17 冥土②
【前回までのあらすじ】
ナイフオタクでゴスロリメイドのシャルロットにドM疑惑浮上
あと冒頭部分に気分を害する可能性のある描写があります。
ご注意下さい。
また今後は同様の注意喚起は行いませんので、予めご了承ください<(_ _)>
シャルロットが潜んでいる場所を追手達に悟らせないようにカモフラージュを行った2ndは、包囲網の中心からやや外れた物陰に隠れていた。
「おい、奴隷の女とその仲間は何時になったら捕まるんだよ。もしかしたらもうとっくに捕まてるんじゃねーのか?」
「俺が知る訳ねーだろうが。それに捕まってりゃあとっくにジャミングが解除されんだろ。それがねーって事はまだ捕まえられてない証拠だ。それぐらい自分で考えろよ、その頭は飾りか?」
「はいはい、どーせ俺の頭ん中は空っぽですよ。
クソッ。折角横取りした奴隷としっぽりやってたってのに、何でたかだか女一人にこんな事しねーといけねーんだよ。大体女を逃がした上の連中は何やってんだ。さっきから全然姿が見えねーじゃねーか」
「それこそ俺が知るかよ。文句たれてる暇があったら女を探せ、もし一番に捕まえられたら一発出来るかもしれねーぞ?
それに幹部共の部屋に連れてかれて行くのをチラッと見たが、なかなかの別嬪だったぜ。しかも気が強そうな感じの嬢ちゃんだったから、無理やりブチ込んだらきっと良い声上げてくれるだろうさ」
「マジかよ、うわぁ早くヤってみてーなー!! 想像しただけでおっ勃ちそうだぜ。
あぁそうそう、イイ声で思い出したんだがな、ここに来る前にヤってた女が処女でよぉ。これがまた―――」
下衆な会話を物陰に隠れて聞いていた2ndは、のんびりとした足取りで歩いている二人の男が通り過ぎるのを待っていた。
息を殺し、影に同化するように身じろぎ一つせずに隠れていると、男達の会話は更に下品さを増していく。
「―――それであんまり暴れるもんだから、ぶん殴ってやったら従順になっちまってな。そっからは泣きながら自分で腰を振るようになって最高だったぜ」
聞くに耐えない会話を聞き流し、通り過ぎたのに合わせて男達の後ろに付くと、少し遅れて歩いている男の背後に姿勢を低く保ちながら忍び寄る。
残り2mの距離まで近づいた所で、そうかよと前を歩く男が相槌を打つと会話が一旦途切れる。
その隙に目の前にいる男との距離を縮めた2ndは背後から腕を回し、口を塞ぐのと同時に襟足から脳に向けて一気に振動刀を突き立てる。
刃が触れる瞬間に超振動を発生させるスイッチを押された振動刀はスルリと男の脳を切り裂き、抵抗する間もなく男の命を断ち切った。
うめき声一つ上げることなく絶命できた事に内心ホッとしつつ、血が飛び散らない様にスイッチを切られた振動刀を男から引き抜く。
そっと音が出ない様に注意して、静かに男を横たえる。
後ろを歩く男を襲っている時もずっともう一人の男に注視していた2ndだったが、前を歩く男が気付いた様子は一切無かった。
刃に着いた血糊を男の服で拭ってから立ち上がり、先程の男を始末した時と同様にもう一人の男の背後に忍び寄る。
しかし今度はあともう少しで手が届く距離に近づいた所で、男が不意に振り向いた。
「俺があてがわれた女は外れだったからなぁ、これが終わったらその女貸してくれな―――」
2ndは咄嗟に振動刀を握っていた右手で振り向いた男の頬を殴打し、男は台詞を言い切る前に倒れ伏す。
殴った拍子に硬質化した義手によって、男の口から血に染まった歯が吹き飛んでいく。2ndは追い討ちを掛ける様に、何事かと悪態を吐きながら立ち上がろうとしていた男の腹を蹴り上げる。
容赦の無い追撃に男は数メートル転がった先で血が混ざった胃液を吐き出し、身を守る様にうずくまる。
少しやり過ぎたかと男を見て頭を掻いた2ndだったが、先ほどまでの会話を思い出すと直ぐにまあいいかと思い直す。
転がっている銃を遠くに蹴り飛ばしてから、うずくまっている男の元に歩み寄る。
「おーい、生きてるかー?」
振動刀を鞘に仕舞い、鼻に付く吐瀉物の臭いに顔を顰めながら男を髪を鷲掴みにして持ち上げる。
