16 冥土①
お待たせいたしました<(_ _)>
シャルロットは『地上の楽園』を運営しているコルネオカンパニーの幹部――セルジオ・キャンベルの娘であり、コルネオカンパニー内の諜報活動を行っている部署に所属している人間の一人だった。
そして近頃、グラウンドエデン周辺で不穏な動きをしている襲撃者グループがあるとの報告を受け、上層部へ報告する為に部下や自身で調査を行った。
その結果、件の襲撃者達は近隣の主要陸路を利用している輸送車を襲うだけに留まらず、何処からか仕入れた麻薬の類を周辺コープや群れ、ユニオンにまでバラ撒いていたのだ。
禁制品の売買については一切認知しないと公言し、その事から莫大な利益を上げているグラウンドエデンではあったが、自分達にとって薬にも劇薬にもなるそれらの扱いには細心の注意を払ってきた。
常に情勢を注視し、自身が禁制品を扱う際には各組織が必要悪として見逃すグレーゾーンからは逸脱しないよう、裏の人間達の中心に立ってコントロールしてきた。
何故そこまでするのかと言えば、グラウンドエデンを中心とするように結ばれた様々な行路の先には、彼の地を虎視眈々と狙っているユニオンがいるからだ。
アフリカ大陸北部にあり、JDバッテリーで使用される貴金属の最大輸出企業である『アフリカ北部部族連合』
旧ヨーロッパ圏の各地に統治都市を持ち、アフリカ北部部族連合と対立関係にある『NEC's』
世界最多数の都市保有数を誇り、軍事力においては他の追随を許さない『真ソビエト連邦』
今は内憂で陰りがあるが、それでも様々な産業において上位であり続けている『IPBM』と『中華一統共和国』
人口も、経済規模も、保有している武力すらも。世界的に有数な規模を誇るコープであるグラウンドエデンといえど、全てにおいて彼等の足元には遠く及ばない。
そんな相手に囲まれているグラウンドエデンが今尚存続出来ているのは、薄氷の上を渡るような慎重さを持ってお互いを啀み合わせ、決して攻め入る口実を与えてこなかったからだ。
故に例え言い掛かりのような言い分であろうと、ユニオン相手に口実を与える訳にもいかないグラウンドエデンは、必死に保ってきた均衡を乱れさせている背後の組織ごと潰すため、シャルロットを含む数人をレイダー達の元へ送り込んだ。
売られる奴隷に扮したシャルロットと他二名の仲間。
そしてシャルロットやグラウンドエデンの罪人を詰め込んだ奴隷商に偽装したトラックが使う経路を密告し、取り入る形でレイダーとして潜入した仲間が一人。
目論見通りの行動をレイダー達はとり、潜入は呆気ないほど簡単に成功した。
それから最低で最悪な三日間を過ごし、十分な情報を手に入れたシャルロット達がグラウンドエデンにレイダー達の根城の位置を伝える段になって、順調だった潜入に異変が起きた。
まるで潜入していた人間を知っているかのように、レイダーに扮した仲間と奴隷に扮していた仲間の一人が殺された。
残った二人は急いでレイダー達の根城から脱出したが、事前に打ち合わせていた緊急時の回収地点に向かっている道中で生き残っていた仲間が倒れ、シャルロットも回収地点とはまったく違う方向へと追い立てられた。
そして追い詰められた廃墟街でバギーが横転した時、とうとう命運が尽きたかとシャルロットは一度諦めた。
だが、自分が想像していたような結末にはならなかった。
人を食ったような態度をした、いけ好かない傭兵に助けられたのだ。
シャルロットの前を行く命の恩人である2ndの背をチラリと見るが、彼は不用意に姿を見せてくる追手達を躊躇いなく次々と撃ち抜いていく。
