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27 地上の楽園⑥

【改訂及び加筆】

2017.6.23

改訂

・セルジオによる打診の一部改訂

加筆

・PeNeCによる報復措置について


【前回のあらずじ】

息子「漲ってきたぁぁあああああッ!!」

2nd 「ちょっとお前黙ってろ」


 

 セルジオと2ndが十分程雑談をしていると、アタッシュケースの中身を検査していた秘書が戻ってきた。


「検査が終了いたしました」


 女は部屋に入って二人に会釈をすると2ndにアタッシュケースを戻し、幾つかの書類を手渡しながらセルジオの耳元で幾つかの言葉を告げ始める。

 何となく気になった2ndはグラスに水を注ぎながらセルジオと女の唇に視線を集める。


『これが持ち込まれたものの成分を纏めた資料になります。それと中身を調べた結果なのですが、全ての袋が“例の物”と一致いたしました。如何いたしますか?』

『そうだな。一先ず買い取り、追って調査をさせよう。買い取るとすれば幾らになる?』

『そちらの資料におおよその価格や評価内容も記載致しましたので、合わせてご確認ください』


 2ndの耳には囁いている事しか分からないような小さな声でやりとりがされていたが、隠されなかった唇の動きで二人の会話は筒抜けだった。

 2ndの事を甘く見ているのか、それとも隠し立てする程重要な事ではないのか。

 今の2ndにそれを判断する事は不可能だったが、脇が甘い二人に2ndが唇の動きを読んでいると悟られない様に自分で注いだ水で喉を潤す。

 しかし、と2ndは手元のグラスを弄びながら考える。

 “例の物”と2ndが持ち込んだ薬物を女はそう呼んだ。普通の薬物に対してそんな呼び方をするのだろうかと2ndは記憶を巡らすが、禁制品―――特に薬物に対してそれほど知識がある訳でもない2ndには二人の反応の意味を理解する事は出来なかった。

 多少気になりはしたが、首を突っ込むのも面倒だと考えて記憶の片隅に置いておくことにした。

 そう2ndが思考を放棄した頃にセルジオが手渡された資料を読み込み始め、女は自分の役目は終わったとばかりに再び会釈をしてから退出していった。


「ふむ、査定が出たが、その前に2ndには聞きたいことがある。今日持ち込んだ物は一体どこで手に入れたんだ?」

「どこと言われてもな。偶々旧ミャンマー領のタクラマカン砂漠上で受け渡しがあってそこで貰っただけだからなぁ……」

「依頼してきた奴らは一体どんな連中だった?」

「えらく聞いてくるな。まぁ、もう全員死んでるから教えても構わないが、タダで情報を渡すほど俺は間抜けじゃないぞ」


 2ndはそう言ってグラスに水を注ぎ、空になっていたセルジオのグラスにも水を注ぐ。水が注がれる間、セルジオは考える様に中空を見つめたが直ぐに視線を下ろすと情報料を告げる。


「5000nc(ニュークレジット)でどうだ?」

「よしのった。ソイツは旧ミャンマー領を中心に活動してる襲撃者レイダーグループが持って来たもんだ。そのレイダー達は中東方面から中華一統共和国へ流れる商隊を襲って生計を立ててた連中で、名前は確か“レッドキャップ”だ」

「代表者の名前は分かるか?」

「残念ながらそこまでは。ただ依頼を受ける前に依頼主について軽く調べてあるから、纏めた情報を渡してやらんことも無い」


 2ndはニヤリと笑うと、セルジオも答える様にあくどい笑みを浮かべる。


「ふむ、そうだな。追加で5000ncでどうだ?」

「天下のセルジオさんがそんなミミッちい事を言いなさんな。10000nc」

「冗談はよしたまえ2nd。こっちは君の情報が正しいか精査しなくてはならんのだから妥当な値段だと思うがね。6000nc」

「いやいや、それは飽く迄もそっちの事情だろう。高々10000ncぐらいケチるなよ。これだから企業で働くスーツ組は嫌いなんだ、金に浅ましい。9000nc」

「君の情報が本当と言う確証が無いんだから仕方がないだろう。それに何処の部署も予算を切り詰めているからな、私も彼等の上に立つ人間として手本を見せるべきだと思わんかね。それに金に執着してるのはお互い様だろう。7000nc」

