表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/39

11 戦闘と知人と骨董品②

 

 機動殻専用の補助強化服(パワードスーツ)に身を包んだセカンドが、再興中のジャーンシーへと繋がる道を進んでいると、"sound-only"と書かれた通信枠が視界端に小さく表示される。


「はいはい、こちら凄腕機動殻乗りの2ndで―――」


 無線機の通話ボタンを押して名乗った瞬間、無情にもブチリと回線が切れる音が響いた。そして2ndが通信障害かと疑う間も無く、再び通信が来ているのを知らせる表示が現れた。


「はいはい、こちらすg《鬼畜で最低なロリコン野郎》です」

「………」

《鬼畜で最低なロリコン野郎》

「……いや、なにも二回言わなくてもいいんじゃないでしょうか」


 ちょっとした冗談のつもりで言った事が通信相手―――独立思考ポットであるM-2には気に食わなかったようだ。

 開口一番に予想の斜め上を行くカウンターを受け、間もなく命を掛けた戦いに身を投じると言うのに想像以上の精神的ダメージを受けてしまったいて。

 良く見れば2ndの瞳には少量の涙で潤んでいた。


「………それで、本題は一体何ですかな。M-2さんや?」

《先程、依頼主様から都市内監視システムへの接続アクセス許可を頂きました。それと戦闘時に捕縛されている人物を巻き込んでしまう可能性がある事も了承して頂きました》

「お、マジか。そりゃ助かるね」


 瞳を濡らした涙がまるで嘘のように思考を切り替えた2ndは操縦桿から手を離し、両足の操作ペダルだけで機動殻を器用に操る。その間に被っていたバイザーを押し上げ、機動殻に備え付けられている端末に耳元で呟かれるパスコードを入力して行く。

 入力を終えるとすぐさまバイザーを被り直し、僅かに道から逸れていた機動殻を軌道修正させていく。すると通信表示の上に数式やら文字列の羅列が流れていくウィンドウが現れる。

 

 それから待つこと数分。

 最後の文字列が流れると視界隅に映されていたウィンドウは機動殻を中心とした精密な3Dレーダーマップへと切り替わる。そしてそれまで表示されていた2Dマップを閉じられ、新しいマップに目を向ける。

 中心部に密集している高層ビル群や外延部の建物を表す半透明に描かれた障害物が地図に書き込まれると、最後に街の中心付近に七つの機影を示す黄色の印と歩兵たちを示す小さな赤い点が映し出される。

 更新された地図を元にジャーンシーの外縁部に近づいて行くと、革新派との都市戦闘を想定していたのか、塹壕やら特火点トーチカなどによってジャーンシーへの道が複雑になっている。

 幾ばくもしない内に汚染物質を遮断する為の電磁障壁の影響で歪んで見えるが、多くの建物が整然と並ぶジャーンシーの街並が破壊された都市門の奥に見えてきた。

 加速ユニットの推進剤をさらに燃焼させて速度を引き上げ、街の中に侵入する。

 壊れた門を潜る時に電磁障壁の影響で機動殻の通信機にノイズが走るが、気にせず街の様子に目を向けると大きく穿たれて燃え上がる戦車や迎撃用の榴弾砲、胸部を撃ち抜かれて倒れ伏す機動殻がそこかしこに転がっていた。

 他にも倒壊した家屋やこと切れて倒れ伏している作業員と思しき人物、機動殻に踏み潰されたのか原型すら留めていない血溜まりなど、戦闘員以外の犠牲者の遺体が散見できる。

 戦闘の爪跡が色濃く残る街の様子を視界の端に収めつつ、中心へと繋がる大通りへと飛び出すと、市街の中央にある大きな交差点を占拠している七機の機動殻と歩兵群がマップの表示通りに立っていた。

 そしてその部隊の中には随分と見慣れたサンドカラーを基調としたデジタル迷彩の機動殻。それも通常の機動殻の下半身を遥かに上回る大きさを誇る四脚可変型の下肢を持つ特注オーダーメイド機体が確認できた。


「おいおい、そこに居るのはテンペストか? テンペストだよな!? もうテンペストでいいや!! 逢いたかったよテンペストォォォオオオオ!!!」


 細かい傷を無視すれば一切損害の無い大型の機動殻を見た瞬間に2ndは無意識の内に叫んでいた。

 衝動に駆られるまま、思いに促されるまま、心の内から湧き上がる言葉を口にしてからすぐさま自責の念に駆られるが、突然の事態に付いていけてないのか、テンペストの操る機動殻からB36A2達が僅かに離れていく。