暢気な声音と表情で顔を覗き込む2ndに対し、最初こそ苦しげだった男の表情が目の焦点が合うと、射殺さんばかりの目付きに変わる。
そんな剣呑な雰囲気を感じ取った瞬間、無意識の内に男の顔面を地面に叩き付けていた。
「あぁあ、ついやっちまった。聞きたい事が幾つかあったんだが……」
事もなげに呟いた2ndだったが、叩き付けた時にグシャりと何かが潰れる音がしており、地面には赤い液体が滲み出ていた。
大きな溜め息を吐き出して鷲掴みにしていた髪を放し、別の奴を探すか思案していると足元の男がうめき声を上げる。
よく見れば身じろぎもしており、意識もまだ残っているようだった。
「おぉ、何だ生きてんじゃん。てっきり顔面粉砕しちまったのかと思って諦めてたよ」
うっかりすれば聞き逃してしまいそうな程小さなうめき声だったが、目ざとく気付いた2ndは男を一息で担ぎあげる。
その際に男は苦しげな声と共に僅かな抵抗を見せるが、顔面強打が効いていたのかそれ程手こずる事は無く、そのままの状態で近場にあった廃墟の中に運び込む。
廃墟に入った2ndはすぐ様男を地面に放り投げ、脇腹を蹴ってうつ伏せに寝かせると、片方の膝で頭を押え付けて右腕を抱き込む様にして拘束。
そのまま腕が上がる限界まで持ち上げると、抑えている腕ごと体を思いっきり捻る。
「よっと」
―――ガキッ―――
「〜〜〜ッ!!」
子気味いい音と共に男の肩関節が外れ、だらりと力が抜ける。
当の男は顔面を抑え付けられて満足に声を上げる事も出来ず、ただただ痛みが過ぎるのを待っている風だった。
そんな痛々しい姿を見ても2ndの良心が痛む事は無く、男の髪を掴んで顔を上げさせる。
「お前には幾つか聞きたいことがある。俺としては素直に答えてくれると助かるんだがね、どうだろうか? あぁそうそう、質問以外の発言は受け付け無いんでそのつもりでな」
「………」
鼻は潰れ、前歯も何本か折れているにも関わらず男は気丈にも沈黙を貫き、絶対に喋らないぞと言う意志を感じられる剣呑な目を向けてくる。
「沈黙は了承と受け取るぞ。じゃあまず一つ目の質問だ―――」
今度はそんな目を見ても顔面を叩き付ける事はなかったが、肩を竦めて腰にしまった振動刀を引き抜き、男の背に馬乗りになると振動刀を握る腕を伸ばして男の視界内でこれみよがしにチラつかせる。
「―――お前、“歯医者”って拷問知ってっか?」
「ッ!」
刃の腹で男の頬をペチペチと叩き、目の前でスイッチを入れる。
キィィィィィイイインと小さくだが耳障りで甲高い音が振動刀から響き、差し出された刃全体が僅かに霞んで見える。
2ndの陽気な語調とは裏腹に見るからに凶悪な刃物に男は喉を鳴らし、これから自分がされる拷問を想像したのか顔面は一気に青ざめる。
「返事が無いなぁ。あぁそうか。知らないって恥ずかしくて言えないのか。それじゃあ優しい優しいお人好しの俺としては、教えてあげなくちゃあお人好しの名が泣くってもんだよなぁ。
ただ申し訳ないけど俺って口下手だからさ、実際に体験してもらうのが一番だと思うのよ。あ、あと仲間が助けてくれる事を期待してるんだったら諦めな。当分はこの付近に近寄りそうな奴はいないからな」
白々しい台詞を口にしながら霞む刃先を男の唇に近づけていく。
男は凶刃から少しでも逃れようと必死な抵抗を試みるが、身体の要所となる腰や肩を抑えられている状態では、顔を背けるぐらいしか出来る事は無かった。
「た、頼むッ、聞かれた事は何でも答えるから“歯医者”だけはやめてくれ!!」
あと数センチで刃が触れる距離に迫ってから男は声を上げ、目元に涙を溜めて悲痛な声で懇願する。
時間が無い中で拷問をしている余裕など元々ない2ndは直ぐに折れてくれた事に内心助かったと思ってはいたが、それを表に出す訳にも行かず、あからさまに落胆の溜め息を吐き出してスイッチを切る。
「なんだよ、知ってたのか……じゃあ次はちゃんと答えろよ、お互い面倒なのは御免だろ?」
「あ、ああ、そう…だな……」
2ndがスイッチを切れば男の表情に安堵の色が広がっていく。
本来ならば此処でもうひと押し脅しておきたい所ではあったが、何時シャルロットが見つかるかも分からない状態では省ける手間は省きたかった。
