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01 プロローグ

「この作品は作者の痛い妄想が提供をしているZE(σ ̄▽ ̄)σ」

「……ぜ(σ≧∇≦)σ」

「だから登場する団体・国名・人名などは全て作者の空想の産物であり、同じもしくは似た名前が登場しても現実との関係は一切無いんだZE(σ ̄▽ ̄)σ」

「……ぜッ!!(б≧∇≦)σ」

 

 新生紀304年。


 かつて覇権を争った国々は汚染災害を期に瓦解し、残された人々は生きるために様々な技術を有する企業を旗印に団結をした。

 その後、国に代わり力をつけた企業が人々を導く新たな歴史を歩み始めてから300年もの時が経過した。

 

 ある夜の出来事だった。


 旧時代では周囲を明るく照らしていた街灯はその機能を失い、夜の帳に包まれる只のオブジェを遠く見下ろす位置に一人の男が居た。


《間もなく予定時刻です、作戦準備を開始して下さい》


 夜に溶け込む黒い髪に黒い瞳。

 アジア人特有の彫りの浅い顔立ちをした男の耳へ、装着されていたインカムから抑揚の乏しい女の声が届く。

 と、同時に遠くの空が立ち上る爆炎で真紅に染まる。

 男は揺らめく炎によって不規則に照らされる空を眺め、傍らに置いていたハードケースを引き寄せると留め金を外す。

 男が中を覗き込み、ハードケース内に隙間なく敷かれた耐圧クッションから様々な部品を取り出しては淀みなく組み立ていく。


「んじゃ、M-2(エムツー)さん。作戦の再確認よろしく」

《承知致しました》


 組み立てながら男が顔を上げると雲の切れ間から覗く月と星。

 それと遠くで断続的に生じる爆炎しかなかった男の視界の中に、ホログラム映像が映し出される。

 ホログラムは何かの施設を映しているのか、三階建ての建物はドアや窓に至る細部までもが無駄に作り込まれていた。


《この度の仕事は東南アジア先進社連合に所属するT-island社から依頼されたものです。依頼内容は我々の仕事と平行して行われる強襲作戦の補助となります。

 同作戦の主目的は同社に対する不当行為を行った不穏分子の排除、並びに拉致監禁された同社所属の技術者とその家族の救出です。そして本依頼における我々の任務は同社に併設されている警備部が不穏分子の拠点を強襲、制圧時に撃ち漏らした残党の排除です。また、逃走した残党が拉致監禁していた保護対象者を連れていた場合にはそれらの救出となります。保護対象者を無事に保護できた場合には人数に応じて特別報奨が支払われる事になっておりますので、誤って殺害しない様に注意して下さい。多くの保護対象が連れ回されている事を期待しましょう。

 それと警備部が事前に行った音響探査による調査結果が送られてきましたので、その情報を元に不穏分子が使用すると思われる脱出経路と出現ポイントを改めてマーク致します》


 M-2と呼ばれた女の声が長い文章を読み上げている間に、縮小されたホログラム映像は施設だけでなく、周辺の地図らしき物を映し出すと幾つかの赤い光点が現れる。

 それらはホログラムに映された施設の地下から伸びる三本の細い通路の終着点であり、その内の一か所は男の正面遠くにある廃村を指していた。


「再確認ありがとう、M-2さん。あとあんまり変な事を言うもんじゃないとオジさん思うんだけど」

《セカンド様は現在、圧倒的金銭不足に陥っております。報酬は多い方が宜しいでしょう? ド貧ぼ……セカンドさま》

「そこ、今失礼な事を言おうとしたよね? それに人には世間体というものがあってだね。あと、今俺が貧乏なのは俺のせいじゃないんだけどさ。その辺についてはどうお思いですか?」

《彼らは"企業”で、我々は"残り者(レムナント)"です。彼らが我々の事を気にする事は無いように、我々が彼等の事を気に掛ける必要はありません。そしてそんな行為は無意味です》

