契約
「あんま調子に乗ったこと言うんじゃねぇぞ!」
華矢の放った大きな声を受けたのは桐生思夢であった。
「どうしてそんなに否定する必要があるの?仲間が多い方が夢食怪物と渡り合えるかもしれないでしょ?」
華矢はそれを聞いて呆れた表情を浮かべる。
「お前、ちゃんと話聞いてたのか?夢食怪物一体を消すのに必ず引き金を発動させる必要があるって言ってただろ!?」
「そんなの分かってるよ!でも私には才能があるんでしょ?それなら引き金を発動させなくても・・・」
パチィン!
高い音が夜の公園に鳴り響く。華矢が思夢の頬を引っ叩いたのだ。
「どうしてお前は簡単に命を危険に晒せるんだよ・・・仲間がいればどうにかできるとかそんなに頭ん中お花畑なのか!?」
華矢は夢喰少女になろうとしている思夢に対して辛辣な言葉を向ける。
「華矢だって命がけの事を今やってるじゃない。」
「犠牲者を増やしてどうするんだって言ってるんだ!鏡歌さんを見ただろ?あれだけの代償を出してやっと夢食怪物を倒すことができた。あれは引き金が導いた力だ。生身のお前にできることじゃない。」
華矢は時計を見る。針はもう2時を指していた。華矢は思夢の方へ歩み寄る。
「忠告だ。夢喰少女なんて馬鹿げたモノに絶対になるんじゃねえぞ。」
華矢の声色は本気だった。夢喰少女になってから彼女は変わってしまった気がする。口は達者でも仲間にはとても優しくしていた彼女だったはずなのに今は・・・今は・・・
「幼馴染としてお前を見殺しになんかしたくないんだ。」
その瞬間思夢は悟った。これは自分の勘違いでしかなかったと。華矢は自分の為にこの忠告をした。そう、私の為を思って。でも・・・
「私のせいで千羅さんが死んだんだったら華矢じゃなくて私に責任がある。罪滅ぼしになるかは分からないけど、やれる事なら私はやりたい!」
華矢はそれを聞いて深いため息をつく。
「もう勝手にしろ。時間も遅いし、そろそろ帰るぞ。」
華矢は思夢の発言に失望したのか、酷く冷たい声色で思夢に言い放った。しかし、思夢にはあれが起こらなかった。故に思夢はまだ夢喰少女になっていなかった。
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無数の猫が歩き回っている暗闇の中、思夢とクロネは向かい合って話していた。
「君にはまだ決意が足りない。華矢にあんな事を言われたせいで、まだ死ぬことに恐怖心を感じている。それでは君の本当の力を発揮することはできない。夢喰少女になりたいのならもっと強い意志を持ってね。」
クロネは思夢に向かって決意の足りなさを告げる。
「とにかく、君が夢喰少女になったら百人力だ。せいぜい死ぬ覚悟ができた上で決断してくれ。強制してるわけじゃないよ、君には断る権利もあるんだから・・・」
クロネはそっと思夢の下から離れる。
(怖いわけじゃないんだよ・・・ただ、華矢との約束を破りたくない、それだけなの。)
しかし思夢は決意が決まらず、ただクロネが遠ざかって行くのを見ているしかなかった。
(違う・・・私は死ぬのが怖いんじゃない)
もう同じ事を何度も考え直したその時
(誰かを見殺しにするなんてありえない・・・)
頭の中で誰かの声が過る。自分?分からなかった。ただひとつ分かった事があるとするならば
「私、夢喰少女になりたい!華矢を1人で死なせたくない。私と華矢はどこに行くにも一緒だったの。いつか向かう先が地獄だったとしても私はついて行く。だからっ!だから・・・」
クロネは歩みを止め、振り返っては思夢に接近する。
「人間の気持ちというのはコロコロ変わるものだね。今の君の決断は本心へと変わった。なにも邪魔することのない迷いのない決断へと・・・僕は君を夢喰少女にすることを誓おう。」