「分かったよ。まったくしょうがないな、俺が情報を集めるのに使った労力を含めたら8000が妥当な値段だ。それ以上は値引きしない」


 2ndがそう言いながら椅子から立ち上がり、手を差し出すとセルジオがニッコリと素晴らしい笑顔を浮かべて手を握り返す。そして自身が読んでいた資料を手渡してくる。

 2ndが資料を受け取って全体に軽く目を通し、最後の欄に記入された買い取り金額を見て思わず目を見開いた。


 60万ニュークレジット


 グラウンドエデンでも15万あれば一年は何不自由なく過ごす事が出来る。その4倍の金額だった。

 つまり生活費の四年間分の価値が2ndが持ち込んだ薬物にはあったという事になるが、2ndには疑問に思う事が多々ある。

 まず薬物を手に入れる事になった仕事の報酬はせいぜい3万クレジット程度の仕事であり、依頼主達の反応から値が付いても4万5千クレジットぐらいだろうと思っていたからだ。

 そして資料に書かれていた薬物の成分からコカインやモルヒネを中心にメタンフェタミン類を混ぜた複合麻薬だと言う事が分かる。

 またコカイン等は化学合成したものでは無く植物から抽出したものだと組成を見て2ndは判断したが、いくら高価な自然由来の物でも60万クレジットに届くかと聞かれれば首を捻らざるを得ない。

 そもそも薬物類が高額なのは何人もの手を渡るため中間マージンが嵩むからであって、原価自体は相応のものだ。


「お前が持って来た薬物は中々質の良い物だった、だから高値で買い取ろう。金は全部ncでいいか?」

「そうだなぁ……一応10万分は紙幣で頼む。ここで使えて、今一番レートがいいのは?」

「ユーロだな。秘書には換金したのを持ってくるように伝えておこう」


 会話をしながらさり気なくセルジオの様子を伺うが、平然としておりその表情から何かを読み取るのは不可能だった。

 秘書との会話や先ほどの情報についてのやり取りを思い出すと厄介な事に巻き込まれた可能性が頭をよぎるが、ここまで来て何も無かった事にはできない。

 舌打ちしたい気持ちを抑え、買い取り金額に了承した旨を伝える。


「あと、2ndには一つ頼みごとをしたい」


 ホラ来た!! と言う心の中の言葉を表には出さなかった2nd。

 そもそも曰く付きの薬物に、法外と思われる買取価格。

 それらを合わせれば、頼みごとの内容も大方予想がつくと言うもの。

 買取価格が異常なほど高額なのは、通常の手順では憚られる“頼み事”を―――例えば、所持しているだけで命を狙われる様な危険な薬物を回収させるなど―――受けて貰う代わりの袖の下(ワイロ)だと考えれば納得が行く。


「実は明日の夜にある依頼についてのブリーフィングが行われるんだが、それに出てはくれないか?」

「ん?」


 しかしセルジオの言葉を聞いて2ndは首を傾げる。


「どうかしたのか?」

「いや、なんでもない」


 内々で頼みたい依頼をするのに態々ブリーフィングを行うだろうか。しかもブリーフィングと言う言葉から考えるにそこそこの人数がそれに参加するだろう。

 人が多ければ多い程、情報が漏れ出す可能性が高くなる。セルジオがその事に知らないはずが無く、2ndは自分の勘が外れていたのではないかと思い始めた。


「それよりそのブリーフィングで話される依頼ってどういう仕事なんだ?」

「あぁ、実はな。うちの者が近辺に稼働可能な旧時代の施設(オールドプラント)を発見して先日調査チームを派遣したんだが、何者かの襲撃を受けて全滅した。

 そこでG&Aに依頼しようかと打診したんだが、今グラウンドエデンにいる部隊は全べて強襲破壊用の機動殻で施設奪還に向いておらず、歩兵部隊の派遣には向こうの関係で一月は掛かると言われてな。襲撃したのが残骸漁り(スカペンジャー)達だと派遣される部隊を待っていたら折角見つけた施設が台無しになってしまう。