「……それもそうかね、てか貧乏の(くだり)はスルーする方向なのね」


 視界にのみ映されていたホログラムが消え、遠くで輝く光源達を眺めながらセカンドと呼ばれた男は苦笑いを浮かべた。そして間もなくしてセカンドは銃身の長い銃を組み上げる。

 だがそれは銃と呼ぶには余りにも歪で、余りにも混沌とした見た目をしていた。トリガーガード付近には握り拳二つ分もあるガスタンクが二個も取り付けられ、銃床からは幾本ものケーブルが血管の様に銃を覆い、不規則な位置で銃の各所へと繋げられている。

 何かの機材と言われれば鵜呑みにしてしまいそうな銃にバイポットを取り付けたセカンドは、手馴れた動作で銃の細かい調整を終えるとコッキングレバーを引く。


 ──ガコンッ──


 金属の噛み合う音と共に引かれるコッキングレバー。

 すると一拍の間を置いてストックを覆う様に施された外装の中からは歯車が回る様な音が響き始める。


keraunosu(ケラウノス)、正常に起動。現在、ケラウノスのエネルギー充填率3.2%、電磁腔施回転率1.2%。射撃可能な状態に達するまで1分12秒と予想されます。また冷却用液化窒素残量99%、バッテリー残量98%。24発迄なら問題無く扱える値です。

 T-island社の予想では二十人程度の残党が生じる可能性があるとの事ですので、弾数の上では問題無いでしょう。しかし二枚抜きなどをして頂けると微々たるものですが経費が安く済みます。如何でしょうか?》

「それって、俺に外すなって言ってるようなもんだよね? しかもその上で二枚抜きって言う高度な技術を要求するとか些か厳しくありませんか、M-2さんや。俺ってば専門の狙撃手じゃないんだけど」


 会話の最中でも銃身を覆う外装の中では回転音は速くなり続け、銃口からは蓄積されるエネルギーを放出しようとか細い紫電が溢れ出ている。回転音も次第に重い音から、軽く高い音に成りつつあった。


《……………失礼致しました。先ほどマスターの発言を受けまして必要物資の再演算を行いました。

 結果として窒素ガスタンク並びにエネルギーパックが4つ、弾薬があと100発ほど追加で必要になると予想されます。あらかじめ不穏分子の残党が現れる前に補給を行い、万全の状態で挑む事を推奨致します》

「高々20人殺すのに合計124発って一体どんだけ俺の射撃下手なんだよ!! 一人辺り6発も外したこと過去にありましたっけ?!」

《………まったく我侭な方ですね。分かりました、そこまで仰られるのでしたら仕方ありません。

 現在、装甲車内にあるケラウノスへ流用可能な弾薬やパーツを再度検索致しました。その結果として弾薬は合計200発、稼働パーツに付きましては250発分を追加捻出可能ですので、早急に追加物資の回収をお願い致します。

もし回収が難しいのであれば、装甲車で物資を直接お届け致しますが如何でしょうか?》

「如何でしょうか、じゃねーよ!!何であの会話から命中率が下方修正されてるんですかね!? しかも物資の追加要請なんていつしました?! そこは俺の顔を立てて上方修正しとこうよ!!」

《ケラウノス、エネルギー充填率92.3%に達しました。いつでも射撃可能です》

「ハイッ、スルー頂きましたー!! ……はぁ、仕事しよ」


 セカンドは疲れた表情を浮かべ、傍らに置いた長銃(ケラウノス)を見る。

 銃身からは漏れていた回転音は耳を澄まさなければ聞き取れない程に抑えられ、銃口から溢れ出ていたエネルギーの残滓も銃の内部へと押し込められている。

 再び大きな溜め息を吐き出し、腰に付けたポーチから1つの小瓶と目薬を取り出すセカンド。顔の前まで持ち上げられた小瓶の中は透明な液体で満たされ、その中には五角形と六角形を組み合わせたサッカーボールの様なデザインをした10ミリ程度の球体が浮かんでいた。

