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18 冥土③

 ※2ndは特殊な訓練を受けています。大変危険なので(ry

 

 荒れた路面の影響で時々跳ねる車を御し、L-SATへ向けて一直線に車を走らせる2ndはこれから相手にしなければ成らない装甲車を思い浮かべる。

 HQ仕様のL-SATは通常の輸送用装甲車と比べ荷台が小さく作られているが、装甲は厚くされてより頑強になっている。

 機動殻の装甲としても使われているDC(ダイヤカーボン)メタルが15mmと軽装甲車に分類されているにしては随分と分厚い。

 荷台には周囲を伺うための覗き窓なども存在せず、唯一外の景色を望めるフロント硝子もカーボンファイバーを編み込んだ強化防弾硝子になっており、ライフル弾以下の口径では破壊は不可能。

 底部と荷台を改良して作られた指令室に入る為の後部ハッチは構造上強度が低くなりやすいため、弱点とならない様に内部装甲よりも厚い20mmである。

 弱点らしい弱点も無く、付け入る隙の無い完璧な砦のように見えるL-SAT。

 だが人の世に完璧な物などありはせず、L-SATにも二つの弱点が存在している。


 まず一台単体での戦闘能力が低いこと。

 武装らしい武装は自衛用として天井部中央にある重機関銃の砲塔(ターレット)一機のみであり、高さだけなら大型トラックほどもあるL-SATでは、自らの巨体が邪魔をして至近距離にまで接近されると迎撃の手段が無くなるのだ。

 またターレットは内部と完全に切り離されたリーモート操作であり、弾詰まりやオーバーヒート等の問題が起きると搭乗者が外に出て、直接故障を直さない限り一切使用出来なく成ってしまうことになる。

 一応その対策として無駄弾を減らして弾詰まりやオーバーヒートの発生確率を下げるため、敵性対象との距離に応じて連射速度を制限するようにプログラムによって管理されている。

 だがそのプログラミングの影響によってL-SATの戦闘能力は更に低下しており、近づき方さえ間違えなければ可動域外への侵入も不可能では無い。


 二つ目はL-SATがガソリン式エンジンを採用していること。

 ガソリン式の装甲車全般に言えることではあるが、ガソリンを燃焼させた際に生じる排気ガスを排出する為に必ずエンジンと繋がるマフラーが必要不可欠であり、そこを利用した破壊工作をされるとどんなに厚い装甲を誇っていても意味が無い。

 これはL-SATも変わらない。


 更にいえばL-SATは軽装甲車と分類されている物の中ではかなりの強度を誇ってはいるが、その内側は軽量化と低価格化のために粗悪な作りをしている部品が多く使われており、内部からならば手榴弾で作った手製爆弾でも破壊は可能であった。

 とはいえ弱点とも言えない弱点を頼りに同じ状況下に置かれ、L-SATについての知識が少しでも有る人間なら、破壊どころか荷台に損害を与える事も出来ないと断じて挑む事すらしないだろう。

 しかし2ndの表情に諦念を持った様子は無かった。

 2ndは近づきつつある装甲車を眺め、車の運転手だった男が持っていた手榴弾に手を伸ばす。


 そうして改造車を奪い、走らせること数分。


 頭の中に描いた地図を元に2ndが車を走らせていると、初めて間近にL-SATらしき輪郭を捉えるが、間を置かずに警告等の接触も無く突如として砲塔の重機関銃が火を噴いた。

 輪郭だけだが明らかに重機関銃の銃口が自分に向いているのに気が付いた2ndがハンドルを切って回避行動を取っていたのが功を奏し、直撃こそ免れたもの初弾は改造車のサイドミラーを粉砕して地面に突き刺さる。


「随分と決断の早い奴が乗ってんなぁ、ちくしょう。それが敵だってのが余計泣けてくる」


 躊躇の無い状況判断に皮肉を込めた参賞の言葉を送りつつ、ターレットの旋回速度より若干早い速度でL-SATを中心とした円を描く様に改造車を走らせる。

 2ndは円を少しずつ狭める形でL-SATへの接近を試みる。

 少しずつ、だが確実に軽装甲車の元へ迫る2nd。

 しかし距離が縮まるにつれて重機関銃の銃撃も連射速度を上げ、改造車に迫りつつあった。


 ひたすら改造車を走らせるが、ある程度までL-SATに迫ると銃弾が改造車を捉え始める。

 後部の外装に弾丸が命中し、改造車が大きく揺れる。

 そこで2ndは避ける事を諦め、ハンドルを切って車体をL-SATへ向けて思いっ切りアクセルを踏み付ける。

 突如進行方向を変え、速度を上げた改造車を追うように重機関銃の放つ弾丸が改造車の残す轍を穿つ。

 数発の弾が外れた後にすぐさま改造車の機動を予測して動かされた砲塔が向けられる。

 狙いを澄ます間は僅かな平穏が訪れるが、一息吐く間もなく2nd(セカンド)の操る改造車にL-SATに搭載された重機関銃の直径7.5mmにも及ぶ弾丸が容赦無く突き刺さる。


