13 メイド①
お待たせしました。ただし今回は所謂、説明回
テンペストとの情報交換などを終え、再び装甲車での移動の日々が始まった2nd達は途中にある小さなコープで飲料水等を細々と補給しながら、世界的に有数な規模を誇るコープ『地上の理想郷』へと向かっていた。
しかし疲れを知らない筈のM-2が運転しているにも関わらず、装甲車は道中にあった何十年も前に放棄されたと思しき廃墟街に停まっていた。
廃墟街の外れにひっそりと残されていた大型施設の中に装甲車に停めさせ、簡易の偽装を施した2ndは工具箱を持って佳奈と夜明けの涼しさが残る外にいた。
本来電力のみで動くリトルキャッスルには、走行だけであれば何万kmも優々と走行できるJDバッテリーが搭載されており、2ndとM−2が予め立てていた走行計画でもバッテリーの残量にはかなりの余裕があった筈だった。
しかし2ndの手によって一発撃つだけでも相当量の電力を喰う大型レールガンに換装された主砲の度重なる使用で、蓄積電力が大部心許なくなっていた。
かと言って充電しようにも収束太陽光を最低でもバッテリー本体に3時間は照射しなければならず、容易ではない。
もちろん残量が少ないと言った事態を想定してリトルキャッスルには予備のバッテリーも搭載されているのだが、利便性より快適さや居住性を優先して作られたリトルキャッスルには、主要バッテリーと予備バッテリーを自動で切り替えてくれる便利な装置など存在していなかった。
それは単に大掛かりな装置を必要とし、随分とスペースを取ってしまい設計コンセプトに合わなかったから採用されなかったと言う危険な世界では下らないとされる理由であった。
だがそれも仕方が無かった。
本来リトルキャッスルの販売ターゲットはコープなどに住み、極たまに都市外へ出る程度の富裕層であったからだ。
その為バッテリーを使い切るという前提がまずなく、仮に予備バッテリーを使用する状況下に置かれても、ターゲットとしている客層ならばバッテリーの交換作業を行うのに十分な同行者がおり、かつ何らかの形で護衛を雇っているのが普通である。
2ndの様に護衛や随伴者が居なかったり、陸路で何万キロも延々と走行するのは、リトルキャッスル本来の運用方法とは全く違ったのだ。
「そっかー、佳奈は今度9歳になるのかー」
「そだよ!!」
まだ日が昇り始めたばかりと言う時間にも関わらず、元気良く返事をしてくる佳奈に自分は欠伸を必死にかみ殺している事を思うと自然と苦笑いが浮かぶ。
停まる事にした廃墟は避難所としての使用でも想定していたのか、装甲車と装甲車が牽引している機動殻の輸送用トレーラーが入っても廃墟中央の広間には十分な余剰スペースが存在していた。
崩れ落ちた壁や朽ち果てた天井の隙間から覗く朝日に染まった霞には早朝独特の清々しがあり、慣れているとはいえ窓もない密室となっている車内には無い解放感を味わうように大きく体を伸ばす2nd。
「さて、普通に生活してればそうそう御目にかかれる代物じゃ無いからな。しっかり見とけよ」
2ndはポケットから鍵束を取り出し、その中から一本の鍵を選び取ると装甲に隠されていた鍵穴に挿し込んでゆっくりと鍵を回す。
すると装甲の一部が僅かに浮き上がり、開放された装甲下部に指を掛けて持ち上げる。
ガラガラと音を立てて持ち上げられた装甲の奥には多種多様なコードに繋がれた金属の塊と、それよりも一回り小さく繋がったコードのない金属の塊の二つ。
それは石油等とは比べるべくもないエネルギー量を有する英知の結晶。
かつて人間の世界に大きな恩恵を齎したジェノダイト。それを用いて作られた大小二つのバッテリーが鎮座していた。
「……ねぇ、これって幾らぐらいするの?」
折角のお披露目だと言うのに2ndが想像していたような喰い付きはなく、いきなり下世話な話しを振ってくる幼い同居人に思わず口元が引き攣った。