 それで補助強化服パワードスーツ装甲補助強化服パワードアーマーを扱える傭兵を集めているんだ」

「なるほどねぇ」


 2ndはそう言いながら背もたれに寄り掛かる。

 先に思い浮かべた厄介ごとと言う考えを僅かに残しながら相槌を打ち、戦闘用補助強化服の整備をしたのが何時だったかなと思考を巡らし始める。


「ただ今朝方少し事情が変わってな。お前もパワードスーツを扱えるのを思い出して、話だけでも聞いて貰えないかと思ってな」


 そう言ってセルジオは締めくくるが、その口調や態度を見るに、出来れば依頼を受けてもらいたいが強制する程ではないと言った程度の意思しか感じられず、依頼を受けるかどうかは2ndに委ねられている様だった。

 と言ってもブリーフィングに参加した時点で依頼を受けると承諾したのとほぼ同義であるが。


 ここで完全に当てが外れた事を確信した2ndは顎に手を当て、今後の事を考え始める。

 依頼料や詳しい依頼内容が分からなければ仕事を受ける事は決してないのだが、今回の場合は建前上は依頼の説明であり、仕事を受けるか受けないかはその説明を聞いてからになるだろう。

 そもそもブリーフィングの前に依頼の概要程度は説明されるため、それを聞いてから判断しても遅くはない。


 またグラウンドエデンにやって来るまでに予め組んでおいた予定を消化しており、依頼が控えている訳でもない。

 普段の様に移動工房がやってくるのを待つのであれば、グラウンドエデンの依頼は報酬をケチらないため“美味しい”事が多く、セルジオの話を断る理由は無い。

 だが今は佳奈がいる。

 2ndの様な残り者(レムナント)―――特に依頼主から名指しで指名依頼を受けているレムナントにとって失って困るものは“信用”である。

 先に受けていた依頼を放り出して後から、それも飛び込みの依頼を優先し、挙句先の依頼を失敗でもしようものなら確実に信用を失う。

 すると実力や口の硬さ等で指名依頼を獲得できる様になった2ndのようなレムナントは依頼主から見限られ、指名依頼をされなくなってしまう。


 通常の依頼と比べて指名依頼は報酬が破格であったり契約内容に干渉する事が出来るため、不安定な生活を送るレムナントにとって指名依頼は非常に貴重で明日の生活に直結する非常に重要ななものだった。

 最も信頼や信用とは縁遠い存在であるレムナントが信用を気にしているというのも可笑しな話ではあるが、明日の生活に関わる事となれば彼等も必死になると言うもの。

 今までも佳奈がいながら依頼を受けた事はあるが、それは佳奈を拾う前から予定されていたものであり、事前に他の依頼を受けている事は依頼主も承知の上である。


 シャルロットの件にしても、依頼ではなくまた偶発的に発生した事態に対処したと言えなくもないため、問題にはならないだろう。

 しかし、セルジオからの頼みはそれらとは違う。2ndが割のいい依頼を優先して受けた――実際にはブリーフィングに参加するだけだが――と判断されかねない。

 色々と考えを巡らす2ndではあったが、セルジオの話に乗った時の利益と佳奈に万が一があった場合の損失を天秤に掛けた結果、損失に軍配が上がった。


「アンタも知ってるとは思うが今は継続依頼の真っ最中でな、悪いがこの話は無かった事にしてくれ」

「……それは例の少女の事か? お前にしては珍しく随分入れ込んでいるんだな。弱みでも握られたのか?」


 冗談めかして言うセルジオに最初こそ同じ様に肩を竦めるが、直ぐに真面目な表情を作りセルジオの瞳を見つめ返す。


「……生憎と護衛は指名依頼みたいなものでね。佳奈の存在もここに寄った時点で広く知られているから、下手に依頼は受けられない。流石の俺も大口の依頼主を無くすのは困るからな」

「冗談じゃ無さそうだな。だがどうしても無理か?」

「無理」


 ニベもない言いようにセルジオは僅かに肩を落としている。が、セルジオの瞳にはまだ完全に諦めた色は見れなかった。


「じゃあどうすれば依頼を受けてくれる?」

「どうすれば、と言われてもなぁ…って、ブリーフィングに出くれって話から依頼を受けてくれに変わってるぞ。そんなにその旧施設が重要なのか?」

「そう考えて貰って構わん。詳しくは今言えんが、稼働できれば相当の利益が見込めると踏んでいる。今回の件を担当しているのは私では無いが、私や他の幹部達もできる限りの事をしている。

