」


 鏡歌は少し困った表情で問う。


(つよ)いと言うことはわかってた。でもここまでとは・・・」


「あんたらがいつもあれと戦ってるのかと思うと、凄いな・・・」


 なにやら2人を見直している様子の華矢。


「それより、致命傷となりそうな部位は見つけたわ。指揮棒を持つ右腕。あれを破壊すれば楽器の演奏が止まるかもしれない。でも、剣での破壊は望めそうにないわ。剣は部位破壊に向いている武器種とはいえない。私の槍で関節固定か鏡歌の斧で粉々に粉砕するかのどちらかね。」


「私がやる。いや、私1人で良い。確実にやる方法がある。」


 名乗り出た鏡歌のセリフに冷鳴の背筋が凍る。


「まさか鏡歌!」


「まだなにを捨てるかなんて決まってない。でも、このやり方の方が殺れる確率は高い。」


 鏡歌は立ち上がり物陰から離れて骸骨を見つめる。


「この場にいる全員を助けられるのなら、何かを失っても軽いもんだ。このレベルの相手、視力程度でなんとかなるだろう。」


 鏡歌は目を瞑り、息を整える。


「冷鳴、もうお前の顔を見ることはできなくなるかもしれない。例えそうなったとしても悲しくは思わないでくれ。だから最後に、冷鳴の顔を見せてくれ。」


「嘘・・・やめて!まだ早いでしょ?行かないでよ!」


 鏡歌は慌てふめく冷鳴を抱きしめる。


「わたしって本当に馬鹿だよね。自分でも言えちゃう位の。良くあいつに言ってたよな、お前は優しすぎるって。本当に優しすぎるのは自分なのかもな。誰かを救うために自分を捨てるなんて・・・わたしって本当にバカ・・・」


「行かないでよ・・・鏡歌!!あなたを失ったら私はどうすればいいの!?」


 鏡歌は冷鳴を離し、斧を構える。


「死ぬとは言ってないだろ?絶対に生きて帰ってくるからさ。」


「行かないで!死なないで!」


 鏡歌は全力ダッシュで骸骨の方へ向かっていく。道中の楽器達も木っ端微塵にしていく。


 ズザザザザァッ!!


(あいつは言ってたっけ、友達を救うためならなんだってするって、誰かを助けられるのなら自分が死んででもそれをこなすって。最初はバカみたいだなって思ってたけど、同じ立場に立てば分かる。私もそうしてる。今も)


 骸骨の飛ばしてくる楽器を華麗に避けていく。


「死ねぇっ!!!」


 鏡歌は大きく飛び上がり、一気に指揮棒を持つ右腕まで上昇する。


 グシャァッ!ズシャズシャズシャッ!ズザァッ!


 斧で滅多打ちにして指揮棒を持つ手を切り落とす。その瞬間何かを演奏していた楽器達が止まる。


「グガァァァォォォ!!!」


 骸骨は再び雄叫びをあげる。


「なんで私らがあんなに苦労したのを1人で・・・」


 華矢が疑問を持つ。すると先程まで遠くにいたクロネが現れる。


「あれが彼女の引き金(トリガー)だ。」


引き金(トリガー)?」


 クロネはコクリと頷く。


「要するに、圧倒的な力をもたらす技ってことだよ。」


「死ね、死ね、死ね死ね死ねぇっ!!!」


 ズザシャアッ!!


 鏡歌は骸骨のありとあらゆる部位を消し去って行く。


「はぁ、はぁ、だんだん見えなくなって来た・・・次で最後だぞ・・・」


 鏡歌は斧を上に放る。高く放られた斧は千羅の時と同様に姿を変える。先程よりも重く、長い斧になり、さらには赤黒いオーラを纏った。


「トドメだぁっ!!」


 グシャァッ!


 骸骨の頭部を一刀両断する。その瞬間骸骨と楽器達は白い光に包まれて消えていく。


 消えて足場を失った鏡歌が上から落ちてくる。


 ドサッ!


「「鏡歌っ!!」」


 クロネと冷鳴が鏡歌に接近する。


「ごめ・・・んな、冷鳴・・・もう、目が見えなくなっちゃった・・・お前の顔を見ることはもう一生できなくなっちまった。」


 鏡歌の光を失った瞳から無数の雫が零れ落ちる。


「泣いちまった・・・私らしくないよな。」


 冷鳴もこぼれそうな涙を堪える事ができずに泣いてしまう。


「バカ・・・やめてって言ったはずなのに・・・ほんと、あんたって・・・ばか、バカバカバカ・・・」


 クロネは鏡歌を上から見つめる。


「かなりの重傷だね。しばらくは戦いに復帰はできないだろうし、視力を取り戻すこともできない。君は休んでいるといい。」


「鏡歌さんは一体なにを・・・」


 思夢は鏡歌を見て問う。


「私らと夢の所持者を助けた。自らの視力を捨てて。ほんとになにやってんだよ。」


「とりあえず夢の所持者を解放させるよ。」


 クロネの号令によって夢の世界から現実に戻ってくる。そこは思夢達の街にある鉄塔の上だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