 レーダーマップをよく見れば機動殻の足元付近で待機していた歩兵たちすら、可能な限りで距離を取ろうとしていた。


《結果オーライ、という現状の把握で宜しいのでしょうか?》

「……まぁ、多分ね」


 相手が何を思っているのかは兎も角として、2ndにとっては丁度良い事態ではあった。機動殻が両手に持っている二丁のライフルを操縦桿伝いで構え、機動殻チハに搭載されているOSが示す有効射程に相手が収まったのに合わせて引き金を引く。

 ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ………と機動殻チハの薄い装甲越しに、連続した重低音が遠慮も無しに狭い操縦席に響き響き渡る。

 目視し切れない弾丸に混じって小さな輝きを放つ曳光弾が突き進み、昼間でも眩く光る曳光弾を元に勘と感覚で弾道を調整された弾は容赦無く革新派達の元へと空を切り裂きながら降り注ぐ。

 だがチハが握っている機動殻用のライフルは連射速度が速い代わりに弾速が遅い。また相手の機動殻が察知した危機警報による事前回避と、左手が構えた大楯に阻まれる。

 傍から見ても、有効打となる物は一切無かった。しかしそれでも2ndは不敵な笑みを浮かべていた。


 有効打が無いという結果は2ndとて予想―――否、戦闘の開始と同時に描いた予定の範疇であり、それに機動殻チハの装備しているライフルは第三世代機動殻の装甲を貫けるほどの威力を有してはいない。

 例え命中したとしても、せいぜいが操縦者が身構えるぐらいの衝撃を与え、分厚い装甲を多少凹ませられる程度なのだ

 そんな銃でも陽動としてなら十分に使用できる。その上、機動殻よりも柔らかい地上兵器相手ならば十二分だった。

 現にB36A2が躱した弾丸は相手方の歩兵や軽戦車、彼等に捕まって嬲られていた民間人らしき女性達へと降り注ぎ、その場に集まっていた生身の集団は既に壊滅寸前に陥っていた。

 そうして奇襲が結果的に成功してから間も無く敵からの反撃が開始され、大通りにはB36A2から嵐の如く銃弾の群れが送り出される。

 2ndは自らの放った弾頭で命を落とした捕虜達に細やかな哀悼を捧げつつ、チハを左右に揺らして迫り来る弾丸たちの間を掻い潜る。

 弾丸を一発も被弾せず掻い潜り続け、2ndは高層ビルの立ち並ぶ区画に入るのに合わせて機動殻チハを真横へ跳躍させる。

 その操作に連動して増設された小型の加速ユニットはフラッシュブースト―――通常移動の倍の推進剤を一気に燃焼させて発生させる急加速―――を行い、小さな炸裂音と大きな衝撃波を周囲に撒き散らしながら高層ビルの間にある脇道へと機体を捻じ込んだ。


 その最中のコックピット内では慣性によって2ndの体は座席に遠慮なく押し付けられ、強烈なGで減った脳の血量を補うべく2ndの纏う補助強化服がギリリッと両手脚を締め付ける。

 それほどの痛みは無いが窮屈さを感じさせる圧迫感を堪能しながら脇道を抜けると、セカンドは再びフラッシュブーストで進行方向を正面に変える。そして変わり続ける景色の隙間から敵を見つけ、ビルの間を狙って敵機動殻へ引き金を引いて行く。

 しかし撃った弾は全て相手の装甲に弾かれ、お世辞にもダメージを与えていると言えるものは一発も無かった。それでも2ndが焦る様な事は無く、逆に不敵な笑みを浮かべたまま無意味に思える攻撃をし続ける。

 数分もそんな事を続けていると、チハの軌道に慣れ始めた相手は等間隔に距離を置いた陣形のまま迎撃を始める。

 通り過ぎたばかりの空間にB36A2の撃った弾丸が着弾したのを見た2ndは、劣勢に見える状況になっても不敵な笑みを維持し続けるどころか、小さな笑い声すら漏らし始めてすらいた。


《ジャーンシー内の各設備へのアクセスが完了致しました。いつでも干渉ジャミングが可能です》

「そうかい。したらば二十秒後にジャミングよろしく」

《承知致しました》


 画面の中にカウントダウンをするタイマーが現れ、二十秒という僅かな時間を刻んでいく。

 刻一刻と減って行くタイマーを眺めながら敵を牽制しつつも予定の位置に向かってチハを走らせ、両手に握っているライフルをハンガーに仕舞われている長方形の物体へと持ち替える。