 小瓶の蓋を開けて球体を取り出し、空いている方の手の親指と人差し指で右瞼を可能な限り押し広げ、強制的に見開かれて小刻みに動く瞳孔を中指で触れる。

 触られた眼球が痛みを感じるよりも早く、小さな音を立てながら右眼球は本来の大きさの半分程度に縮まり、セカンドが下を向くのに合わせて掌へ転がり落ちる。

 慣れた手つきで眼窟から取り出した眼球を液体だけに成った小瓶に落とし、代わりに手に持っていた球体を空になった右眼窟の中に押し込む。軽く瞼を閉じて球体が落ない様にしながら脇に置いていた目薬を数滴垂らせば、閉じられた瞼の奥で小さな機械音が鳴る。

 音と連動して起きる眼窟の中で異物が膨らむ圧迫感。また自分の体内で動く異物がある不快感に襲われるが、顔を顰めながらもポーチから眼帯を取り出すと今度は左眼を塞ぐように取り付ける。


《視神経接続並びにその他の接続シークエンス、オールグリーン。兵装義眼/ELC-C301とのリンクも異状なし。狙撃用単眼義眼/MASAMUNE、正常に起動します。》


 無線機からの声に応じて瞼を開けると視界の右半分が色彩の無い景色が映るが、それも僅かな間。新たな義眼が映す景色は徐々に色を取り戻している。

 やっぱり何回やっても慣れねーな。そう渋い表情のまま呟いた時、新たな電子音が無線機に届く。


「ん、動体センサーがお客さんのご到着を知らせて来たね。そいじゃあ風・熱対流・その他諸々の弾道干渉要因の可視化よろしく」

《承知致しました。ついでにスコープのゼロイン調整が完了いたしましたので報告致します》

「はいはーい」


 セカンドの半分しかない視界がMASAMUNEの広範囲採映レンズ、眼帯に内蔵された処理システムによって眼帯で塞がれた左眼が見ていた景色を描き足していく。

 更に見える視界全体に可視化された風が緑色でかつその強さに応じた濃さで染まり、日中の太陽が温めた地面から昇る対流を風と同じように薄青色に染め上げる。

 視界内にマークされた建物へ銃口を向け、腹這いになりながらスコープを覗きこむ。二枚の凸レンズによって拡大された視界の先には、揺らぐ爆炎に淡く照らされた廃屋から数人の人影が出てくる所だった。


《予めポイント01付近に展開していた三番リコンが15人程の人影を捕捉いたしました。獲得情報の整理を行った結果、服装や歩行姿勢から総数の内4名が保護対象者と思われます。殺害対象を白、保護対象者を赤、未判定対象を黄色でマーク致します。また観測リコンが捉えた情報を統合し、貫通可能と思われる遮蔽物を透過します》


 スコープの先に見える景色が更に変わり、セカンドは大きく息を吸い込んで肺に空気を十分に満たす。そして惜しむようにゆっくりと吐き出し、外していた人差し指をそっと引き金に添える。


 直後、豪音が周囲にまき散らされる。


 セカンドの構える銃から轟く音に合わせ、内蔵された後退機構が発生した発砲の衝撃を最小限まで減衰させる。僅かにぶれた照準をすぐ様戻すとMASAMUNEが描き足した弾丸の軌跡が真っ直ぐと狙撃地点へと伸び、終着点では頭部を失った白色マーカーが崩れ落ちる所だった。

 セカンドはなんの感慨も無く手早く重いコッキングレバーを引き、薬室に残る空薬莢と銃身に流し込まれて気化した蒸気を外へと逃がす。

 吹き出た白い蒸気で周囲が揺らぐ中、セカンドは遠くで慌てふためく別の白色マーカーへ慎重に且つ素早く照準を合わせ、電力の再充填が終わった瞬間には再び引き金を引いていた。

