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25 地上の楽園④

【前回のあらすじ】

ブルーノ「ボコボコにされた挙句、奴隷商に売り飛ばされたでござる」

 

 取引を終えた2ndは、自分の降車準備も済ませると佳奈を連れてグラウンドエデン二級市民区への入場口に向う。

 2ndの手には何時かの依頼で拾った麻薬入りのブリーフケースが握られており、佳奈の両腕の中にはオマケで買った熊をデフォルメしたと思われる人形がおさまっていた。

 行き交う人々が物珍しげにリュックサックを背負って人形抱きしめながらちょこちょこと歩く佳奈を見ているのに対し、佳奈の方も作業用補助強化服(パワードスーツ)を着込んだ作業員を観察しながら、2ndと着かず離れずの距離を保ちながら歩いていた。

 ときどき方々に気が散って行きかう人にぶつかりそうになる佳奈を制しながら2nd達は歩き、ほどなく形だけの入場審査を行っている入場口に到着する。


「名前と来訪の目的は?」


「2ndと佳奈。目的は物資の補給と休憩だな」


 10以上もカウンターがある審査用のスペースに出来ていた列に並び、自分の番となった2ndは審査員に簡素に告げ、二人分の入場料を支払う。

 審査員はチラリと視線を佳奈に向けるが、特に何かを言う訳でも無く端末に何かを打ち込むと直ぐに2ndに視線を向ける。


「二級市民区以上に来訪する予定は御座いますか?」


「いや、今んところは無い」


「ではこちらをお持ちください。こちらがグラウンドエデン内にいる間のお二人の身分証となりますので、無くさない様にしてください。

 これが無い場合には不法入場者として処罰される可能性がありますので。あと、こちらがフロントマックス社の方から要請されていた物品になります。ではようこそ、グラウンドエデンへ」