 そしてタイマーがゼロになるのと同時に、革新派を中心にジャーンシーの各所にある大小様々な電波装置を利用した強烈なジャミングが襲う。

 巻き込まれる形でチハもジャミングの影響下に晒される。レーダーだけでなく、視界を映していたバイザーまでもが大きなノイズに覆われ、まともに前を見る事すら難しくなる。

 それでも2ndは構わずフラッシュブーストを間髪入れずに連続で噴射し、頭の中に描いた地図だけを頼りに敵陣形の死角となる位置へと突き進む。

 B36A2のすぐ近くに跳び出た時には既に乱れていた視界は回復しており、目の前に突如現れたチハに狼狽えている一機の敵機動殻に目掛けてフラッシュブーストを焚く。

 秒を跨がず至近距離まで接近すると、右手に持った物体を勢い良く相手の胸部へ叩き付ける。

 ライフルの発砲音よりも凄まじい爆裂音が物体より生み出され、燃焼によって内部の空気が一気に膨脹し、押し出される形で金属杭が凄まじい速度で打ち出される。

 飛び出した杭はその重量と速度が合わさった貫通力を最大限に活かし、機動殻の強固な装甲を意図も簡単に引き千切って内側の操縦席へと突き刺さる。


 ──都市防壁攻略用破城槌/Mjöllnir(ミョルニル)──


 ミョルニルは本来であれば汚染物質や外敵から都市を護る為に築き上げられた強固な都市防壁を打ち破るための代物だった。それを無理矢理対機動殻用に改造させたのが、2ndが扱うミョルニルであった。

 その改造で軽量化と安全性を図る為に炸裂杭はただの金属の塊である杭に変えられ、杭自体も短くされてしまったミョルニル。だが打ち出される杭は未だに都市防壁を貫ける貫通力を有したままだった。

 例え優秀な防御力を誇っている第三世代の機動殻の中でも、最も装甲が分厚い事で知られる《鉄壁の尖兵(ウォーリアウォール)》シリーズですら、都市防壁よりは装甲が薄い。

 そんな過剰とも言える兵器で攻撃されれば、バランス型で比較的装甲の薄いB36A2など、ミョルニルの一撃を喰らえば一溜りもない。


 2ndは滑る様に機動殻チハを動かし、近くに居たもう一機のB36A2に左のミョルニルを同様に叩き付け、杭を打ち込んでから直ぐさまその場を離脱する。

 再び狭い道路に逃げ込んだ2ndは、機動殻の両腕から排出される五個ずつの薬莢と刺突口から覗く新たに装填された金属杭を眺め、表示されているレーダーの機影を見る。

 七つ在った内の二つは既に沈黙し、残るは五つ。

 2ndはレーダーに映る五つの印が追ってきているのを見ながらほくそ笑み、テンペストの機動殻と繋がる回線を装甲車を介して開かせる。


「ようテンペスト、久しぶりだな。会いたかったぜ」

《俺は一切逢いたいと思った事は無いんだがな》


 そう釣れない事を言うなと返すと2ndは機動殻を走らせて広めの道路へと機体を晒し、目視出来る範囲に敵機がいない事を再確認すると機動殻をその場で跳躍させる。

 空中に浮かんだ状態で加速ユニットを使って位置を調整し、ビルに片足を掛けてそこを踏み台に更に高く飛び上がる。その刹那に2ndの機動殻を挟む様に二機の機動殻が道路へと飛び出してくるが、二機は直ぐに発砲してくる事は無かった。

 上空にいる2ndを見失ったのだ。

 二機が2ndを見失ったカラクリは至って簡単な物で、殆どの機動殻はその重量から空中での戦闘を行えない。また対空レーダーはあっても元々空中戦闘を想定して作られていなかった。

 機動殻同士の戦闘に重きを置かれている大半の第三世代機動殻のOSは処理負担を減らす為、平面表示のレーダーマップをメインとして採用している。そんなレーダーを頼りに2ndの位置を探っていた相手は、少し高く飛んだだけで2ndを簡単に見失ってしまう。