「これは確か……大きい方が800万ncくらいで、ちっさい方が400万ncだったかな。ユニオンなんかの電磁障壁は大きい方の四倍以上もあるヤツを何千台って使ってるんだぜ? 比べるのが阿呆らしいぐらい規模が違うよな」
「……は、はっぴゃくまん」
「まぁ、コイツを盗もうって奴は滅多にいないがな」
「そうなの?」
そうだと頷きながら顎をしゃくり、佳奈にJDバッテリーを見るように促す。
それに釣られて佳奈が見るのに合わせて2ndも目を向ければ、雑多と言っても過言では無いぐらいに多くのケーブルやら固定具やらが付けられていた。
「見て分かると思うけど、ゴチャゴチャと繋がったケーブルを取り外そうとすれば軽く2、30分は掛かるし、強引に外すと使い物にならなくなっちまう様に作られててな。
それに小さい方の予備バッテリーでも普通に230kgはある。
装甲を外して、ケーブルも外して、挙句の果てにはバッテリーを運ぶのに専用の道具が必要じゃあ、高値で売れるって分かってても態々JDバッテリーだけを盗もうって奴は殆どいない。脳みそがちゃんとある奴なら装甲車ごと盗むだろうさ」
「な、なるほど……」
「さ、雑談はこの辺にしといてバッテリーを取り外しますかな」
2ndは持っていた工具箱を置き、佳奈に手伝う様に促してから固定具などを取り外しに掛かる。
「レンチ」
「はいっ!」
工具の名称を前前日から教え込まれた佳奈から渡される工具を使い、主要バッテリーに繋がれたケーブルを一本ずつ丁寧に外していく。
最後の一本が外されたのは作業に取り掛かってから30分が経った時だった。
やっとの思いでコードが全て外されたバッテリーを眺め、2ndは取っ手に手を掛けて精一杯の力を込めてバッテリーを格納庫から引き摺り出した。
引き出す際には補助となる機構は設けられているものの、数百キロもあるバッテリーを動かすのは容易では無い。
引き出すだけで息の上がっている2ndの傍らで佳奈が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「だいじょーぶ?」
「平気へーき」
荒い息のままバッテリーの側面に付いている滑車にクランクを填め、ゆっくりと回しながらバッテリーを専用の台に下ろし、停留している施設の外まで運ぶと太陽が動いても常に陽光の当たる場所へと運ぶ。
その後は再び装甲車の元へ戻って予備として格納してある小型バッテリーを大型バッテリーのあった位置にスライドさせ、先程とは逆に外されたコードを繋ぎ直す作業に従事する。
「ほい、これで終わりっと」
必要なケーブルなどを繋ぎ終えた2ndと佳奈は達成感から流れてもいない汗を拭い、無言のまま自然とハイタッチを交わしていた。
「M−2、予備バッテリーに切り替えたからトレーラーにある充電装置を出してくれ」
《承知致しました》
2ndとしてはそのまま予備バッテリーでグラウンドエデンまで行っても良かったし、グラウンドエデンまで行くだけなら何の問題も無かった。
しかし佳奈がいる事や最近は何かと不足な事態に巻き込まれる事が多いとの意見を受けてM-2と協議した結果、主要バッテリーの充電を行う事となった。
幸いにして既に契約を結んでいる依頼は終えており、後は諸々の用事を済ませて佳奈を日本に送り届けるだけである。
陽も上り始めたばかりで中天には程遠く、バッテリーを充電するのにも時間的に十分な余裕があった。
2ndの指示を受けて開放されたトレーラーの上部からともすれば折れてしまいそうな線の細い作業アームが内部から現れ、その先端にはワイヤーに繋がれた大きな箱が吊るされていた。
こちらもゆっくりと慎重に降ろされる箱を佳奈と一緒に見上げていると、外部センサーでその様を見ていたM−2がまるで家族ですねと言うと佳奈の表情がパッと明るくなった。
そんな佳奈に微笑み返しながら降ろされた箱を開け、中に入っている説明書を片手に佳奈とJDバッテリーの充電装置をくみ上げていく。
