表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/39

09 仕事とコープと機動殻⑥

 ようやっと章タイトルを回収できた……と思う

 

 地面に伏せて時間差で届く遠くの音を聴きながら2nd(セカンド)は双眼鏡を覗いていた。


「ありゃあ戦闘じゃなくて虐殺だな」


 ヴェグラントラウンジからバイクを走らせ、物陰に隠れて件の戦闘を双眼鏡越しに見ていた2ndだったが、双眼鏡で拡大された視界の中に映っているものを一言で表すならば凄惨という言葉がぴったりだった。

 数百メートル先では今回の依頼主が所属している保守派と思われる軍人や作業員、その他関係達の家族らしき人達が戦闘ヘリ六機と数台の軽戦車に追われていたのだ。


「……あいつ等絶対狩りを楽しんでるよなぁ」


 2ndの言葉の証拠にヘリの半分はサーモレーダーを搭載しているにも拘らず、逃げ隠れしている人間が狩り尽くされていない。他にも軽戦車に付いている機銃は単発ずつ撃ち、数発をわざと外して逃げている人間の恐怖を煽っている。

 逃げている方も持っている銃を撃つなどして応戦はしているが、皆対人火器ばかりで軽戦車には満足な傷すら付けられないでいた。


「追い立てられてる奴等の真ん中にいんのが今回の依頼主か?この距離じゃあ、ちと分からんな。M-2さん的にはどう思う?」

《その光景を見ていない状態では判断致しかねますね。視覚情報のリンク許可を頂けますか?》

「えぇよん」


 返事をしたと同時に酷い頭痛と耳鳴りが2ndを襲い、身に覚えのある感覚に何食わぬ顔――実際には分からないが――をしてこの現象を引き起こした愛すべき相棒殿を恨めしく思った。


《リンクさせて頂いた視覚情報だけでは個人の識別まではできませんが、状況などと合わせて考慮いたしますと2nd様が仰られた通り中央で守られている人物が今回の依頼主である可能性は高いかと》

「……うーん、とは言えバイクだけだとなんも出来ないし、一旦戻って考えるかぁ」


 佳奈が来てからは減っていた独り言を呟き、助けるにしろ見捨てるにしろバイクだけではどうしようも無いと判断した2ndはバイクに跨った。キーを回し、エンジンに火を入れ、さぁ戻るか……と構えた所で無線機から再び声がする。


《2nd様、悪い知らせが御座います。戦闘ヘリの一機が2nd様の存在に気付かれたようで、現在そちらに向っております。察知されてから緊急回線を開き此方の身分と"戦闘の意思は無い"事を伝えてみましたが、聞き入れられた様子はありません。早急に離脱する事をお勧め致します》

「……マジかよ、動体レーダーを積んでる奴でも居たのか?」


 2ndがヘルメット越しに耳を澄ましてみると、確かにヘリの羽音が大きくなってきていた。

 くぐもって聞こえる音に盛大な舌打ちを返し、排気音を気にする事無くアクセルを思いっきり捻ってバイクの最高速度まで僅か数秒で到達させる。しかし飛び出す様に物陰から逃げ出した2ndの耳には着実に大きくなってくるヘリの羽音が届いており、表情が苦々しげに歪む。

 バイクを走らせながらサイドミラーを上へ向けると、既にヘリの姿が明確に分かる距離にまで接近されていた。2ndが慌てて減速しながらハンドルを切ると、数秒前まで走っていた荒れた道路に銃弾の雨が降り注ぐ。


「警告も無しかッ!」


 2ndの言葉を嘲笑うかのようにヘリは優々と通り過ぎ、大きなU字を描いて弾丸の雨を降らせながら戻ってくる。後輪を滑らせ、廃墟と廃墟の間にあって脇道目掛けてバイクを急加速させた2ndは何とか二度目の銃撃から逃れる事が出来た。

 その後も2ndはバイクと言う小ささを生かし、無人の民家を盾にしたり、狭い路地を通るなどして執拗に追いかけてくる攻撃ヘリの銃撃をやり過ごす事に成功していた。

 しかしそんな回避行動を幾度も繰り返していると、威嚇するように低空飛行を繰り返していたヘリが突然機首を上げて距離を取った。


「諦めてくれた……って訳でもなさそうなだな」


 上へ向けられたサイドミラーを見ると、何故か距離を取ったヘリは2ndの事を未だに追尾しており、撤退したと言った風では決してなかった。そんな不可思議な挙動をしている相手に2ndが眉根を寄せて訝しんでいると、突如としてバイクのスピードメーターが真っ赤に点滅しだす。


「おいおいおいおい!!たかだかバイク一台殺るのに誘導ミサイル使うとか一体どんな神経してんだ!!」


 その現象を目の当たりにした2ndは後先考えず振り返り、後方を悠々と飛んでいるヘリを呪い殺さんばかりに睨みつける。だがそんな行動が意味を成さないのは2ndが最も理解しており、悪態を吐きながらも向き直ってバイクを可能な限り加速させる。