アームズ・アンドロイド。
前時代に存在していたと言う対人兵器を彷彿とさせるほど、一方的に相手を射殺している2ndの実力を目の当たりにしたシャルロットに言葉はなかった。
後ろから迫っている相手をフルオートで牽制するか何とか仕留められているシャルロットに対し、2ndは牽制以外では確実に二発の銃弾で相手の息の根を止めている。
どれだけの敵が居るかも分からない状況下で冷静に、ただ淡々と処理をする。
相手を仕留めている2ndの後ろ姿を見てきたシャルロットの脳内は、ある種の畏れと大きな疑問が占めていた。
長年コルネオカンパニーの幹部の娘として多くの傭兵と関わりを持ってきたが、実際に目の当たりにした2ndの腕に並ぶか、彼よりも腕の立つ傭兵は片手で足りる数しか思い当たらなかった。
そんな2ndの存在を知らなかった事も疑問の一つだったが、彼程の熟練した腕があれば足手まといとされても文句の言えないシャルロットさえ見捨てれば、今直ぐにでもこの状況から脱出は可能だろう。
それにシャルロットと2ndの間には面識など無く、どうやらシャルロットの救出を依頼されたのでも無さそうなのだから、今すぐ見捨てた所で傭兵として誹りを受ける立場にも無い。
なのになぜ助けてくれるのか。
それが本当に分からなかった。
出会った当初は自分を陥れる為の罠なのではとも思っていた。
しかし2ndは追手達を躊躇い無く殺し、見捨てられても仕方が無い状況に陥ってもシャルロットの傍を離れずにいる。
今も不意に立ち止まったかと思うと、後ろを警戒していたシャルロットの襟首を掴み、強引に引っ張られる。
咄嗟に睨み付けてしまったシャルロットだったが、その直後に自分が見逃していた追手の一人が廃墟の屋上から撃った弾が地面を穿つ。
……2ndの背中には目でも付いているのだろうか。
そんな場違いな感想は兎も角として、何時も胡散臭い笑みを浮かべ、二三流の傭兵のように軽薄そうな雰囲気を持っていた2nd。
それが今では第一印象を払拭どころか別人とも思える真剣な表情を時々見せるようになり、シャルロットは2ndに賭けてみる事にした。
どの道、2ndが居なければ悲惨な末路を辿っていたのだから。
そう諦めていたのかもしれないが。
◇ ◇ ◇
「あっちぃ……」
銃声にかき消されてしまう程の小声で無意識の内に呟いていた。
2ndは鬱陶しそうに馬鹿正直に路地から堂々と姿を見せた男に銃口を向け、引き金を引く。
二回引かれた引き金は銃口から二発の弾丸を放ち、不用意に飛び出してきた男の胸と頭部に吸い込まれる様にして突き刺さる。
崩れ落ちる男のすぐ近くから別の男が飛び出してくるが、2ndはその男も先程の男と同じ末路を辿らせる。
「はぁ……」
引き金を引きながら溜め息を吐き出して断片的に現れる相手を始末していくが、あまりの手応えの無さに呆れてしまう。
折角身を隠しているのに、罵声に似た大声で指示を出しているせいで場所は丸分かり。
人数差があるのだから多少の犠牲には目を瞑り、優位を最大限利用して総攻撃を行えば二人ぐらい直ぐに始末出来るのにそれもしない。
今も隠れているつもりなのだろうが、物陰からは脚の装備らしき物が出てしまっている奴もいる。
シャルロットをジープで追っていた連中と比べて射撃の腕も酷く、銃の質も最低クラスの物を使い、統率すらまともに取れていない行動はまるで素人同然だった。
真綿で首を締める様な息苦しい緊張感はあるものの、対処の仕様も無い事態に成っていない事には感謝する。
そして物陰から出ている装備を目印に壁ごと脚を撃ち抜き、崩れ落ちて出てきた頭部を狙いつけて引き金を引く。