 真っ先に狙われたのは改造車に唯一存在していた武装。


 後部座席に取り付けられていた銃座は銃弾の豪雨によって少しの時間で原型を失う程に穿たれ、銃座に座ったままだった死体は上半身を失って下半身だけが無残に取り残されていた。


 そうして完膚無きまでに武装が破壊され、完全に無力化された後は運転席が狙われる。


 銃撃が始まって早々フロント硝子はものの見事に粉砕され、ボンネットは食い破られた様に大穴が空き、穴の開いたボンネットからは炎が上がり始める。

 外見が変わり果て、いつ爆発を起こしても可笑しくはない車のダッシュボードの陰に隠れながらも2ndは躊躇うことなくアクセルを踏み続ける。

 重機関銃の大口径弾が一発命中する度に車は大きく揺さぶられ、真っ直ぐ走る事すら困難な中でも横転しそうになるのをやっとの思いで御してきた2ndだった。

 しかし重機関銃の可動域外に入るまであと10mの距離まで迫った時、ボンネットを内側から吹き飛ばしてエンジンルームが火を吹いた。

 2ndは咄嗟にブレーキを踏み込み、油圧管の欠損で重くなったハンドルをあらん限りの力で左へと切る。

 急減速と目一杯切られたハンドルの影響で後輪が勢いよく滑り、L-SATを目前に見事なドリフトを決めて無防備な側面を見せることとなる。

 ドリフトをしている最中の車内では左側面のタイヤが浮き上がり、大きく傾く中で十分に減速したタイミングを狙って2ndは半壊している運転席のドアを押し開ける。

 2ndは流れる様に移る地面に、躊躇いなく身を投じるのだった。

 直後、連射速度を上げた重機関銃の顎に改造車は容赦無く喰らい付かれて成す術もなく鉄くずへと変わっていく。


 小規模の爆発を伴い玩具の車が横転するように改造車は二回三回と地面を転がっていく。

 間一髪の所で難を逃れた2ndは慣性に抗わずに地面を転がり、身体の節々に火傷に似た痛みを感じながらも即座に起き上がる。

 全身に走る痛みを無視し、すぐさま横転の勢いが止まった炎を纏う鉄くずの陰に滑り込む。


 車が横転する直前に2ndが脱出していたのを見逃したL-SATは執拗な銃撃を改造車に浴びせ続ける。

 時々貫通して地面にめり込む弾がある事に肝を冷やしつつ、2ndはすり切れて血の滲む個所に応急手当てを施し、銃撃が止むまでひたすら耐え続けた。

 そうして待つこと二分少々。

 ようやく銃撃が止み、周囲には改造車から上がる炎の音と憎らしく聞こえるL-SATのエンジン音が漂うだけとなる。

 2ndはダンプポーチの中から先端に小さな鏡の付いた細い棒を取り出し、改造車の陰から伸ばして鏡に写り込むL-SATの姿を確認して笑みを浮かべる。

 小さな鏡には先程まで猛威を奮っていた重機関銃の赤熱する銃口は改造車ではなく、シャルロットが隠れる廃墟町のある方角へ向けてる姿が映されていたのだ。

 それは車内から砲塔ターレットを操作していた射手の意識が2ndから完全に離れた事を意味していた。

 棒をポーチの中に仕舞い、今度は改造車の運転手が持っていた手榴弾を手に取って物陰の端に身を寄せる。


 ターレットの可動域外まで目測にして凡そ6メートル。


 そこまで近づけば他に攻撃手段を持たないL-SATに2ndを殺す方法は殆ど無い。

 深呼吸をしながら緊張感を適度に逃がして飛び出すタイミングを見計らい、幾度目かの大きな息を吐き出すと覚悟を決める。

 地面を思いっ切り蹴りつけ、勢い良く改造車の陰から飛び出すと正面を向いていたターレットが即座に2ndへと向けられる。

 2ndは重機関銃の銃口と目が合った瞬間に前方へ飛び込む形で身を投げ出せば、数瞬前まで2ndのいた空間を重機関銃から放たれた弾丸が通過する。


 大きな着弾音を聞きながら飛び込んだ2ndは前転しながらその勢いで立ち上がり、自身を狙う追撃どころか重機関銃の射撃が一切無くなっている事を確認して自分がターレットの可動域外へ侵入したのを確信した。