程無くして組みあがった装置を外に運んでおいたJDバッテリーの上に設置し、貼られている遮光膜が剥がす。
遮光膜の剥がされた多面束光レンズの充電装置の見た目は大型バッテリーの上に光り輝くガラス製の茸が生えている様に見えなくもなかった。
「いいか佳奈。この装置は光を集めるだけの簡単な構造のものだけど、集められた太陽光の熱でレンズは何百℃にもなってるから絶対触るなよ。
それと今はこの黒い遮光管を通って収束された太陽の光がバッテリーに注がれてるけど、なんかの拍子に外れたり壊れたりしたら直ぐに俺に伝える事。脅したい訳じゃないが、遮光管を通ってる収束光が直接当たるとバターみたいに焼き切れるからな」
「う、うん!」
興味津々な様子で装置に触ろうとしていた佳奈が、顔を青くして手を引っ込める。そんな佳奈を今日何度目かも分からないが、微笑ましく思いながら2ndは通信機の会話ボタンを押した。
「周囲に何か変わった様子はあったか?」
《いえ、特に問題は御座いません。ただグラウンドエデンとそれ程離れておりませんので、十分な注意が必要かと思います》
「それもそうか………まぁ佳奈も居る事だしな、一応リコンも使っとくか」
佳奈をその場に残し、装甲車の中に戻った2ndは大きめのバックとケースを持って戻ってくる。興味が充電されているバッテリーから2ndの持つ物に移った佳奈は2ndの元に駆け寄ってくる。
合流したのを見計らって2ndは佳奈を連れて大型施設から外に出ると持っている物を地面に置き、バックの中から細長い筒やら金属製の皿の様な物を取り出した。
その横で取り出された部品が組み合わされていく様を、佳奈が興味津々と言った様子で見続けている。
幾ばくもしない内に組み立てられた物は上方へ向けて口の開いている金属製の筒ーーーそれは小型の迫撃砲であった。
2ndは迫撃砲の角度を調整するとケースから砲弾を取り出し、佳奈に耳を塞ぐ様に伝えると砲弾を筒の中へと押し込む。
直後、筒の底より周囲に轟く巨大な破裂音。
両手で緩和された轟音に合わせて顔を上げれば、目視できるギリギリの速度で小さくなって行く砲弾が見て取れる。
普通の弾丸よりかは幾分遅く放物線を描く砲弾が爪の先より小さくなると、地面からはまだ高い位置で僅かな噴煙をともなって炸裂する。
砲弾の残骸が煙をまといながらパラパラと落ちていく中、かなり小さくだが砲弾が炸裂した場所には定期的に輝く何かがあった。
「あれなに?」
「あれは動体センサーを積んだ滞空型リコン。装甲車とリンクしてて広い範囲を監視してくれる優れもんさ」
佳奈も小さく光る何かが気になったのか、光点を指さしながらの問いに2ndは優しげな笑顔を作ってから答え、ふと考える。
迫撃砲の構造は簡単で、その使い方も至ってシンプル。
ただ砲弾の底部を砲口に添え、中へと落とし込むだけ。
砲弾を持て、落とし込む時にさえ注意していれば子供でも容易に扱える。
教本片手に佳奈へ授業まがいな事もしているが、2nd自身勉強よりも体を動かす方が好きであったし、残念ながら佳奈もそうであった。
元々娯楽の乏しい装甲車での移動にそろそろ飽きが来ても可笑しくは無い頃合いだろう。
佳奈が不満を漏らすとは決してないだろうが、何かの拍子に不満が爆発しないとも限らない。
ここで淡々とした日常にちょっとした刺激を与えておくのも悪くないかもしれない。それに穴の無い警戒範囲を確保するには、あと三回は同じ事を繰り返さないといけないから丁度良かった。
思いだったが吉日。
気晴らしの内容については深く考えないようにしつつ、間近で聞いた迫撃砲の発射音に興奮さめやらぬ佳奈を呼びつける。
迫撃砲の説明とやってみるかと言う言葉に佳奈は首が取れるんじゃ無いかと言うほどブンブンと頷き、瞳をキラキラと光らせながら2ndを見上げている。
2ndはそんな佳奈の視線に急かされるように、迫撃砲の向きや角度を調整して砲弾を佳奈へと渡す。