脳天を突き抜けた弾丸は着弾と同時にピンク色の脳髄を周囲に撒き散らし、糸の切れた操り人形の様に倒れる死体を視界に納めていた2ndの背筋が不意に疼く。
咄嗟に後ろを警戒していたシャルロットの襟首を掴んで引き寄せるが、後ろから飛来してきた弾丸は見当外れな空間を通過して地面を穿つ。
文句あり気なシャルロットの視線を黙殺し、2ndは振り返るのに合わせて片手で銃を構え、廃墟の上にいた射手に素早く狙いを定めて引き金を引く。
三回引かれた引き金のうち放たれた二発の弾が真っ直ぐに射手を射抜くが、代わりに引き金にロックが掛かり、弾倉が空に成ったのを知らせてくれる。
再度向き直る時には持っている弾薬の半分近くを消費している事実に顔を顰め、使用した弾丸や途中で捨てた弾倉の総額を思い浮かべそうになるのを何とか堪える。
あまり深く考えると、出費の多さに自暴自棄に成りそうだった。
邪念を思考の隅に押しやりながら銃を勢い良く捻り、その最中に弾倉のリリースボタンを押せば、空の弾倉が簡単に宙を舞う。
そこへ予めマグポーチから抜き出しておいた新しい弾倉を差し込んでチャージングレバーを引けば、僅か二秒でリロードが完了する。
リロードの合間を狙っていただろう追手達は驚き、阿保面を晒している僅かな隙に相手の額に弾丸を打ち込んだ。
そうして三人ほど返り討ちにしながら射線を切らせるために小道に身を寄せると、相手側がお返しとばかりに投げた手榴弾が2nd達の足元近くで音を立てて小さく弾む。
「ッ?!!」
すぐ近くでシャルロットの息を飲む音を聴きとるが、2ndは慌てる事無く手榴弾を鉄板の入った爪先で蹴りあげる。
軽快な音と共に手榴弾は綺麗な放物線を描いて元の持ち主が隠れる物陰の上空へと送り返され、一拍の間が空くこともなく轟音と噴煙が物陰の奥から巻き起こる。
しかし予想外な事に老朽化していた廃墟は手榴弾が炸裂した衝撃にすら耐えられず、連鎖的に崩れだした廃墟の瓦礫によって2ndの進もうとしていた道が塞がれてしまう。
大量に舞い上がる粉塵に飲まれながら舌打ちをするも、シャルロットと逸れないように彼女の襟首を掴み、進んで来た道を少し戻って別の脇道に滑り込む。
「一々襟首を掴むな!!」
「ごめん、ごめん」
粉塵の中から抜け出て早々シャルロットから不満の声が挙がるが、それを適当にあしらいながら2ndは乾いて張り付いた血糊や汗に混じった粉塵を拭う。
しかし拭い切れない不快感が2ndの神経を逆撫でる。
つい見捨てたい衝動に駆られるが、既に乗りかかった船である。今更見捨てるのも後味が悪く、最後まで面倒を見るかと諦めるしか無かった。
2ndはさっきより強く感じる様になった抗議の視線を気のせいと切り捨てるが、内心では助けた事もあるのだし多少は大目に見てもらおうとも開き直っていた。
突然の進路変更で追っ手の攻勢は一旦無くなり、ある程度なら考え事できる位に余裕が生まれる。
そして2ndはあまりにしつこい追跡に首を傾げた。
既に乱戦に陥ってから十人近い損害を与えたにも関わらず、相手が一向に引き上げる様子がなかったからだ。
シャルロットの言と相手の行動を鑑みれば相手はただの襲撃者の筈であり、烏合の衆である彼等がたかだか女一人の為に十人以上の損害を出しても執拗に攻めてくる理由が分からない。
意地になっているにしても、流石にもうそろそろ諦めてもいい頃合のはずだった。
彼等が企業やコープやらに雇われた傭兵達ならば、機密事項なりを盗み出したシャルロットを追っているのならこの執拗さにも肯ける。
