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一周年記念 閑話『日常』

1周年を記念して、佳奈と2ndの装甲車での生活を描いたものです。

読まなくても本編に支障はありませんので、ご安心下さい。

 それは2ndと佳奈の何気ない日常の一コマ。


 朝


 2ndの1日は日が昇る頃に始まる。

 娯楽など無いに等しい装甲車内において夜更よふかしなど出来るはずもなく、自然と早寝早起きが習慣づく事となる。

 先に起き出した2ndはそそくさとリトルキャッスルの後方に設置された二段ベッドの上段から起き上がり、給水機から水を取り出して喉を潤す。


「M-2さんや、現在の状況はどんな感じ?」

《現在我々は旧イラン領、ナーイーン付近を走行中です。走行状態並びに路面状況が比較的良好であり、問題なく移動しております。予定通りグラウンドエデンに到着できるでしょう。

 ただ想定よりバッテリーを使用しており、グラウンドエデン到着前にバッテリーの充電を検討した方が宜しいかも知れません》

「あー……結構レールガン使っちゃたからね。まぁそれはおいおい考えるとして、一応何処か充電出来そうな場所探しといて」

《承知致しました》


 2ndは欠伸を噛み殺しながら給水機の隣にある戸棚を漁り、三十cm程度の機械を取り出した。

 機械に水を入れ、マグカップを取り付けた2ndは最初より重くなった機械を持ってお気に入りのソファーに腰掛ける。

 そして2ndがソファーに腰掛けながら壁に手を翳せば、床に収納されていたテーブルが展開され、手に持っていた機械を置いてついでにスイッチを入れる。

 ソファーで横になった2ndはどこからか端末を取り出し、誰も使わなくなったような古い人工衛星を介してM-2が集めた世界各地のニュースを読んでいると、機械を中心にコーヒーの芳醇な薫りが漂い始める。

 そのまま放置すること数分。

 カチりと言う音と共に機械の電源が切れ、モゾモゾと佳奈の寝るベッドから身じろぎする音が2ndの耳に届く。


「……おはよ〜」

「おはようさん」


 寝ぼけ眼でやたらと間延びした挨拶に返事をしながら機械からマグカップを取り出すと、コーヒーの味と薫りと成分を再現した擬似コーヒーが並々と注がれた。

 零さないように細心の注意を払いながらカップをテーブルに置き、機械を元の場所にしまう。

 帰りに給水器から佳奈用の容器に水を満たし、ソファーに腰掛けながら未だ半分夢の世界にいる佳奈に渡す。


「……ありがと〜」

「どういたしまして」


 船を漕ぎながらも器用に水をチビチビと飲んでいる佳奈の横で、2ndは端末を弄りながらのんびりと深みも糞もない擬似コーヒーに口をつける。

 二人の朝は、佳奈が完全に覚醒するまでのんびりと過ぎていく。




 昼


 朝食を済ませた2ndと佳奈の姿は、リトルキャッスルから牽引されているトレーラーにあった。

 リトルキャッスルのように高性能なサスペンションがついていないトレーラーの中は揺れ、手伝いの為についてきた佳奈は時々蹈鞴を踏んでいた。

 一方セカンドの方は機動殻の肩に腰掛けながら操縦席ある専用端子とケーブルで繋がれた端末を眺めていた。


「んー。やっぱり、推進剤が足りねーなぁ」


 うんうん唸りながら、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 手に持つ端末には2ndの乗る地上戦闘用ハ型機動装甲殻―――通称チハの状態が表示されていた。

 それは最も負荷の掛かる関節部やその他機体動かす上で重要となる箇所の状態が表示されたもので、その中には機動殻の高速戦闘を可能とさせるのに必要不可欠な飛行ユニットの状態も含まれる。