流石にニキロ近い砲弾は佳奈にとって重かったのか、危なげな様子に慌てて背後から手を回して補助をしながら一緒に砲弾を落とし込む。
再び響く発射音。今度は落とし込む動作で耳を塞ぐのに失敗した佳奈が迫撃砲の音に一瞬だけ怯えた表情を作るが、すぐに達成感溢れる興奮に上塗りされる。
そんな事をあと二回繰り返してから、二人は遅まきの朝食を取ることにした。
◇ ◇ ◇
「ねぇ2nd、グラウンドエデンってどういう所なの?」
バッテリーの充電が終わるまでは移動も碌に出来ない2nd達は、暇つぶしも兼ねて放棄された廃町の探索を行っていた。
原型を留めている家屋の中に残されていた価値のある物は全てスカペンジャー達に持ち去られていたが、佳奈と出会う前の2ndはこんな事はしていなかったから当てもなく歩くだけでも新鮮で十分な暇つぶしになっていた。
そんな折、2ndを見上げる様に佳奈が質問を投げかけて来た。
「うーん、なんて言えばいいのかな。街の名前は御大層にも『理想郷』とか付いてるが実際にはそんな大したもんじゃない。
まぁ俺達みたいな荒事を生業にしている残り物にとっては『理想郷』っていうのも強ち違いじゃないんだけど、ユニオンとか他のコープの連中からしてみれば目の上のたん瘤って所かな」
「そうなの?」
「まぁなぁ」
理想郷のある土地は、前時代の大戦で落とされた衛星墜撃や広域爆撃によって生まれた湖を使用した浄水施設であった。
しかし地下水の採水と浄水技術が発展したことによって高濃度汚染のされた湖から水を引く事の利点が無くなり、また当時は周囲の汚染が酷く、浄水施設を維持するのに利点を見いだせなかった中東系ユニオンが100年以上前に放棄していた。
それから40年の歳月が流れ、件の浄水施設に一人の残り物が行きつき、志と境遇を同じとする者達を中心に街として再興させる事を誓い。
水の販売や各地に点在する企業との貿易中継拠点となる企業を立ち上げた。今ではその企業は大手警備会社から機動殻を有する大隊規模の人員を雇えるだけの大手コープへと発展を遂げたのだ。
しかしそれはグラウンドエデンの一面でしかない。
それから更に年月が流れて汚染レベルが少しづつ低下していくと、グラウンドエデンはユーラシア大陸に点在するユニオンを結ぶ陸路の中継拠点となった。
物の流れがあれば、自然と人間の流れも生まれる。
その流れに乗ってやってくるのは善良な人間だけではない。2ndの様な荒事に身を置く人間や問題を起こして所属する組織から追放された残り者も含まれる。
当然そんな人間が一時的とは言え、一箇所に集まれば街の治安は悪化していく事になる。
大きな街では治安を維持するだけでも莫大な費用を要するため普通であればそんな人間の入場は制限されるのだが、グラウンドエデンを造り上げたコルネオカンパニーの社長は逆に一切の制限をしないと宣言をした。
更に街の住人と外からやってきた人間の住み分けは行われているが、入場税を支払い境界線さえ犯さなければ一切関与しないとも公言している。
度が過ぎればもちろん対処するが、許容範囲内であれば例えそれが全ユニオンで禁止されている薬物が取引されていようともだ。
それによって厄介者、特に住処を追われた者達は自分達にとって都合のいい場所を失いたくないため、自らある程度の治安を維持するようになった。
もちろん他の組織からしてもれば禁制品の取引が堂々と行われている現場に変わりないのだが、それが嫌なら治安維持に必要な経費を負担しろと言われてしまっては何処も閉口するしかなかった。
しかもグラウンドエデンの存在している場所は『IPMB』『中華一統共和国』『新ソビエト連邦』『NEC’s』『アフリカ北部連合』の五つのユニオンを結ぶ行路が重なっており、それぞれのユニオンにとって戦略的にも経済的にも重要な地となっている。