しかしシャルロットが持っている十発に一回は弾詰まりを起こしている質の悪い銃の事を考えると、素直に頷くには抵抗があった。
それに少なくとも何十人以上も傭兵を雇えるだけの資産がある相手なら、費用対効果の高い機動殻や強化装甲殻を一機ぐらい配備させているだろうと。
そこまで考えると、今度はシャルロットの言っていた救援のことも気になってくる。
そもそも奴隷として売られた人間を取り戻そうとする奴がいるのかという疑問がある訳だが、奴隷商から襲撃者達に渡ったのに救援があると断言出来る自信は、一体何処からやってくるのだろうか。
シャルロットの狂言とも考えられるが、話している時の様子からその線は薄い気がしていた。
不特定多数の敵に囲まれ、絶え間なく銃弾が飛び交い、脱出する手立てもほとんど無い。
更に付け加えるならば、命を預けている相方に絶対の信頼を置けない。
そんな状況下になれば普通の人間なら絶望するか、自棄になって突発的な行動に出たりするものだ。
しかし後ろに付いて来ているシャルロットの表情を盗み見ても、考え事をしている風ではあるが、追い詰められた人間特有の薄暗い雰囲気は感じ取る事が出来ない。
では何が彼女を支えているのだろうか。
シャルロットの言った何時来るとも知れない救援か。
似たような状況を経験した事があるのか。
それとも彼女が隠そうとしている事と関係があるのか。
深く考え込みそうになったのを感じて2ndは頭を振った。
こういう厄介事に深く関わり過ぎると碌な事が無い、と彼の経験が警鐘を鳴らしていた。
……既に深く関わっている事についてはあまり考えないようにして。
取り敢えずまた聞こえて来た大勢の足音に2ndはうんざりし、シャルロットの腕を引っ張って二階の中程から上を失った元ビルらしき廃墟の中に身を隠す。
「なぁ、本当にこの状況から抜け出す手立てが無いのか? こうも鬱陶しいと流石にうんざりしてきたんだが、そこら辺どうなんですかね」
「…………」
「また黙りね、いい加減分かってきたよ」
「………てる」
「あ? 何か言いたいならはっきり言えよ」
「……実は発信機を持っている」
「はい?」
いきなり何を言っているんだコイツは、馬鹿じゃないの……そんな表情がありありと出ていたのか、2ndに真剣な眼差しを向けていたシャルロットの瞳に若干の苛立ちが宿る。
「だから! 今私は発信機を持っていて、その位置情報を元に仲間が雇った機動殻乗りがくる手筈になってるんだ!」
「…………」
2ndは隠れている事を忘れ、大声を出すシャルロットを注意する言葉すら失った。
しかし、そんな中でも2ndの脳はフル回転してシャルロットの言った事を瞬時に理解する。
「じゃあ、アレか。お前の言う救援が何時まで経っても来ないのは、ジャミング装置のせいで場所が分からないからなのか?」
「……私が所定の時間に合流地点に来ない場合は、一時間後に雇った傭兵が発信機を元に私の所に来ることになっていたんだ。既に約束の時間から一時間は経っているし、機動殻の出せる速度にもよるだろうが、恐らく2ndの言った事が主な原因だと思う」
「………はぁ」
2ndは殊更大きな溜め息を吐き出し、大量の空気を吸い込む事で怒鳴り散らしたい衝動を必死に押さえ込む―――
「お前は馬鹿かッ!?」
―――が、ダメ。
息を吐き出すと同時にシャルロットの大声を大きく凌ぐ声量で、叫ぶ様に叱責の言葉を口にしていた。
「なんでそれをもっと早く言わないんだお前はッ!!
周囲の様子を見ている時にジャミング装置を積んだっぽい軽装甲車があったってのに、あの時言ってればこんなめんどくせー状況からとっとと脱出できたかも知れないだろッ!!