 何処までも事務的に話した審査員は2ndに二枚の身分証と片手程の小包みを渡すと、すぐさま2ndの後ろに並んで監査を待っていた人物を呼ぶ。

 身体審査なども無く、あっという間に審査が終わったことに目を丸くしている佳奈の背中を押して2ndたちは検問所を後にする。

 都市防壁の内部から抜け、市街に入る頃には赤く染まっていた空が夜の暗い藍色に変わっていた。


「ここはあんまり変わんねーな」


 久々に見るグランドエデンの街中の景色に一種の懐かしさを覚えていた2ndだったが、そんな2ndの言葉を無視して佳奈は目の前に広がる光景に見惚れていた。

 佳奈達の前には中央へ走る一直線の大通りがあり、中心部へ向かって僅かに傾斜のついたその道の両脇には多種多様な店が並ぶ。

 居並ぶ店の窓から漏れる光と雑多な人ごみが織り成す景色は、装甲車から見た外からの景色とは違って芸術性のある美は欠片も無い。

 だが一見すると無計画に作られたように見えて秩序だって作られた街並みは機能美にあふれ、絵画などとは違った別種の美しさがある。

 今まで立ち寄って来たどの街でも見る事の出来なかったものだった。何より、ヴェグラントラウンジ等とは比べ物にならない活気があった。

 しかしその美しさや活気の良さを2ndは理解出来ず、佳奈には見ている光景を説明できるだけの語彙がなかった事が悔やまれる。


「ねぇ、2nd。こんなに広い町でどうやって移動するの? ソウコウシャは使えないんでしょ?」


「ん? あぁ、普通に立ち寄っただけの奴なら基本的には乗合バスか自動走行タクシーを使う。

 ただ、俺みたいな仕事をしてる奴とか長期滞在する奴は……そうだな、あそこに車とかが並んでる店が見えるか? ああ言う店で好きに使える移動手段を借りるんだよ」


 光景に見惚れていた佳奈が我に返り、一級市民区画と2ndたちが今いる二級市民区画を隔てる内部防壁が霞むほど遠い事に気付いた佳奈が素朴な疑問を口にした。

 グラウンドエデンはヴェグラントラウンジと比べて遥かに大きく、その総面積は約3000平方キロメートルにも昇る。徒歩で移動するには聊か以上にひろ過ぎた。

 そんな少女の隣でこれからの予定を考えていた2ndは佳奈という少女が傍にいる事を思い出し、ついでに入場口の近くにあるレンタル会社を見つけると指し示す。

 2ndの指の先には行列と言う程ではないが、店先に並んだ車やバイクを吟味している傭兵らしき人間が何人かいた。


「さて、漸くグラウンドエデンに入れた訳だが、移動手段を手に入れる前に佳奈に約束して欲しい事がある」


「……なに?」


 何時になく真剣な表情をしながら佳奈の目線に合わせた2ndに佳奈は僅かに緊張した面持ちで2ndを見つめ返す。

 手に取るように少女の緊張が伝わってきた2ndはふっと表情を緩め、佳奈の頭を乱暴に撫でる。


「別に難しい事を言うつもりはねーよ。ただ、ここは前に立ち寄ったヴェグラントラウンジよりも治安が悪い……って言ってもヴェグラントでも襲われてるからあんまり信憑性が無いかもしれないが。

 まぁ、とにかくこの町は色んな所から流れてきた悪い奴らが一杯いるから絶対に俺の傍から離れるなよ。もしこの約束が守れなかったら……」


「守れなかったら?」


 今にも泣きそうになりながらも気丈に問い返す佳奈を見て、2ndはニヤリとあくどい笑みを浮かべる。


「わるーいオジサン達に捕まって、生きたまま食べられちゃうんだぞぉ!」


「わ、わかった!! ちゃんと2ndの傍にいる!!」


 三流役者よりも酷い悪人面を作って言う2ndに、溢れんばかりの涙をこさえた佳奈が食い気味に返事をするのを見て頷いた。

 僅かばかりの罪悪感と悪戯が成功したことに対する満足感を胸に抱いた2ndだったが、その言葉の全てが嘘と言う訳でもなかった。

 今の時代、食い詰めている組織やらは珍しくない。

 その上で何処もかしこも生き残る為に必死にやりくりをしているのだが、それでも喰うものに困って人食いに手を出している所も確かに存在する。

 大抵の場合はそういった連中は拠り所も無く襲撃者レイダーに身を窶すのだが、極々稀に別のコープやクラスタに流れ着く事がある。

 ただ、流れ付けたとしても彼等がマトモな職に付ける事はほとんど無く、密かに食人習慣を続けている者は多い。

 そしてグラウンドエデンではどんな人間でも受け入れている為、何処に食人習慣のある人間が潜んでいるか分かったものではない。

 とは言え佳奈が一人で歩いていれば、食人習慣を続けている人間に遭遇するよりも早く人攫いに捕まって奴隷商に売り飛ばされている事だろう。

 2ndは決意の篭もった瞳で見上げてくる佳奈の小さな手を握って歩き出す。


 手近にあったレンタルショップを訪れた二人は手早く大型バイクとその他の備品を無期限で借り受け、2ndはレンタルショップの店員から渡された子供用のフルフェイスヘルメットを佳奈に被せながら質問する。


「取りあえず日も暮れちまってるし、ホテルに向かう前に飯でも食いに行くか? オススメの飯屋を知ってるんだが」


「美味しかったら何でもいいよ!」


 初めてバイクに乗るという佳奈が興奮と緊張を綯い交ぜにした笑顔で宣言する。

 何でもいいが一番困るんだが……と佳奈のヘルメット装着を手伝いながら苦笑いを浮かべる2ndだったが、佳奈なら文句も言わずに食べるだろうと思って気にしないことにした。