グラウンドエデンはそれを利用して他組織にその地を奪われたくないユニオン同士を牽制させ合い、不用意に干渉してこない様にしたのだ。
廃屋の押入れに落ちていた穴あきの雑誌をパラパラと捲りながら、佳奈にも分かり易いように噛み砕いて説明していると当の本人が傍に居ない事に今更になって気付く。
子供の行動力に面食らいながらも佳奈を呼ぼうと大きな声を出そうとした時、廃屋の二回から丁度佳奈が降りてくる所だった。
動くものが無いのは既にリコンの動体センサーで確認済みだが、何十年も人の居ない家屋は至る所が傷んでいるものだ。
何かの拍子に床が抜けたりと怪我の原因になり得るのだから、不用意に動き回るなと注意しようかと佳奈を見ると、その手にはクマと言う絶滅した生物をデフォルメした人形が抱えられていた。
「どうしたんだ、それ」
「二階にあった!」
注意しようと用意していた言葉は、古ぼけた人形を抱えている佳奈に意識が向いてしまって出てこなかった。代わりに2ndが口にした最初の言葉は人形に付いての質問だった。
せめて人形ぐらいは報酬の一つとして貰っておけば良かったかな、とそんな事を思いながら佳奈の返答を聞いていた。
本来では怒らなければならないと分かっていても、なかなか佳奈を叱れない自覚があり、出会ってからのこの数十日間で自分が佳奈に対してかなり甘くなっていることに自嘲した。
しかしそれはそれ、これはこれ。
叱るときにはしっかりと叱らなければ佳奈の為にも良くないだろう。
そう心に誓って心を鬼にしようとした時だった。
遠く離れた所で銃声が鳴った気がした。
足元にいる佳奈がその音に気付いた様子は無かったが、2ndは風に乗って漂ってくる戦闘の気配を肌で感じ取っていた。
目を細め、顔を引き締めながら耳を澄ましている2ndを見て、2ndの纏う雰囲気が変わったのを佳奈は敏感に感じ取っていた。
その表情は人形を抱えて嬉々としていたものから、一転して不安げなものに変わって埃っぽい人形を無意識の内に強く抱きしめていた。
僅かに生じた衣連れの音に2ndが視線を下げると今にも泣きそうな表情をした佳奈がいて、慌てて笑顔を作ってから頭を撫でる。
そんな行動をとっている自分を改めて客観的に想像した瞬間、2ndの頭の中に『ロリコン』とう言う四文字が浮び上がる。
これでは本格的にテンペストの言葉を否定出来ないと、本日二度目の自嘲が浮かんだ時に2ndの無線機が鳴った。
《ただいま、二番リコンが動体を感知致しました》
「そっか。こっちは断続的な銃声らしき音を聞いた。センサーから何か分かる事は無いか?」
《二番リコンが感知した動体は六つ。その内の一つが残りの五つに追われる形で移動を続けております。移動速度から何らかの乗り物に乗っていると思われ、このままですと三十分後には装甲車を視認できる距離に動体が接近する可能性があります》
「なるほどね、じゃあ一旦佳奈を連れて装甲車に戻るから武器庫を開けておいてくれ」
《承知致しました》
2ndは佳奈を抱き抱えようと腕を伸ばすが、佳奈は2ndから離れていった。2ndの伸ばした手が空を掻く。
今まではそんな事など一回も無く、えっ……と声を漏らした2ndは呆然と離れていく佳奈を見ていると、廃屋の中で一番汚れて居ない場所に人形を置いて固まったままだった2ndの腕の中に戻ってくる。
「いいのか人形置いて来て?気に入ったんじゃないのか?」
「いいの。あれ佳奈のじゃない…から……」
そう言って名残惜し気に人形を見ている佳奈を抱き抱え、2ndは廃屋から飛び出すと装甲車が止まっている所へ向けて走り出す。
その道中、2ndはグラウンドエデンに到着したら佳奈が気に入りそうな人形を真っ先に買おうと決意した。
それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。
誤字・脱字・質問・感想など、首を長くしてお待ちしております。