シャルロットのバーカ、アーホ、ドジ、マヌケ! お前のせいで無駄弾消費したわ!!
だいたい何でそういう大事な事を言わないんですかね! こんなクッソ暑い日中を走り回って、埃も被って一体何が楽しいのか俺には全く理解できないんですけどッ!?
お前はあれか、アッツイなかメイド服で敵に追い回されて喜ぶドMか? ドMなのか?
お前の趣味嗜好に対してとやかく言う気はないが、それに付き合わされるこっちの身にも―――」
矢継ぎ早に2ndの口からは鬱憤を晴らす様に幼稚な憎まれ口が尽きる事無く飛び出していた。
最初の方は自分に非がある事を認めて黙っていたシャルロットだったが、2ndの憎まれ口があらぬ方向に反れに反れ、最終的には愚痴に近い事を言い始めて流石に我慢の限界が訪れた。
「黙っていたのは済まないとは思うが、何で私がそこまで言われねばならないんだ!! だいたい、元を正せば見るからに怪しい登場の仕方をした2ndにも問題があるだろう?!」
「あ〜、あ〜、き〜こ〜え〜な〜い〜ッ!」
シャルロットが胸倉を掴んで自分の意見を主張してくるも、対する2ndは両耳を大袈裟に塞いで都合の悪い事は聞かない事にした。
「こんのッ!!」
稚拙な態度に気が長い方ではないシャルロットは頬を引き攣らせ、こめかみに青筋を浮かべながら握り拳を振り上げる。
しかし2ndは胸倉を掴むシャルロットの腕を払い除け、振り下ろされた拳をヒラリと躱すと腰に残っていた投擲斧を取り出した。
武器を手にした2ndを見て息を呑むシャルロットを尻目に、かつては硝子窓がが嵌め込まれていただろう窓枠へ投擲斧を投げ付ける。
「いt―――」
投げられた斧は廃墟の中を覗き込み、増援を呼ぼうとした男の脳天に深々と突き刺さる。
シャルロットは崩れ落ちる男を見て呆気に取られていたが、あれだけ騒いでいれば見付からない方が可笑しいだろう。
と言うより、先程の男から後続が来ない事の方が2ndにとっては驚きだった。
窓辺に寄って男が絶命している事やまだ包囲されていない事を確認すると、窓枠を乗り越えて頭に斧を生やしている男を担ぎ上げると再び廃墟の中に身を隠す。
「取り敢えずこの状況をどうにかする方法を考えとくから、それまでシャルロットは周りの警戒でもしててくれ」
「……分かった」
渋々と言った様子で周囲の警戒をするシャルロットを横目に、担ぎ込んだ死体を物色しながら考える。
今置かれている状況下から脱するには、少なくともシャルロットの言った救援の機動殻が来なければほぼ不可能だろう。
となるとやらなければならない事は無線信号を妨害しているジャミング装置を破壊するか、何らかの手段を用いてこちらに向かって来ているだろう機動殻に今の居場所を知らせることだ。
しかしどちらを選んだとしても、それぞれには大きな問題点がある。
まずジャミング装置を積んでいるのは、恐らくだが迷宮化している廃墟街の外で包囲網を形成している改造車群の中でも異質だったIAI社製の軽装甲輸送車/L-SAT。
重戦車やリトルキャッスルの様に厚い装甲が無いだけまだマシだが、相手は腐っても装甲車。
手持ちの火器類では表面装甲すら貫くのは不可能であり、手早く破壊できなければ駆け付けた増援にハチの巣にされる事だろう。
かと言って機動殻に場所を知らせようにも、2nd達の今いる場所周辺はグラウンドエデンへ向かう賞金首の残り物と賞金稼ぎ達の争いが多く起きている地域でもあった。
決められた色の発煙筒や照明弾があるなら話は別だが、絶えず戦闘が起こっている激戦地からは多少離れてはいるが、ちょっとした戦闘音や黒煙の狼煙程度では珍しくもない。