 しかしそれで誤魔化せるのも僅かな間。

 B36A2のOSがチハの位置を瞬時に判断して操縦者に警告を発したのだろう。

2ndの位置を把握した二機が咄嗟に銃口を上へと向ける。

 2ndは自機を挟む二機が上に構えたのを見計らい、ハリネズミを彷彿とさせる増設された加速ユニットを上方に向けて噴射した。内臓が浮かび上がる不快感を無視して道路を砕く勢いで着地し、着地と同時に銃を向けようとしている片割れの懐に機動殻を潜り込ませる。

 勢いを殺さず、そのまま右腕と右手から肘の部分までを覆うミョルニルをB36A2の胸部に打ち付ける。巨大な炸裂音に混じりミョルニルから射出された一本の杭がB36A2の胸部装甲を引き裂き、操縦席に深々と突き刺さる。

 

 背後にはまだ敵機が一機残っているが、2ndに焦りは無かった。

 味方の至近距離にいる敵には射撃できないのが第三世代に搭載されているOSである。それは例え搭乗者が死んでいても識別信号が消失するまでは有効であった。

 操縦者が死んでから信号が消えるまでの一秒足らず。それでも2ndにはそれだけあれば十分だった。

 外殻から確かに伝わる金属の引き千切れる音を感じながら、加速ユニットを小刻みに吹かして杭の突き刺さっている機動殻の背後に周り込む。そのまま体を入れ替える様に機動殻が出て来た道に機体を滑り込ませると、その後ろ姿を追うように銃弾が搭乗者の死んだ機動殻を撃ち砕く。

 脇道に這入った2ndは急加速を齎す小型の加速ユニットをこまめに吹かし、入り組んだ道を不規則に、だが素早く進んでいく。


 本来、旧型である機動殻チハに高速戦を可能にする小型の加速ユニットなど存在していない。しかし2ndの操る機動殻チハには34個にも及ぶ小型の加速ユニットが増設されていて、急加速によって自壊を起こす寸前までの高速移動を可能にさせた。

 2ndの増強と言う名の魔改造を施されているにも関わらず、操作が機動殻に反映されるまでのラグが殆ど無いことに感嘆を漏らし、この魔改造を手掛けた偏屈な豆粒爺のどや顔を思い浮かべて苦笑いした。

 そんな場違いな記憶を振り返っていると、テンペストと通信を繋いだままであったのをふと思い出した。


「話しの腰が折れちまったな。それで、さっきの続きなんだけどな。お前にちょいと頼みたい事があるんだけど、受けないか?」

《どうせ俺に拒否権はないんだろう?》

「別に。俺に大きな借りをこさえてる奴が、俺からのお願いを断れると思うんなら断れば良いんじゃないかな?」

《………》


 入り組んだ道を進んでいるが、レーダーには確実に近づいて来ている機影が表示されている。あと数十秒もすれば進む先に機動殻が現れるだろう。

 指揮官はそこそこ優秀か……などと呟きながら、早く依頼を完了させる為に2ndは返事のない会話相手に畳みかける事にした。


「とは言えお前にも色々と事情があると思うし、強制はしねーよ。ただそうするとお前は俺と殺り合う事に成るんだが────」


 一旦言葉を切る2nd。

 自分が言おうとしている台詞があまりに悪役じみており、また状況も台詞にあっているものだから、自分で笑い声を挙げそうになるのを堪えるのに必要な間であった。


「────残ってる弾薬だけで足りますかな、テンペストくん?」


 自分にでき得る最大限の悪い笑みと共に言った瞬間、堪えていたダムが決壊して笑い声を挙げる2nd。音声通信からはそんな2ndを訝しむ様な雰囲気が伝わってくるも、2ndの言を否定する言葉は来なかった。

 実際テンペストと2ndとの付き合いは何年も前からの物であり、お互いの手の内は殆ど把握している。そしてテンペストは類の無い高火力を誇ってはいるが、その分携行できる弾薬の数は通常の火器より圧倒的に少ないのである。

 既に一戦闘を終えた後では、残っている弾数などたかが知れている。

 そんな状態のテンペストに負ける事など百パーセントない、と断言できるだけの自信が2ndにはあった。そしてその逆の考えをテンペストがしている事は容易いに想像が付いた。

 一頻り笑った2ndは右腕のミョルニルをライフルに持ち替えさせ、押し黙っている相手の返事を待つ。


《……何をすればいい?》

「この状況だったらやる事は一つだろ」

《……分かった、協力しよう》

「素直でよろ、しい!!」


 会話の最中に2ndの進行ルートを遮るように先にあった十字路から姿を表すB36A2。

 レーダーに映る機影からこの事態を前もって予測していた2ndは、道を塞がれたのと同時に飛び上がり、フラッシュブースターで浮遊状態の維持と高速移動をしながら相手の頭部へ銃弾を放つ。