 佳奈に薬物がギッシリと詰まっているブリーフケースを持たせ、自分と佳奈をベルトで固定した2ndは借りたバイクに火を入れる。

 クラッチを踏み、アクセルを回してグラウンドエデンの中心に向かってバイクは走り出す。


「ねぇ、2nd。さっきはオジちゃんになに言ってたの?」


「ん、オジちゃん?」


 ヘルメットに反射する町の景色が流れていく中、内蔵された通信機から佳奈の質問が聞こえる。

 2ndはオジちゃんと言う聞きなれない単語に思わず首を捻る。

 しかし自分の記憶を辿っていくと、ある人物と会話している場面が浮かんで納得するように頷いた。


「オジちゃんってのはジャックの事か? ならアイツに言ったのは秘密の合言葉さ。てか良く気付いたな、そう言えばM-2もそんなこと言ってたな……」


「合言葉?」


「おうとも。今佳奈に持ってもらってるブリーフケースの中身を売りたいんだが、普通に売ると色々と面倒でな。

 ちょっと知り合いに買い取って貰おうと思ってんだ。んで、そいつに会うのにちょっとした手順が必要なんだよ」


「そうなんだ。でもどうしてその人に売りに行くの? 売るなら一杯お店があるのに……」


 流れていく景色を見ていた佳奈が疑問を口にした。

 それにつられて2ndもサイドミラーへ目を向けると、周囲には買い取り専門店などと書かれた看板が至るところに掲げられており、納得が言ったように頷いて背中に抱き付いている佳奈に目を向ける。


「まぁ、そこら辺にいるバイヤーに売るってのも考えたんだが、何かと面倒だし変な事に巻き込まれるのも御免でな。多少面倒でもそこそこ信頼できる相手を頼ろうって事さ」


 後ろを振り返りながら話していた2ndは前へ向き直りながらアクセルを更に回し、バイクを加速させていく。

 何台か走っている車を追い抜いた時に2ndはふとM-2に言われたことを思い出した。


「……行き付けの店にはアイスクリームも売ってたと思うんだが、デザートにでも食うか?」


 気落ちしている子供を励ます方法が分からず、食い物で茶を濁すダメな大人がそこにいた。


「……いいの?」


「いいよ。別にそこまで高い訳でもないし、今日は佳奈に心配掛けちまったみたいだしな」


「ありかと、2nd!!」


 フルフェイスのヘルメットと佳奈が自分の背中に抱き付いているせいで佳奈の表情を見る事は出来なかったが、抱き付く腕の力が強くなったことや弾んだ声に満面の笑みを浮かべている姿を2ndは容易に想像できた。

 大人として情けない行動ではあったが、2ndの思惑など知る由もない佳奈は純粋に喜びをあらわにしていた。

 2ndは自分の腹の虫も鳴り始めた事もあいまり、佳奈の興奮が冷めるよりも早く食事処に付くべく更にアクセルをふかして車を追い抜いていく。

 それから全速力でレストランへ直行した2ndと佳奈の二人は、公共バスなどを使うなら一時間は掛かるだろう道のりを20分で駆け抜けた。




 ◇ ◇ ◇




「ではお部屋の準備が整うまでラウンジにてお待ちください」


 恭しく頭を下げる受付に手を振って答えた2ndはホテル“イン・デ・ロップ”のロビーに併設されたラウンジに向かった。

 旧時代に流行ったと言われているジャズソングが控えめに流されているラウンジには、並べられた幾つもの円卓の内利用しているのは片手で数えられる人数しかおらず、閑散とした雰囲気が漂っている。

 純然な樹木だけで作られた円卓や合成物質が一切使われていない一人掛け用のラウンジソファーなど、一般家庭では決して並ぶ事のない高級家具に囲まれた佳奈が一人でちょこんと座っていた。