 お前の他にもロゼ・マリア、『下着を愛でる会(アンダーパンツァー)』、『グレムリン』達にも今朝方急ではあるが声を掛け、参加する旨を受けている」


 うーん、と声を上げて2ndは天井を見上げた。

 セルジオが名前を挙げた連中の姿を思い浮かべる。ロゼは勿論のこと、全員がかなりの実力を持った相手だった。

 『下着を愛でる会』はその巫山戯た名前に似合わず、機動殻・装甲強化外骨格パワードアーマー・補助強化服を揃えた重武装傭兵団である。勿論その実力は折り紙付きだ。

 『グレムリン』は傭兵では無く残骸漁り(スカペンジャー)達の集まりだが、実力派武装集団としても知られており、パワードアーマーとパワードスーツを使いこなす異色のスカペンジャーである。

 何より彼等の実力は高く、求める報酬は一般的な傭兵の倍は掛かる。

 そんな彼等に声を掛けていると言う事は、セルジオの本気度も分かれば、グラウンドエデン―――その親元であるコルネオカンパニーがこの件にどれぐらい本腰を入れているのかも自ずと分かるというもの。

 それにコルネオカンパニーの幹部であるセルジオとは2ndが傭兵として活動し始めた頃からの付き合いで、言わばお得意様という奴である。

 今回参加して失われるかもしれない信用を重りに、付き合いと報酬を再び天秤に掛ける2nd。

 脳内に描かれた天秤は最初に比べれば依頼を受ける方向に傾きつつあったが、完全に傾けるにはもう一押し欲しい所であった。


「じゃあ俺が依頼でいない間の佳奈の護衛でも頼もうかな。それと俺が依頼で離れてる間で佳奈に万が一の事があったら全部そっちの責任で、問題解決に可能な限りの事をして掛かった費用は全額そっちが補償すること。

 これを第二種企業契約法に基づいて契約するなら、まぁ受けないことも無い。勿論契約費はそっち持ちな」

「そんな事で良いのなら喜んで準備させよう」


 2ndが条件を告げるとセルジオは即座に快諾される。

 あまりの気前の良さにどれだけ必死何だと思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 そもそも企業間契約法とは混迷を極めていた新世紀初期に結成されたユニオン『PeNeC(ぺネック)』によって制定された法であり、最悪破約者に対して『PeNeC』による報復攻撃が行われるほど強固な法である。

 ちなみに契約を破った際の報復措置は契約法の種類にもよるが、基本的に破約者や関係者の殲滅である。

 そして2ndが前提条件として出した第二種企業間契約法は、破約者及び類する組織の完膚無きまでの殲滅であり、一度執行されればその行為に一切の慈悲はない苛烈なものである。


 一応抜け目もあるが、基本的に緊急を要する場合でなければじっくり契約内容を吟味する必要がある。

 にも関わらず2ndが出した条件を鵜呑みにした事もそうなのだが、その中でも企業間契約法を介して契約すると言うのに契約内容を精査する時間を設けない事に内心呆れもしていた。


「まぁ、そっちがそれでいいのなら俺からは何も言わないよ。で、契約はここでするのか?」

「いや、ここでやると色々と面倒だから後でお前が泊まっているホテルに使いを出す。その時に契約してくれ。ブリーフィングを行う場所と時間もそいつに聞いてくれ」

「りょーかい」


 二人の会話が言わるのを見計らっていたように、金の用意が終わったと告げながら秘書が部屋へ入ってきてセルジオと2ndの会談は終わりとなった。


 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


 最近は年末年始という事やその他諸々の事で私生活の方が忙しく、たまに執筆などができるだけで、投稿分の校生を行っている暇も無いほどでして、誠に申し訳ありませんが早ければ来年2017年の7月、遅ければ8月頃まで活動の方を休止とさせて頂きたく思います。

 生活に余裕が生まれたら、必ず戻って来たいと思っておりますのでその時は暖かく迎えて頂けたらと思います。

 手前勝手な御願いではありますが、宜しく御願い致します。

 <(_ _)>

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