 飛行ユニットにも様々な種類があり、第三世代で主流となっている電動エンジンやブラックプリンスにも使われているプラリス圧縮流体を用いた流体推進機など。

 長時間使用できるように改良や開発が進められ、新たな技術が取り入れられている……のだが生憎と2ndが乗る《チハ》は古過ぎて対応できていなかった。

 そのため殆ど使われることがなくなったジェットエンジン用の推進剤を使用していた。

 今ではジェットエンジン用の推進剤など使用用途がミサイルの推進体ぐらいしかなく、高度な技術も必要としないため推進剤は非常に安価なのだが、その分使用者が少なく市場に出回っている量も少ない。

 グラウンドエデンに向かう途中で立ち寄った小さなコープで細々と経営をしている補給を担う企業でも手に入れる事は出来なかった。

 一応ジャーンシーで買う事はできていたが、かなり高値でかつ量が少なかった。急襲を受けた事を考えれば十二分な量ではあるのだが、機動殻で戦闘をするには些か心許ない。

 二十分も戦えれば十分と言った所だろう。


「やっぱり十全な準備ができてないってのはちょいと不安だな」

《無いものは無いと諦めるしかないでしょう。佳奈様もそう思いませんか?》

「え、えっと、佳奈も、そう思う、よ?」


 2ndが機動殻の肩越しに佳奈を見れば、急に話しを振られて意味が分からないながらも返事をしている。

 未だに急に話しかけるとおどおどしてしまう佳奈だったが、だいぶこの生活に慣れてきたのか、最初の頃よりも話しやすく、おどおどと言葉に困ったような姿を見せる回数も減ってきている。

 ただまだ急に声を掛けられると時々見せるあたふたしている佳奈の可愛らしい姿を見た2ndは、さっきまでの不安も忘れて和んでしまう。

 それもそうだな、と呟いた2ndは操縦席に繋がれたケーブルを引き抜き、機動殻の方から飛び降りる。

 上手いこと義足で着地し、衝撃を受け流した2ndはそのまま佳奈に歩み寄って取り敢えず頭を撫でる。


「さてと、取り敢えず整備を終わらせようか。難しい事は後でまた考えればいいしな。佳奈はあそこの台車に乗ってる推進剤を持ってきてくれ。M-2は膝関節の整備するから装甲を外して」