 2ndがゆっくりと佳奈に近づいていくと、佳奈の小さな頭がこくりこくりと定期的に揺れているのに気が付いた。

 どうやら夜も更け、夕食も十二分に腹に収めた事で睡魔に襲われてしまったらしい。

 佳奈を起こさない様に静かに対面に腰掛けた2ndは小さな寝息と共に船を漕いでいる小さな少女は、買ったばかりの人形を大事そうに抱えていた。

 微笑ましいその光景をのんびりと眺めながら部屋の準備が終わるまで待っていると、ラウンジの奥にある円卓で談笑していた二人組の男女が立ち上がる。

 物音の少ないラウンジでは二人が立ち上がる際に鳴った椅子の音は意外に大きく聞こえ、2ndは不意にその二人組に目を向ける。


 二十代らしき男の方は糊のついた高そうなスーツを着てはいるが、馬子にも衣装と言う言葉が瞬時に思い浮かぶ。

 対して隣に立つ女性はカジュアルながらラウンジの雰囲気に適したドレスに身を包み、それを見事に着こなしている美女だった。

 第三者の目から見て男が女を連れているのは随分と不相応な気がしたが、女の方は腰に回された腕を受け入れ、軽く頬を染めながら満更でもなさそうだった。

 独り身の男には何とも妬ましい光景を目にした2ndは女の胸元の開いた服を見ながら「そう言えば佳奈と一緒になってから風俗に行ってねーな」と益体も無い事を呟いた。

 そんな2ndの下賤な考えが表に現れていたのか、チラリと2ndたちの事を見た女が男に何か耳打ちをすると男は隠しもせずに嘲笑を浮かべ、女を引き連れながら2ndの元へとやってきた。


「ここは貴様のような野蛮な傭兵が使うにはいささか、高級すぎるだろう。身の丈に合った場所を使ったらどうだね? 何なら私が君に恵んでやろうか?」


 目の前にやって来て忠言の様に聞こえるセリフを男は口にするが、その声には嘲りが嫌と言うほど含まれていた。

 男の隣に立つ女もクスクスと笑いながら、侮蔑の感情も隠そうともしない。

 2ndはチラリと佳奈を盗み見るが、幸い思ったより深いところまで落ちている佳奈が目覚めた様子は無かった。

 2ndは佳奈から男へ視線も戻し、臆することなく言い放つ。


「ご忠告して頂き痛み入る。たたお生憎様、恵んでもらうには傭兵稼業は意外と儲かるのでね。アンタよりは金には困ってないし、見栄を張って無理をしているつもりもないんでな。お断りさせてもらおう」


 椅子に座ったまま足を組んで尊大に言い放つ2ndに男のこめかみに薄らと青筋が浮かぶ。

 男は更に詰め寄ろうとしたため、2ndも億劫そうに立ち上がる。

 2ndの緩慢な動作が余計に男の神経を逆なでにしたのか、眉間に皺を深く刻んだ男がなおも言い募る。


「どうやら無学の傭兵バカには私の言いたいことが正しく伝わらなかったようだから、正直に言わせてもらう。お前たちのようにみすぼらしい格好の者がこのホテルを利用していると目障りなんだよ、金をやるからとっとと出ていきたまえ」


 そう言われて2ndは佳奈と自分の服装を顧みる。

 今の佳奈の格好は水玉模様のワンピースで、2ndに至っては防刃仕様のズボンに簡素な作りのシャツだった。

 確かに高級感あふれるラウンジやホテルの雰囲気から考えて2ndたちの今の格好は男が言うように場違いではあったが、ホテル“イン・デ・ロップ”はドレスコードを定めている訳でもなく、受付をしている時もホテルの従業員が何かを言ってくることは無かった。

 謂れの無い事で非難されて2ndが大人しく引き下がる筈も無く、言い返そうと口を開こうとした。


「アベル、いきなりそんな事を言ってしまっては相手に失礼よ」


 しかし2ndが嫌味を言い放つよりも早く、2ndとアベルと呼ばれた男の間に女が割って入る。

 2ndは急に話の場に割り込んできた女に原因はお前だろと思いながら目を向ける。間近で女の顔をマジマジと見てみるとやはり美人であった。しかし数時間前に目の前にいる女よりも極上の美女を目にしており、また醜い内面が透けて見えた2ndには見劣りしかしなかった。

 ……視線は胸元の深い渓谷に集中していたが。


「アベルが失礼したわね、さっきの事は謝るわ。でも、私も彼の考えてる事には賛同しているの。だから素直に言う事を聞いてくれないかしら」


 女はそう言いながら持っていたハンドバックから何かを取り出すと、さり気なさを装って2ndの左手を握ると鞄から取り出した物を握らせる。

 2ndは握らされたものが電子貨幣だと瞬時に判断したが、直ぐに違和感に気が付いた。

 一般家庭にまで普及している電子貨幣にしては僅かに分厚く、数字が表示されている筈の表面にはあるべき装飾の感触が感じられなかったのだ。裏面はそれらしく作られているが、本物とは若干の差異がある。

