表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢喰少女  作者: うすたく
戦友
16/24

追尾

「誰かに見られてる?」


 つい先日から感じ始めたこの例え用のない奇妙な感覚について、華矢に話す。


「うん。断定はできないんだけど、常に視線を感じてるっていうか・・・」


 華矢は周囲一帯を見回した後、こう言った。


「別に何も感じないけど、ただの思い過ごしじゃないか?」


「なら良いんだけど・・・」


 そんな事を言われても、やはりその視線は感じ取れる。誰からの視線だろうか・・・


 -------


「鏡歌、まだ確信はないのだけど、私達夢喰少女(ドリマー)にかつてない事件が起きそうよ?」


「なにかあったのか?」


 鏡歌は冷鳴に鋭い眼光を向ける。


 冷鳴はコクリと頷き、あった事情を口にする。


「私達の1世代前の夢喰少女が現れたの。奏杖訊乃(そうじょうきくの)。奇妙な人だったわ。」


「奏杖訊乃か・・・具体的にどんなやつだった?」


 すると冷鳴は少しうつむき、口を開く。


「なにか暗い過去を持ってる様な・・・予兆もなく思夢に襲いかかっていったの。2人は突然すぎて夢喰少女に変身する間も無く襲われたわ。私が気づけなかったら彼女達は今頃・・・」


「さっきお前は、一世代前って言ったよな。それって千羅(せら)と同じ時代の夢喰少女(ドリマー)じゃ・・・」


 そのセリフを聞いた瞬間、冷鳴は立ち上がる。


「鏡歌、ありがと。何かわかった気がするわ。」


 そう言い残し、冷鳴は鏡歌の部屋から出て行こうとする。


「待て!冷鳴!」


 鏡歌は冷鳴を呼び止める。数秒の沈黙後、鏡歌は冷鳴の足元を見てから「無理するなよ」とだけ言って冷鳴を送り出す。


「分かってる。」


 冷鳴は部屋の扉を開けて、鏡歌の家から飛び出す。


 -------


「うん、じゃあね。また明日。」


 思夢は華矢に手を降り、帰り道を1人で歩く。曲がり角を曲がると、目の前に誰かが立ちはだかった。その姿はつい先日見た姿だった。


「桐生思夢・・・今日こそあんたを殺してやる。」


「この声は、あの時の・・・」


 思夢は驚愕の表情を浮かべ、その場から全力疾走で逃走する。


「逃がさない!」


 訊乃は手にもつ杖を思夢に向ける。


「自動照準!エアカッター!」


 訊乃の杖から風をも切り裂く速度で緑色のオーラが飛び出し、思夢を追尾する。


「嘘、待って!このままじゃ・・・」


 ズガァン!


 コンクリートに大きな傷を作る。思夢はかろうじで逃れるが、足に小さなかすり傷を負った。


「っんっ!!」


 思夢はその場に屈み込む。


「桐生思夢、千羅の仇、ここで晴らしてやる!」


 杖を思夢の首の下に置き、少し持ち上げる。


「あんたが千羅を・・・私の大親友を殺したんだろ?」


「あなたの言う千羅って、あの千羅さん?」


 思夢はその絶望的な状況の中からやっとの思いで声を出し、質問をする。対しての訊乃はコクリと頷いた。


「そうよ。銃城千羅。私の幼馴染よ。」


 -------


「あっ、千羅ちゃーん。」


「訊乃ちゃん、おはよー。」


 -------


「千羅チョン、今日遊び行こうよー。」


「昨日も行かなかった?お金がなくなっちゃうよー。」


 -------


「千羅チョン、この問題どうゆう意味?」


「これはね幕府が政治を行ったが為に─────。」


 -------


「分からないことがあったら言ってね。教えてあげるから。」


「これが千羅の見てきた世界かー。なにやら幻想的な世界だね。」


 -------


「2人で死ぬくらいなら、私だけが死ぬよ。千羅チョン、今までありがとね。自分勝手な私でごめんね。」


「嘘でしょ?待ってよ、訊乃。訊乃ぉぉ!」


 -------


「私は千羅を捨てたの。そうするしか方法がなかったの。そんな努力を踏みにじるかの様にあなたは千羅を殺した。」


 訊乃は泣いていた。千羅との思い出が走馬灯の様に蘇る。


 訊乃は思夢の首元にある杖をさらに上に持ち上げる。思夢の首がかなり高い位置まで上がったところで訊乃は言った。


「お願い・・・死んで・・・。」


 訊乃の瞳から零れた一滴の涙は、それだけでは伝えきれないほどの何かを物語っていた。


「確かに私は千羅さんを殺したかもしれない。でも私と華矢はその罪償いも踏まえて夢喰少女(ドリマー)をやってるの。」


「それをすれば千羅は生き返るのか?出来るならしてくれよ!でも、そんな事出来ないんだろ?」


 先ほどまで強く握っていた杖はもうぷるぷると震えていた。先ほどよりも大粒の涙がいくつもいくつも零れ落ちる。


「あの時、冷鳴ってやつに言われた。私のやってる事は所詮自己満足なんじゃないかって・・・その通りかもしれない。でも、この苦しみをあんた以外のなににぶつけろっていうんだよ。」


 訊乃の声はみるみる小さくなっていく。


「お願いだよ・・・私にあんたを殺させてくれよ・・・。」


「千羅は彼女達を守るために死んだんだよ。」


「えっ・・・。」


 突如背後に現れたのは、黒い猫のクロネだった。


「千羅は君を失ってから、誰かを守るために生きて来たのだろう。でも、守る人がいなかった。そこに突如現れたのが、桐生思夢。途方もない位の素晴らしい夢喰少女としての才能を持っているんだ。彼女にできた、2人目の仲間。」


 訊乃は思夢の首元を指していた杖を下ろし、クロネの話を聞いていた。


「彼女は彼女なりに君に憧れを持っていたんだろうね。思夢を守りたいって張り切ってたよ。でも、それが裏目に出た。自業自得だよね。でも思夢は今、その罪償いをして、二度と同じ過ちを繰り返さぬ様と努力してるよね。憧れは希望へと変わって、今もなお伝染してるんだよ。君から始まったソレ(●●)をね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