再開
「私は来る意味無かったか・・・。」
冷鳴は小さく微笑み、その場を後にする。
「もう一度、夢喰少女をやってみればいいんだよ。」
「は?」
聞き間違いだろうか、でも今確かにクロネは・・・。
再度遠目から二人と一匹の光景に目を向ける。
「もう一度?」
クロネは頷く。そのあまりの状況に、クロネ以外の全員は呆然と立ち尽くしている。
「千羅の意思を引き継いで、今度は彼女達を守る努力をしようよ。もちろん思夢もね。」
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「もしも私が困ったら、その時は訊乃に選択を任せるかもしれない。だから、お願いね。」
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任せる・・・か・・・。
「分かった。もう一度だけやってみよう。」
クロネは口を綻ばせ、不敵に見えるかの様に笑う。
「5人目の夢喰少女・奏杖訊乃。これからは間違っても仲間割れはしないでくれよ?」
その光景を目の当たりにした冷鳴は我を失い、自分でもどこを見てるのか分からなくなっていた。
「そこで傍観してる槍見冷鳴。この前はごめんな。」
「っ!!??気付いてたの!?」
冷鳴はあまりの展開に顔を赤く染める。なにも出来なかった自分が情けなく思えてきた。
小さくため息をつき、冷鳴は2人と一匹の間に走っていく。
「お前、足大丈夫なのか?」
「まだ少し痛むけど・・・よろしく。」
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「思夢の奴、大丈夫かな。」
華矢は思夢の言う、誰かが見てるというのを気に留めていた。それが誰なのかはなんとなく予想がついてはいたが。
「そういえば、昨日聞こえた声はなんだったんだろうな・・・。」
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「目が見えないって、やっぱり不便だな。家の構造は自然と暗記できてるから問題ないけど、下に落ちてる物は予測もつかないし。冷鳴には申し訳ないけど、色々手伝って・・・っ!?」
鏡歌は足を止める。そして、自分の持つ引き金の条件を思い出す。
①能力を発動するに当たって、汝の持つ何かの内、何かを失わなければならない。
②失ったものの価値の高さによって、引き出される能力は左右される。
③捨てるものは、自分の身の何かでなければならない。
④失う物は、物理的な物でなくても構わない。
⑤一度失ったものを再度失う事はできない。
⑥誰かを失うことでその才能を開花させることも可能。
⑦失ったモノを取り戻す事は、基本的に不可能とされる。
基本的に不可能。それは、ある一定の条件をこなせば不可能ではないということ。
「出来るかもしれない。取り戻すことが・・・。」
鏡歌は見えない目を瞑り、手を頼りに部屋から出て行く。
「次の戦い、参加しよう。」
鏡歌は手をグッと握りしめ、部屋をゆっくや出て行った。
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「思夢と冷鳴は千羅の事を少ししか知らないだろうから、話すとしよう。訊乃も知らない、千羅の物語を。」
その場にいた3人の夢喰少女は息を呑み込んだ。
「これは、千羅が訊乃を失ってからの話だ。千羅の引き金は<絶望>過去にないほどの大きな悲しみを味わった時に発動する、持続型の引き金だ。その引き金は、訊乃を失った時に発動した。それ程までに君を大切にしてたのだろうね。」
クロネは訊乃を見ながらそう言った。
「本来なら、鏡歌と冷鳴には千羅と一緒に戦ってもらうはずだったんだ。でもそれは、訊乃がいればの話。しかし、仲間を得れば千羅の引き金が解除される恐れがあった。千羅の引き金が消えるということは、3人とも死んでしまう可能性があるということ。」
冷鳴は顔を俯かせる。思夢は2人の表情の変化を伺っていた。
「それを避けるために僕は2人と千羅を別々に戦わせた。だから千羅は2人の存在を知らない。そして、どうして訊乃がここに存在するのかという話だ。これは当事者の訊乃から話してもらった方がはやいだろう。」
訊乃は涙を拭って、口を開き、話し始めた。
「私と千羅の前に現れたのは、子供の夢に出てきた夢食怪物だった。子供の無邪気さから生まれるそれは、非常に凶暴で、2人では太刀打ちできなかった。その場を奪還するには、引き金を発動させるしかなかった。でも、私の引き金は、自由に発動できないんだ。そんな事わかってた。」
訊乃は涙ながらに語り続けた。
「クロネは言った。どちらかが死んで、1人が生き残るか、2人とも死ぬかを選べと。私は言われた瞬間に決めた。2人とも生き残る選択を。私は千羅の引き金を知っていた。私が目の前でいなくなる所を見れば、千羅の引き金は発動する。私は夢食怪物の攻撃をまともに受けて、その場から抜け出した。それを目撃した千羅は怒り狂い、夢食怪物を完膚なきまで叩きのめした。」
「じゃあ、千羅さんは訊乃さんが生きてる事を・・・」
思夢の質問を全部言い切る前に訊乃は答えを返した。
「知らなかった。千羅は私が死んでると思い込んでいた。それ以来、千羅は夢食怪物を、<モンスター>と呼ぶ様になった。」
思夢は、初めて千羅にあった時の記憶を掘り返す。
「消えろ、夢食怪物!!」
確かに今思えば不思議だったかもしれない。どうしてモンスターと呼ぶのか、疑問しか残らなかった。
「いつしか、千羅の記憶からは私の存在は消えていた。ただ、誰かを失い、それを二度と起こさないというたった一つの誓いの為に戦っていた。」
訊乃顔は涙で濡れていた。クロネは言った。
「彼女に話し続けさせるのもかわいそうだね。ここからは僕が話すよ。そんな千羅に、守るべき存在ができた。自分よりも誰かを護る、訊乃によく似た人を。」
その場にいた全員はそれが誰なのかを悟った。
「そう、桐生思夢だ。守るべき存在ができてしまった事で、彼女の中にあった孤独の檻が壊れ、絶望が希望へと変わった。それが彼女の死に繋がった。」
過去にこれまで重い「死」という言葉を聞いたことがあっただろうから・・・。
「絶望が希望へと変わる、それは故に彼女の引き金が解除されたことを意味する。引き金なしでは夢食怪物には勝てない。思夢は目の前で千羅の死を目撃した。」
私がいなければ千羅さんは・・・そんな思いが身体中を駆け巡る。
「でも、君の存在は大事だった。君がいなければ今頃千羅は1人で悲しみに暮れながら戦っていただろうし、訊乃も辛い思いをしてただろう。それと・・・」
クロネは余韻を残す様な言い方をする。
「僕にクロネという名前を付けてくれたのは、銃城千羅だよ。」
夢喰少女の5章目ラストでございます。奏杖訊乃が新たに加わったわけですが、実はこの訊乃という名前、私のもう1つの小説のキャラと同じ名前なんです。漢字こそは違うものの、これは失態です笑 今後、使い分けを失敗してしまう事もあるかもしれませんが、どうか生暖かい目で見守ってください。
さて、本題です。近々、私の作品の番外編が公開されるかも知れません。完成はしていないのですが、一章はそこそこ完成しております。現在は思夢が主人公としてストーリーが進んでおりますが、その番外編では別キャラのそれぞれの過去を執筆していきます。本編でも、訊乃と千羅の過去編が出てきそうな雰囲気ですが、番外編はもっと深くまでいきます。それでは、次の章もお楽しみください!