その瞬間身体中の至る所に激痛が走る。痛い、痛い、痛い────
「契約の為の儀式だ!2分位経てば自然と痛みは引くはずだよ。これは君の体を夢喰少女へと変化させる為のメンテナンスに過ぎない、でもそれは今後の君の運命を大きく左右される事だ!」
聞いてる余裕なんてなかった。思夢はうずくまりながらあちこちを転がり回る。
「うがぁっ!ああぁっ!」
今ならあの時華矢が苦しんでいた理由が分かる。夢喰少女になると決めた人間は必ずこの苦しみを味わなければならない。
そんな悲痛に耐えている中、クロネは思夢の目の前に黄緑色の光沢を放つ球体を置く。
「君にはこれを授けよう。」
「んがあっ!あぁっ!・・・はぁ、はぁ、これ・・・は?」
痛みがだんだん治まって行き、なんとか自分を保てる位になった時、与えられた球体を手に持つ。
「RETRY DESTINY」
聞きなれない言葉だったが、続けてクロネは喋る。
「時間を巻き戻すアイテムだよ。ただし、これには欠点があって、その爆発に巻き込まれた生き物は跡形もなく消え去り、使用した本人の人生最大の分岐点に巻き込まれた生き物がいなかった場合の運命が開始する。」
意味がわからない。この猫はなにを言っているの?
「要するに、自分を犠牲にする代わりにすでに命のない人間を蘇らせる事ができるってわけだ。第一に爆発に巻き込まれた生き物は消えるから未来は左右されるかもしれないけどね。」
思夢はやっとの思いでそれを理解し、それと同時にあることを悟った。
「それを使えば千羅さんを救うことができるの?」
クロネは頷く。
「君の存在はなくなるけどね。そんなことやったら君の友達や家族はどれだけ悲しむのかな。」
千羅を助けたい、でも華矢達を悲しませたくない。そんな色々な感情に身を駆られながらも思夢は現実を受け止める。
「晴れて君は夢喰少女になったわけだ。もちろん契約解除はできないよ。それじゃあ、夢を解くとしようかな。」
クロネは地に足を強く押し付ける。すると───・・・
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「はっ!」
目が覚めると自分はベットに寝転んでいて、その付近には弟に妹、そして母親がいた。
「思夢、だいぶうなされてたみたいだけど大丈夫?」
かなり心配をかけていたみたいだ。思夢は家族を安心させる為に「大丈夫だよ」とだけ言う。
(あれは・・・夢?)
思夢は何かを探そうと体の至る所を触っては周囲も探る。すると、カチッと手に固いものが当たった。
「やっぱり夢なんかじゃなかったんだ。」
思夢は手に当たった固いものを持ち上げ、見つめる。
「RETRY DESTINY」
相変わらず黄緑色の光沢を放つ球体に紐を付けて、首に装着する。いつ使う事になるかは分からないが、クロネが持たせるという事はそれだけ重要なモノなのだろう。
思夢は大きく深呼吸をして息を整える。
「皆を・・・守らなきゃ」
はやくも9話でございます。意外とペース維持が厳しくなかったもので、充実した小説ライフが送れております。今章はかなり急展開を迎える様な内容になったのではないでしょうか?次回は4章でございます。
しかし、こうやってあとがきを書いていて思うのですが、意外とあとがきに話すことってないんですよね。まぁ、強制的に書けと決められている訳ではないのですが・・・でも、どうせなら書きたいじゃないですか!
来季、ついにラ○ライブサ○シャ○ンですね!ス○フェスも大型アップデートによってAqu○rsが参加!
なんかモザイクが多くて分かり辛い内容になりましたが、わかる人には分かるし、楽しみな人には楽しみな内容でございます!もちろん著者は楽しみですよ♪
まぁ、そんな事は置いといて、次回の夢喰少女もお楽しみください!