 女がさり気なく渡したことを顧みず、堂々と電子貨幣らしき物に視線を落とす。

 裏面は感触通り一見すれば普通の電子貨幣と変わらない装飾が施されていたが、表面にひっくり返すとそこには電子貨幣内にある筈の金額を表示する部分が無く、三つの日時が書かれた画面があるだけだった。


「美人に頼み事はなるべく聞く事にしてるんだが、今から別の宿を探すのは面倒でね。それに俺の連れはもう夢の中に旅立ってるから、今回はお断りさせてもらうとしよう。でもアンタみたいな美人な女性の頼み事なら何時でも歓迎だ。その男に飽きたら何時でも俺の泊まってる部屋に来てくれても構わないよ」


 電子貨幣もどきを見て得心を得た2ndだったが、渋い表情を作りながら演技じみた台詞を口にして渡された電子貨幣を女の胸元に差し込んだ。

 そのまま女性の手を取って口づけでも落とそうかと考えながら2ndが女の手を取ろうとすると、2ndが女の手に触れるよりも早くアベルと呼ばわれた男が2ndの右腕を鷲掴む。


「おい、傭兵の分際で彼女に触るなんて身の程を―――」


 アベルは2ndの腕を掴んだまま言い募ろうとしたが、2ndが手を翻して男の腕を掴み返し、即座に引き寄せて体重の乗った軸足に足払いを掛けると、ストンと音を立てて綺麗に尻餅をつく。

 連れの男が見事な醜態を晒していると言うのに、女の方は全く動じた素振りも無く2ndに意図の分からない微笑みを浮かべている。

 肩を竦めた2ndはポカンとした表情を作ったまま見上げている男の腕を捻りあげて無理矢理立たせると、ちょうどラウンジの入り口から制服をピシッと着込んだホテルマンが入ってくるところだった。


「2nd様、お部屋の準備が整いましたのでお迎えに上がりました。それと何かお客様と問題が御座いましたでしょうか? できればそのような行為は―――」


「いや、いや。偶々この男性がちょっと躓いてね。手を貸していただけさ。なぁ?」


 ホテルマンに見えない死角で拘束している男の腕に力を込めると、男は脂汗を浮かべながら必死に頷いた。

 それにホテルマンは怪訝そうな表情を一瞬だけ見せたが、直ぐに何事も無かったかのように澄ました顔を作ると受付に来るように告げて去って行った。

 2ndはホテルマンが見えなくなると同時に男を解放すると、男は怖くも無い鬼の形相を浮かべて睨み付けてくる


「お前の顔は覚えたからな。俺に恥をかかせた事を後悔させてやる」


「はい、はい。そう言って俺を後悔させた奴なんて片手で数える程度しかいなかったけど、期待して待ってるよ。

 今日はそこの美人さんに免じてこれぐらいで許してやるから、とっととおうちに帰りな。あと次からは喧嘩を売る相手はもう少し考えてから決めるんだな」


 何時もの如く相手を煽る言葉を2ndが口にすると、見事に挑発に引っかかった男は何か悪態を吐きながら再び詰め寄ろうとするが、女がそっと間に割って入り男の耳元で何事かを呟くと、不承不承と言った体で矛を収める。

 そして舌打ち一つを置き土産に女を連れてラウンジから去って行った。


「嵐みたいな奴だったな。まぁ、ロゼよりはマシか……しかし、あんなに騒いでたのに起きる素振りすらないって。鈍感って呆れるべきか、図太いって褒めるべきなのか」


 ちょっとした諍いが始まってからずっと船を漕ぎ続けている小さな同居人を見て苦笑いを浮かべると、極力起こさない様に佳奈を横抱きにすると静かな足取りで受付へと向かっていった。


 それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 誤字・脱字・質問・感想など、首を長くしてお待ちしております

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