それに脅しや拷問で聞き出せる事の半分は助かりたいが為の虚言や、聞き出す相手を罠に嵌めるための狂言である事が多い。
その上、聞き出したい情報以外は初めから何も知らないよりはマシと言った程度の認識であり、聞き出したい情報の方も飽くまで見聞きして感じた事を裏付けられれば御の字と言った程度であった。
「じゃあ次の質問だ―――」
◆ ◆ ◆
最終的にあからさまな嘘をついた男の右中指と薬指はあらぬ方向へ折れ曲がり、対して2ndは聞きたい情報を聞き出していた。
一つ。最初にシャルロットを追っていた連中は尋問した男が所属している襲撃者グループの中でも、実力のある幹部達であること。
二つ。ジャミング装置を積んでいるのは2ndが当たりを付けていた軽装甲車であり、IAI社製L-SATのHQ仕様で間違いないこと。
三つ。全体の指揮を執っていたのは幹部連中だが、L-SATが到着し、シャルロットの捕縛を指示してからは何故か姿が見えないとのこと。
その他、男が知りえる情報を簡素に聞き出した2ndが今後の行動を考えていると座布団代わりにしていたレイダーの男が身じろぎをする。
「あ、アンタの質問には全部答えたろ。だ、だから解放してくれよ、頼むよ」
「うーん、どうしようかな」
折れ曲がった指の痛みに脂汗を浮かべ、情けない懇願が耳に入ると2ndは感情の篭ってない瞳を組み敷いている男へ向ける。
聞きたい事は既に聞き終え、もう男は用済みである。
2ndからしてみれば居場所や目的を質問の内容から察しているだろう男を生かしておくメリットはなかった。
そんな2ndの雰囲気を感じ取ったのか、男は慌てた様に言葉を紡ぐ。
「あ、アンタの事は誰にも、仲間にも絶対に言わないって約束する。そ、それに今回の件が終わったら俺はグループを抜けて真っ当に生きていくって誓うよ!! だ、だから今回だけは見逃してくれ!! 頼むよ……」
「まぁ、そこまで言うなら……」
男の必死な命乞いを聞いた2ndは男を押さえつけていた膝を肩からどかし、渋々座っていた腰の上から立ち上がる。
男は自分を押さえ付けていた拘束から解放された瞬間から唯一動く腕を着いて直ぐさま立ち上がろうとした。
「へへへ、恩にきr―――」
しかし膝立ちになった男の背後から手を伸ばした2ndは顎と頭頂部に手を添えると一息で捻り、骨が折れる微かな音と共に一瞬で首の骨を折って男の命を奪い取る。
首がねじ曲がり、力の抜けた男から手を離せばドサリと音を立てて倒れ伏す。
うつ伏せに倒れた死体に足を掛けてひっくり返すと、転がった拍子に左手に握られていた折り畳みナイフが転がり落ちて地面を滑っていった。
「あんな見え透いた嘘を信じる馬鹿がいる訳ないだろうが。嘘を吐くんならもっとまともな嘘を考えるんだな」
路端の石ころを見る様な感情の篭っていない目を死体に向けた2ndは手榴弾を奪い取って廃墟を後にする。
外に出た2ndは徐に手榴弾の安全ピンを引き抜き、これから向かう道とは違う方向に向かって思いっ切り投げ飛ばす。
小さくなって行く手榴弾を途中まで見送り、2ndは右手にはハンドガンを、左手には振動刀を持って走り出す。
走り出して間もなく手榴弾の炸裂音が鳴り響き、遅れてそこかしこから追っ手達の声が耳に届き始める。
直ぐそこまで迫っていた十字路に差し掛かる直前、2ndは物陰に隠れて息を潜める。それに呼応するかの様に何人もの人間が狭い十字路へ足を踏み入れ、走り抜けていく。
足音が遠くなるまで隠れていた2ndは再び走り出した。
増援で送られてきた人間達はコープや群れを追い出されたチンピラ連中だとも尋問した男は言っていた。
素人がやっている人的包囲網の目など、隠密行動の経験が多少でもあれば直ぐに抜けられる。
しかし素人の数は40人近くおり、例え全員が銃の扱い方しか知らない素人集団であったとしても、まともな指揮経験のある者が指揮をしていればもっと苦戦していただろう。
もしかしたら今頃この世に居なかったかもしれない。
だが現実は経験者である幹部達は何故か姿を消し、2ndは今も生き延びている。