 しかし、どんなに頑張ったところでミサイルの射程範囲外に出るのは不可能だった。


 そうこうしている内にスピードメーターの点滅は激しくなり続け、目が眩みそうなぐらいに明滅が激しくなるのに合わせて、後方からはミサイルが発射された噴射音が2ndの耳に届いた。

 サイドミラーで小型のミサイルが真っ直ぐに自分の元へと向かっているのを確認した2ndは咄嗟にブレーキを掛け、同時にハンドルに付いていたスイッチを押す。

 直後バイクの後輪から爆発したような衝撃と音が襲い、瞬く間に後方へ向けて扇状に煙幕が広がり、幾つもの小さな光弾が煙幕を突き抜ける。

 バイクから噴射された対誘導フレアによってヘリから放たれた小型誘導ミサイルは2ndを追う軌道を乱され、近くにあった廃屋へと突き刺さり、衝撃を感知したミサイルは瞬時に信管へ微量の電流を流して小さな弾体に詰め込まれた流体火薬に火をつける。

 膨張した空気は廃屋の敷材を躊躇いなく周囲に巻き散らし、撒き散らされる爆風と破片を受けてグラつくバイクをなんとか御しながらも走り続けた。

 目前に迫っていた危機から脱した筈の2ndであったが、ヘルメットの中の表情はかなり険しいままだった。何故なら後方にはまだ追って来ているヘリがおり、対誘導フレアは一回分しかバイクに積むことが出来ないからだ。

 故にまたミサイルを撃たれれば次は無い。2ndの表情はその事実を如実に表していた。


《退避を》


 明滅を早めるスピードメーターに寒気を覚えていると、不意に無線機から相も変わらず機械的なM-2の声が届く。

 脳が言葉を理解するより早く2ndの身体がバイクの後輪を滑らせ、横倒しになりながらも正面に見えていた民家の成れの果てである廃屋の壁を叩き壊しながら侵入する。

 それと時を同じくして民家の外から金属を打ち鳴らした様な甲高い轟音が響き、続いてヘリは無数の破片を撒き散らしながら墜落していった。


「……命拾いしたみたいだな。サンキューM-2、助かった」

《どういたしまして》


 ボロボロでいつ崩れても可笑しくはない廃屋の天井を寝転がりながら眺め、安堵と共に大きな溜息を吐き出したM-2がいなければ一体どうなっていたのかなど、想像すらしたくなかった。


「久々に死ぬかと思ったぞ」

《おや、私の記憶に間違いが無ければ仕事中に89回は死にかけており、直近では新ソビエト連邦からの依頼でも死にかけていたと思うのですが違いますか?》

「いやいやー、あの時は自分で打開できる状況だったからまだまだましよ。今回みたいに一方的に殺されそうになる展開ってのはかなり精神的に疲れるのよ」


 死が間近に迫ってまり、何時の間にか緊張で強ばっていた全身を会話の合間に脱力させる。その後は身体のあっちこっちを直接触れて異常がないかを確認し、問題がないと分かればすぐさま起き上がる。

 近くに転がっているバイクも立たせ、走行できる状態かを確認する。スタンドで立たされたバイクは盛大な引っ掻き傷と大きな凹み、その他諸々の酷い損傷が見られたが、走行する上で重要な部分には特に問題も無く、エンジンも正常に稼働してくれていた。

 板金に掛かる費用と自分の命を比較し、安堵とも諦めともつかないため息を吐きながら斬新なデザインの加えられたバイクと共に廃屋から抜け出し、周囲の様子を見渡した。

 まず目に付いたのは二戸の廃屋を下敷きにして燃え上がる自分を追っていた戦闘ヘリだった物。

 次に視線をヘリの墜落現場から流して道路の先に向ければ、荒れた道路の先にあった小高い丘の上にM-2の運転する装甲車が上部に収納されていた砲塔を展開させ、紫電を漏らす二芯開放型レールガンの砲塔を2ndのいる方向へ向けていた。

 今のヘリが落とされたことにより他の奴等もそれ程掛からず此方にやってくるだろう。そう断じて2ndはバイクに跨り、恐る恐るアクセルを捻って装甲車の元へと向う。

 速度の出なくなったバイクでも数分程度でM-2達の元に辿り着くと、装甲車の後部には引渡しをしていた時にはまだ連結されていなかったトレーラーがあった。

 更にトレーラーの上部と後部は開かれており、バイクを傍に停めて内部に飛び乗ると、其処には人型を模した金属の塊が上半身を起こした状態で鎮座していた。

 2ndの眼前に存在するのは新生紀に入ってから生み出され、現代の主力兵器とも言われる大型地上兵器。


『柏重工製第二世代機動殻/地上戦闘用ハ型機動装甲殻』


 全盛期では『チハ』と呼ばれていたが、今では見る事の無くなったオンボロ中古機体だった。2ndはみすぼらしい古惚けた機動殻を前に大きな溜息を吐き出し、胴体に存在する手摺りを頼りよじ登る。