 しかし安全地帯に入ったからと言ってゆっくりしている暇は無い。

 L-SATが移動して再び重機関銃の射程圏内に捉えられてしまえば、2ndは成す術もなく穿たれる事になる。

 現に動き出した軽装甲車を見て2ndは盛大な舌打ちを鳴らし、離れていくL-SATの後部ハッチに飛び付いた。

 なんとか小さな取っ手に掴まる事の出来た2ndは振り落とされない様に握っている取っ手をしっかりと掴み直しながら、天井部を覗く為に顔を出す。


「あっぶね!」


 咄嗟に出した頭を引っ込めると銃弾が装甲を僅かに削りながら通過する。

 一気に心拍数が上がったのを感じながらも、片手に持っていた手榴弾の安全ピンを抜き、起爆のタイミングを見計らって目視もせずにターレット目掛けて投げ付ける。

 間を置かずに鳴り響く手榴弾の炸裂音を合図に天井部へ登り、一目散にターレットの元へ駆け寄って銃身を力一杯踏み付ける。

 手榴弾の殺傷能力を上げるベアリングや破片程度では重機関銃を覆う保護カバーを貫けない。

 せいぜい衝撃でターレットに備え付けられた安全装置を誤稼動させる程度だった。

 安全装置の誤作動で固まっていた重機関銃の操作システムが復旧し、再び動き出したターレットの銃口が自分へ向かないように体重を乗せて押さえ付ける。

 押し返されそうになるのを堪えながら2ndは振動刀を引き抜き、ターレットに突き立てる。


 保護カバーと重機関銃の外装が断末魔の様に耳障りな金属音を響かせ、激しい火花が周囲に撒き散らされる。


 飛び散る火花が頬を焼くのも構わず、振動刀に体重をかけると金属の外装を突き抜ける。

 即座に振動刀を抜き、生まれた小さな隙間へ強引に義手を突き入れてターレットに繋がるケーブル類を手探りで探り当ると、力任せに引きちぎる。

 強引に寸断されてバチバチと音を立てるケーブルの先端が右手と一緒にターレットから引き抜かれると、完全に機能を停止したターレットの銃口が力無く下を向いたのを確認できた。

 ようやく一息つけると額の汗を拭うが、唯一の攻撃手段を失ったL-SATが天井に乗る2ndを振り落とそうと大きな車体を左右に揺さぶり始める。

 慌てて沈黙したターレットに抱きつき、転がり落ちるのを免れた2ndは最後の抵抗を見せるL-SATを内心で忌々しく思いながら、車体後部に目を向ける。

 そこには平坦な天井では嫌でも目立つ四本の細い管―――L-SATにある弱点の一つ、エンジンへと繋がるマフラーがあった。

 左右にそれぞれ二本ずつ突き出ているマフラーを見つめ、2ndは左右に揺れる車体の動きを見計らう。

 そうして耐えている間に訪れた安全なタイミングで駆け出すと今度は突き出ているマフラーを鷲掴む。


 握り拳一つ分しかない小さなマフラーを右手で力一杯掴むと、嵌めていた手袋からからチリチリと焼ける音が鳴る。

 周囲に漂うプラスチックが焼ける不快な臭いに顔を顰めつつ、左手に持ち替えていた振動刀をマフラーの折れ曲がった部分に刃を当てる。

 砲塔よりも少ない抵抗で斬り落とされたマフラーの一部が天井から転がり落ちるのも見届けず、すぐ近くにあるマフラーを先ほどと同様に切り落とすと振動刀を片手で器用に鞘に仕舞う。

 尚も続くL-SATの悪足掻きに抵抗しながら2ndは手榴弾で作った手製爆弾をダンプポーチから取り出し、二つの安全ピンを同時に引き抜いてそれぞれ別のマフラーの中に落とし込む。

 すんなり入った爆弾がマフラーの中でコツんと音を立てるのが早いか、2ndはマフラーから手を離して最初に掴まっていた後部ハッチの元まで素早く移動する。

 再び後部ハッチの取っ手にしがみついた2ndはいつ手製爆弾が爆発しても良いように身構える。








 ――――が、いくら待とうと爆発する様子はなかった。

 爆発する様子が無く、不発に終わる事を危惧して再び天井部に登ろうと取っ手を握る力を2ndは緩める。いや、緩めてしまった。


「おいおい、まさかここまで来て不発――ってどわッ?!」


 直後にL-SATの底部から小さな破裂音と衝撃が響き、続くように最初の爆発を飲み込む大きな爆発が巻き起こる。

 装甲車自体が吹き飛ぶ事は無かったが、二度目の爆発の際に底部の装甲が吹き飛び、衝撃で後輪が大きく浮き上がる。

 さらに地面に叩き付けられると後輪の軸が折れたのか、大きなタイヤがあらぬ方向に転がっていく。

 後部ハッチに貼り付いていた2ndは後輪が地面に叩き付けられた拍子に頭を打ち付け、取っ手を握っていた指の力が完全に抜ける。

 痛みで視界が白くちらつく中、セカンドが見たのは握っていた筈の取っ手から手が離れて行く様と、遠のいていくL-SATの後部ハッチだった。

 全身を包む浮遊感とゆっくりと進んでいる様に感じる時間の中で2ndは自分の迂闊さを呪い、直後に襲ってくる衝撃で意識は黒く塗りつぶされた。


 科学? アクション? パニックにも分類できる気もするし。ファンタジーにも……いや、そりゃないか。


新ジャンル編成

この小説はどれに分類すればいいんや

(´・д・`)


 さて、次回更新は4/20を予定しています。

 それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 誤字・脱字・質問・感想など、首を長くしてお待ちしております。


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