 耳をつんざく独特な高音が、ケラウノスの銃口を中心に大気を震わせる。

 軌跡を描きながら突き進む二発目の弾丸は一キロ以上離れた一人の胸元に大穴を開け、背後に居たもう一人のはらわたを引き裂きながら地面を穿つ。


《二番リコンがガソリン式エンジンの起動音を感知致しました。そちらから視認できますか?》

「ちょっと待ってな。……あぁ、あれかなぁ」


 スコープから顔を上げ、廃墟へ顔を向けていたセカンドの単眼義眼は確かに廃墟の中に車のヘッドライトと思しき灯りを見つけていた。セカンドはそんな灯りを睨み付けながら左手で輪を作り、それを右目に宛がう。

 行動認識によってMASAMUNEは視線の先を拡大していき、セカンドは鮮明とは言い難い荒い映像に軽い目眩を覚えながらも、拡大された映像には見覚えのある小型の装甲車が映されていた。


《運転手の狙撃、もしくは対象の破壊は可能でしょうか?》

「えーっと、アレは(ガンズ)(アーミー)のコクーンか? もしそうなら出来ない事は無いだろうけど、無駄弾を消費しそうやね。だったらまだ保護対象も乗り込んで無いっぽいし、M-2さんに任せちゃった方がいいかもなぁ」

《承知致しました。ではこちらがその装甲車を破壊致しますので、対象の追加捕捉をお願い致します》

「りょーかい。MASAMUNE音声コード:X24のへ、視認ビーコンを起動」


 セカンドが言葉を発し終わるのに合わせて指で作った輪の先にある装甲車に光点が現れ、確実に光点がコクーンに定まったと思った直後には、一発の光弾が隠れ蓑として使われていた廃墟ごとコクーンの装甲を貫いていた。

 ガソリンタンクごと装甲を貫かれたのか、コクーンは一拍の間を置いてから周囲を巻き込む派手な爆発を引き起こす。


「派手にやったねー」


 もくもくと上がる黒煙を見ながら呟いたセカンドは再びスコープを覗き込み、装甲車の爆風を受けて吹き飛び、幸か不幸かまだ息のある対象に照準を合わせて引き金を引いて行く。

 そこからは同じ様な動作を繰り返すだけの作業を熟す時間となった。

 コッキングレバーを引き、逃げようとしている別の対象に照準を合わせ、充填が終わるのを見計らって引き金を引く。弾倉が空に成れば入れ替え、確実に白色のマークが施された人物に弾丸を届けているセカンドの身体はまるで機械の様に淀みなく引き金を引き続けていく。


 そうして2つ目の弾倉に込められた弾丸の半分が消費される頃には狙撃対象と判定されたマークの全てが倒れ伏していた。脳髄やらの欠片が散らばって酷い光景になっているだろうポイント01だったが、赤いマーカーの数は一つたりとも減ってはいなかった。

 念入りに撃ち漏らしがない事を確認し、まともに動いているのが赤色のマークだけなのを見て大きく息を吐き出した。


「はい、終了っと。したらば作戦本部にポイント01の制圧完了と保護対象の回収依頼をしといてくれ。俺は予定通りポイント02に移動するからその事もついでに報告しといて」

《承知致しました》


 セカンドはスリングを取り付けてからケラウノスを担ぎ、肩にベルトが喰い込むのを感じながら少し離れた所に置いてあった四輪バギーに跨る。遠くで轟々と燃え上がる装甲車の黒煙を尻目にエンジンに火を入れた。


「さっさと終わらせて休みたいね」

《既に今回使用された弾薬等の経費は特別報酬によって回収されてますので、セカンド様の意見に同意致します。さっさと終わらせて次の依頼へ参りましょう》

「相変わらず君の明け透けな言いざまはブレないね。実際に体力を消費するのは俺なんだけど、そこら辺の事はどう思ってるんですかね?」

《ポイント02にマーカーを表示致しました、どうぞご移動下さい》

「ホントに君の都合の悪い事への投げっぱなしは相変わらずだね!!」


 セカンドはまだ仕事の途中だと言うのに酷い疲労感に苛まれながらもアクセルを全快にしてその場を後にした。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

誤字・脱字・質問などがありましたらお気軽にお尋ねください。

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