「わかった!!」

《承知致しました》


 2ndの指示の元、トレーラーの中は騒々しくなっていく。



 夜


 機動殻の整備が一段落した頃には、装甲車の外は日が沈み、夜の帳が降りていた。

 街灯もなく、月の輝きも淀んだ空に阻まれて暗闇に近い光景でも、装甲車は目的地に向かってひた走る。

 これも偏に独立思考ポットであるM-2のお陰だった。M-2がいなければ、ここまで辿り着くのに倍以上の日数が掛かっていた事だろう。


「セカンド、佳奈おふろに入ってくるね」

「おう。水を無駄使いするなよ」

「はーい」


 佳奈が声を掛けても2ndは手元から目を離さずにいい、そのまま送り出す。

 シャワーの流れる音をBGMに、2ndは手元にある佳奈に渡した筈の自動翻訳機に細工を施していた。

 それから数分、漸く細工をし終えた2ndが伸びをすると待っていたかのようにM-2に声を掛けられる。


《発信機とのリンク正常。推定位置の誤差は0.6mです》

「まぁ、それぐらいなら許容範囲でしょ。後は長距離でどれぐらいの誤差が出るかだけど、こればっかりは試して見ないことには分からんしな」

《その件についてですが、バッテリー充電を行う際に試して見ては如何でしょうか? それを含めて停泊地の選定を行ってみましたのでご確認ください》


 M-2がそう言うと、車内の液晶シートに地図が表示される。

 目的地であるグラウンドエデンやそこに至るためのルートに周辺の汚染状況、現在地などが表示されていた。


「うーん、ちょいとばかしグラウンドエデンに近すぎやしないか? この立地だと襲撃者レイダーとか賞金稼ぎ(ハンター)の根城になってないかな」

《無くはないですが、主要行路からはかなり外れておりますし、周囲を重度の汚染地域で囲まれて居りますし可能性は低いでしょう。

 それに汚染レベルが1以下かつ装甲車を隠蔽できる条件を満たす場所はここの他に二箇所しかありません。

 また他の場所については発信機の性能チェックを行うには些か不向きです》

「ウーーーん、一応他の候補地の情報も見せてくれ。それを見てから決めるわ」

《承知致しました》


 手元の端末に詳細な情報が送られ、2ndはそれらを真剣に吟味する。

 理論的かつ客観的に情報を精査できるM-2を疑う訳では無いが、逆に理論的に考え過ぎて人間という非理論的な存在を考察すると穴がある事があるのだ。

 そのため2ndは常にM-2が提供する情報を自ら調べ、考えるのが常になっている。

 大抵は杞憂に終わるのだが。


「今回もM-2さんの提案通りでいいかな。じゃあルートの選定とかも何時も通りでよろしく」

《承知いたしました》


 話し合いを終えた2ndがふと時計を見ると、既に八時近くになっていた。佳奈に課した勉強の課題も既に終えており、この後にする事もない。

 2ndはバスルームの対面にある壁に近寄り、手を翳す。

 するとテーブルの時と同じ様に収納されていた二段ベッドが展開される。

 どういう仕組みなのか2nd自身理解していなかったが、明らかに収納されていた場所のスペースと比べてそれぞれのマットレスの方が分厚いかった。

 毎度不思議に思うが、自身の知識にかなりの偏りがある自覚もあり、凄い技術があるもんだなぁと深く追求もせずに呑気に考えるだけだった。


「あがったよー」

「おう、こっちも寝る準備が終わったところだ。あと翻訳機の調整も終わったから調子見とけよ」

「はーい」


 2ndが就寝の準備を終えるとタイミングよく佳奈がバスルームからでてくる。

 その姿は昼間の様に可愛らしく動きやすそうな服装から、上下とも地味な色合いのスウェットに変わっていた。


「じゃあ俺も風呂に入ってくるから眠くなったら先に寝てていいからな」

「はーい」


 2ndも着替えを持ってバスルームに入る。

 そこはトイレと風呂場が同じ場所にあるユニットタイプで、人ひとり立って入るのがやっとな程狭いシャーワースペースがあるだけだった。

 蓋をした便器の上に下着と脱いだ服を置き、強化ガラスで覆われたシャワースペースに入る2nd。

 操作盤に手を翳し、全身を洗うのに必要最低限の水で済む様に調整されたシャワーを浴びる。

 鴉の行水の如く数分で全身を洗い終えると、今度は全方位から吹き付けられる風を浴びて身体が乾くのを待つ。


 それら全ての工程を終えた2ndは義足にある細かい隙間に着いた水滴を丹念に拭き取り、防刃仕様のズボンにタンクトップと言う昼間と代わり映えのない服装に着替えてバスルームを出る。

 若干湿気の多いバスルームから普段生活している空間に戻ると、真っ先に二段ベッドの下段で既に寝息を立てて夢の世界に旅立っている佳奈の姿が目に入る。


「何時も思うんだが、佳奈って横になってから寝るまで短くない?」

《佳奈様は毎回横になってから4.23秒程で寝息を立て始めますので非常に速いと言っても過言ではないでしょう。しかし寝る子は育つと古くから言われておりますので、寝付きが良いのはいい事です》

「いや、それにしても限度があるだろ。限度が」


 2ndはそういいながら装甲車の点検を始める。

 就寝前の最後の点検でM-2が把握している状態と装甲車の状態に齟齬がないか一つ一つ調べ、異常が無ければこのまま2ndも就寝となる。


「さて、今日も異常なしだな。明日は取り敢えず機動殻の整備の続きかな。用水循環器のろ過装置用フィルターの交換は明後日でも問題ないか?」

《問題ありません》

「なら俺ももう寝るわ。いつも通り警戒レベルは最大で、何かあったら直ぐに起こして」

《承知いたしました。では良い眠りを》

「おやすみ」


 2ndがそう言ってベッドに横になると直ぐに車内の灯りが絞られ、薄らと足元が見えるだけの空間に変わる。

 こうして2ndと佳奈の1日は終わりを告げる。


なお、佳奈のお胸様は成長しない模様。

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