時々歩哨の真似事をしている人間を物音も立てずに始末しながら走り続け、廃墟街の端に到達した2ndの視界の中には軽装甲車のL-SAT―――ではなく、銃座が取り付けられたピックアップトラックがあった。
直接L-SATを狙いたい所ではあったが、残念な事に廃墟街を包囲している改造車から若干離れた所に移動されていた。
遮蔽物どころか隠れる所も殆どない廃墟街の外では、不用意に近付けばL-SATの天井部にある機関銃砲塔で蜂の巣にされることだろう。
幸いな事に接近する為の足は相手が用意してくれている。
改造車を奪うことが出来れば、徒歩で近づくよりは数段生存率が高くなるはずだ。
頭の中で軽装甲車の配置や自分の現在地を大まかに描きながら、途中追っ手の一人から奪い取った上着と銃を身につけた2ndは堂々とした素振りで廃墟街の外へと躍り出る。
「ダズの旦那から伝言を預かって来たんだ!! 頼むから撃たないでくれ!!」
両手を高く挙げて身を出した瞬間、真正面にある改造車の銃座が2ndへと向けられる。が、その銃口が火を吹く事はなかった。
一見無謀な行動に見えるが、実際のところは分の悪い賭けでは無かった。
ジャミングによって2nd達だけでなく追っ手達の通信機にもノイズが走り、至近距離の相手にも繋がらなかった。
つまり追っ手達は口頭で連絡をし合わなければならず、包囲網を動かさなければ成らない非常事態が起きた際には伝令を寄越しても何ら可笑しい事は無い。
更に幹部連中ならばいざ知らず、チンピラ上がりのレイダー達の生存率は低く、人の入れ替わりは激しい。
装備が似ていれば仲間であると勘違いを起こす可能性があり、それが50mも離れていれば早々見破れるものでは無いだろうと2ndは考えていた。
ただし絶対に撃って来ないという確証があった訳ではなく、自分の命が長らえた事に内心安堵していた。
銃座に座る男が何やら大声を出していたが、聞く気のない2ndは撃つなとだけ言って改造車に向かって走り寄る。
「それでダズの野郎の伝言ってのは―――「その前に水をくれないか?ここまで突っ走って来たから喉がカラカラなんだ」ーーーッチ」
顔を見られないように息を荒くして俯き、食い気味に言えば運転手はあからさまに舌打ちをすると、水筒を投げ渡してくれる。
まったくツンデレなんだからとは口が裂けても言えないが、短く礼を言って貰った水筒を一気に煽れば、本当に乾いていた喉を微温い水が潤してくれる。
「それで、ダズは一体何をお前に伝えるように言ったんだ?」
「プッハー、やっぱり人間には水が必要だよな。それで、えーっと……あーそうそう、伝言の事ね。ダズの旦那の言伝ってのはコレの事さ」
水を満足いくまで飲み込み、十分に喉を潤して一息入れた2ndは早くしろよと言わんばかりに不機嫌さを隠そうともしない運転手を一瞥する。
そしてホルスターからハンドガンを引き抜き、銃座に座っていた男に向けて引き金を引く。
「なッ、貴さm―――」
仲間が殺された事を瞬時に理解した運転手は即座に助手席に置いていた銃へ手を伸ばす。だが奇襲を仕掛けた2ndより早く動ける筈もなく、男の血飛沫が改造車の助手席の硝子に打ちまけられる。
至近距離で発砲したせいで頬にまで飛び散った生暖かい返り血を2ndは拭い、ドアを開けて運転席から脳天に穴の空けた死体から手榴弾を1つ奪い取ってから転がり落とす。
また死体から引きちぎった上着の一部でフロント硝子まで飛び散った血糊を拭き取り、血臭漂う運転席に飛び乗ると思わず顔を顰める2nd。
「あぁ、クソ。ただでさえ暑苦しいってのに、こんな血生臭い車を運転するなんて最悪だ……」
エアコンを全開にして臭いを誤魔化し、座りの悪い思いをしながらもアクセルを思いっ切り踏み込む。
移動手段は手に入れた。
あとは生き残る為に最大の難関である装甲車を破壊するだけとなった。
次回はちょっと短めなので3/20に投稿を予定しています。
それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字・脱字・質問・感想など、首を長くしてお待ちしております。