 B36A2に限らず多くの第三世代機動殻の頭部には姿勢維持の為のセンサーが組込まれており、強い衝撃を断続的に与えると姿勢維持センサーが誤作動を起こしてラグが生じる。

 その隙にB36A2を飛び越え、反転しながらの着地。加速ユニットの急加速を利用して機動殻チハを振り向こうとしている相手に激突させる。金属同士のぶつかり合う音と激しい衝撃を感じながら、態勢を崩した相手の胸部に左腕を叩き付けて杭を撃ち込む。


 杭が深々とめり込んで倒れ込む機動殻を見届ける暇もなく、左側の道路から別の敵機が現れ、直ぐさま大量の弾丸が放たれる。

 迫り来るそれをギリギリのタイミングで後ろへ飛んで回避し、そのまま走り続けて別の道に出ると同時に機体を前へ向けて入り組んだ道を再び全速力で進み続ける。

 だが今度は目的も無く進むのではなく、2ndが最初に接敵した大通りへと自分を追っている二機を誘導していく。そうして追ってきている二機が別々のタイミングで大通りに到着する様に誘導した2ndは、戦闘開始から微動だにしていない機影の映る大通りへと躍り出る。


 そこで待ち構えていたテンペストは飛び出してきた2ndに銃口を向けていた。2ndも咄嗟に銃口をテンペストに向けるが、二脚から四脚へと変わっていた機動殻が引き金を引く方が早かった。

 大量の噴煙を撒き散らし、銃口から放たれた超大口径の砲弾は真っ直ぐに2ndの居る方に向かって空を裂く。

 しかし大質量の硬芯徹甲弾は2ndの機動殻には当たらず、2ndを追う様に大通りへ出て来た機動殻の胸部を貫いた。胸部装甲が大きく穿たれ、各種パーツを散らかしながら倒れ伏す機動殻を眺めてから額を流れる汗を拭い、安堵の溜め息を吐き出した。

 消耗しているテンペストを相手にして簡単に殺られるとは思っていないし、損害もなく勝つ自信は大いにあった。しかし敵に回られると厄介である点は変わらない。

 それが無いだけでも心にある程度の余裕が生まれる物である。

 何よりテンペストが2nd側に付いたのであれば、仕事は既に終わっている様な物であることも、余裕が生まれた要因として大きかった。稼働熱によって操縦席の中は既に蒸し風呂状態に近くなっている。酷い環境に悪態を吐きながら、通信の音量を上げる摘みを捻る。


《テンペスト! 貴様裏切ったのか!?》

《裏切った? 馬鹿を言うな、アンタとの契約は既に報奨金の支払いをもって完了している。フリーに成った俺がどの依頼を受けようと俺の勝手だ、アンタの依頼を受けなかったからと言って謗りを受ける云われはないな。怨むなら俺が依頼を受けていたと勘違いをした馬鹿な自分を怨むんだな》

《貴様ァっぁぁああああ!!!》


 のんびりとテンペストと繋いでいた回線から漏れ聞こえる会話を聞きながら、2ndはふと思い立って映像回線を近くにいるであろう装甲車と繋ぐ。そこに佳奈が写っているのを確認すると、先ほどテンペストの会話で見せた悪役然とした笑みを再び浮かべてみた。


《まるで"奴は我ら四天王の中で最弱!!"と宣ってやられる悪役のようにお似合いですよ、2nd様》

「それ褒めてないよね」

《わたしはかっくいい、と思うよ!!》

「そうか? 俺でもどうかと思うんだがな。ちょっと佳奈の将来が心配になったわ」


《それに関しましては私も同感致します》


 そんな風に他愛ないやり取りをしていれば、画面の端に無謀にもテンペストに仕返しをしようと大通りに姿を見せたと同時に撃ち抜かれる機動殻が映る。

 2ndはM-2へレーダーに映る対象を機動殻から革新派の残党へ切り替える様に指示を出し、生き残りの歩兵の位置を明確に教えてくれる小さな反応を狩り尽くすべく機動殻を再び動かした。



 まさかの二話ちょっとで大型ロボットの出番が終了してしまいました……orz

 

 それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 誤字・脱字・質問なとがありましたら、お気軽にお尋ねください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