万が一、救援が見逃しでもしたら無事に助かる見込みは極端に減る。
どちらを選ぶにしてもそれ相応のリスクがあり、検討しようにも悠長に考えている暇もない。
目の前に転がる死体が間抜けなお陰で正確な居場所までは突き止められてはいないだろうが、それでも大体の見当は既に付いていると考えて問題はないだろう。
あと一、二十分もすれば包囲網は狭められていき、何かをするにしてもにっちもさっちも行かなくなる状況に陥る。
取り敢えず危険を伴うが確実性の高い装甲車をどうにかする算段を考えつつ、死体から目ぼしい道具を取り上げ終わった2ndは戦利品を確認する。
見るからに粗悪な作りをした手榴弾が三つ。
ジャミングで使い物に成らない小型通信機が一つ。
シャルロットの持っている銃と同じ弾倉が四つに、超が付くほど粗悪な銃が一丁。
どれをとっても普通に使ったのでは車体下部に至る全面に装甲で覆われたL-SATに対して、微小な傷をつけるだけで終わってしまうだろう。
手榴弾にしても、飛び散る破片で人体にダメージを与えるため、本来であれば構造物や装甲車などには有効ではない。
だから装甲車に対して使うには、加工が必要だった。
2ndは慣れた手付きで弾体と安全装置を繋ぐ部分に振動刀を当てて切り離し、内部に詰め込まれた殺傷力を上げるための鉄球だけを残して安全装置に繋がっている着火装置と不燃液体火薬だけを取り出す。
同様の手順で残る手榴弾も分解した2ndは、一つを残して火薬を着火装置から切り離し、唯一安全装置と繋がっている火薬に合わせるとダンプポーチで持ち運んでいたダクトテープでしっかりと固定すれば、棒状の簡易爆弾の出来上がりである。
手馴れているとはいえ、一歩間違えたら惨事へ繋がる作業をしていた為か、硬くなっていた肩を回していると怪訝な表情をしたシャルロットと目があった。
自慢げに手製爆弾を見せ付けるが表情を変えないシャルロットに2ndは肩を竦め、徐に立ち上がるとスリングを外して持っているアサルトライフルをシャルロットに投げ渡す。
慌てて投げ寄こされた銃を掴むシャルロットを尻目に、タクティカルベストすら脱ぎ捨てた2ndはベストとの間に篭っていた熱から解放され、若干だが涼しくなった事に感嘆の溜め息を零した。
「さっきもそうだが、物を渡す時はひと声掛けてくれ。危うく落としかけたぞ。それに銃を渡して、一体何をする気なんだ?」
「ちょいとばかり軽装甲車をぶっ壊して来ようと思ってな」
「はぁ?」
コイツ馬鹿かと言わんばかりの表情に2ndは苦笑いを返し、ベストのマグポーチから残っていた三つの弾倉をシャルロットの足元に転がす。
「まぁ信じられないかも知れんが、手立てはちゃんと考えてある。面倒臭いから装甲車の壊し方の説明は省くけど、俺が装甲車を壊して救援の機動殻が来るまでお前は絶対にここから動くなよ。
それと俺の銃は貸しといてやる。残弾数は心許ないと思うだろうが、今使ってる奴よりは100倍マシな筈だ。ただし、死にたくなかったら銃を使う時は相手に見つかってどうしようも無くなった時だけにしろよ」
「お、おい!!」
「あと、助かったら弾代と助力費をふんだくってやるからな。覚悟しとけよ」
「だから待ってくれセカンd―――」
訳が分からず引き止めようとするシャルロットの言葉を最後まで聞くことはない。
2ndは呆然とするメイド服の女を残して廃墟を飛び出した。
NEC's……日本●気じゃないですよ?
次回更新は3/3を予定しています。
それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字・脱字・質問・感想など、首を長くしてお待ちしております。