 すらすらと登り、肩部の上に立つと人の顔とは似ても似つかない多眼レンズが採用された頭部の側面に隠れる様に存在していたハンドルを捻って操縦席コックピットへの入口を解放させる。

 ハンドルがガチャリと音を立てると機動殻の頭部装甲が開かれ後ろに下がる。頭部があった位置には大きいとは言えない程度の隙間があり、その奥が操縦席になっている。

 自分の肩周りほどしかない入口だが2ndは躊躇い無く足から突っ込み、体を押し込んで操縦席に侵入を果たす。内部に入ると直ぐに座席となっており、雑然とした機器類でただでさえ狭苦しく感じるといのに、天井のレバーを捻って入口を閉じると赤い非常灯だけが照らす空間は圧迫感が一気に増した。

 そんな窮屈な座席に座った2ndは慣れた手つきで雑多な装置類へと手を伸ばし、外部操作ではできないマニュアル操作を手早く行い、起動に向けての作業を進めていく。

 旧式故に起動までに掛かる時間にもどかしさを感じながらも何とか機動殻を起動させた2ndは、小指から人差し指まで順々に操縦桿と一体化しているスイッチを押し込み、その感触を確かめる。

 機器類の1つ1つがLEDライトを僅かに発光させ、何十とある計器が光れば操縦席は次第に明るくなっていき、眩いばかりの光源となる。

 表示されている計器全てに異常がない事を確認した2ndは軽い深呼吸と共に座席の背もたれにある留め具を引っ張り、3本のケーブルが両端にそれぞれ繋がれた黒塗りの角張ったバイザーを取り出した。

 それをケーブルが絡まないように注意しつつも両目を覆う様に装着させ、視界が遮断された状態で側面の摘みを捻れば、真っ暗闇だったはずの2ndの視界が一気に開ける。

 機動殻の多眼レンズが見た景色が視界一杯に広がり、操縦席の閉塞感が急激に減少していった。まるで外に居るかのような景色を眺め、機動殻を操作する為に意識を集中させる2nd。

 しかし機動殻の動体センサーが邪魔をする様にトレーラー内に小さな動体がいる事を警告音と共に伝えてきた。なんだと思って首を動体のいる方に向けると首の動きにあわせて写される景色も遅延なく動き、いつの間にかトレーラーの中にいた佳奈を別窓を開いて写し出し、十分な大きさまで拡大してくれる。

 口を大きく動かして何かを伝えようとしているが、残念ながら2ndの機動殻には外の音を拾う機能は搭載されておらず、それに気付かず身振り手振りで何かを伝えようとしている小さな同居人を機動殻は黄色い枠線と共に巻き込み注意の勧告を出すのだった。


「――――?―――?」


 単独で活動するからとスピーカーを残して外部の音を拾うマイクの代わりにセンサー類を積んでいた事を悔やみながら、身振り手振りで何かしらの要件を伝えようとしている佳奈に2ndは空気も読まずにほっこりとしていた。


「平気平気、危ないからさっさと装甲車に移れよ~」


 しかし気を緩め過ぎないように頭を振って佳奈に声を掛けながら、機動殻の両腕を起立用のグリップに伸ばす。

 ゆっくりと機動殻が立ち上がっている最中にもう一度だけと思って愛らしい同居人を探してみるが、既に佳奈は装甲車に移った後でトレーラーの中にその姿は無かった。


「意外と薄情だな、アイツ。それとも行動が早いって考えた方がいいのかね」


 また独り言を呟いて視界隅に映るレーダーマップに目を向けると11個の印が映っており、その内の一つは自分の装甲車を示していた。

 そして敵がすぐ近くに迫って来ているのか、最も印の多い方に視線を向ければ、ヘリが2機に軽戦車3両、戦闘用に改造されたと思しき車5両が此方に向かってきているのが見て取れた。

 機動殻が正しく戦闘モードへ移行しているのを再度確認し、トレーラー内の作業用アームが背にある武装保持用のハンガーへ機動殻用のライフルが取り付け終わるのを待つ。

 その間は無防備に成る為2ndはその間の損害を危惧していたのだが、可笑しなことに予想していた雨あられと続く相手からの攻撃が一切ない事に首を傾げる。


《2nd様、現在襲ってきた相手の代表と思われる人物から通信が入っています》

「はぁ? ちょっと回線繋げ」


 既に交戦可能距離にまで近付いて来ているにも関わらず、戦闘ヘリや戦車からの攻撃が一切無いのを訝しんでいると操縦席内にM-2の声が響き、その後"sound only"と書かれた通信枠が開かれる。


《―――――――ッ!》

「チッ、これ旧語だな。文化圏から考えるとヒンドゥー語か? 共通語以外の言葉なんてそんな知らねーぞ。おいM-2、ちょっと翻訳してくれ」

《承知致しました。翻訳致しますので少々お待ちください……“我々が攻撃したのは誤りである。傭兵である諸君らに対してこちらに戦闘の意思はない。平和的解決を望む”だ、そうです」

「はぁ!? 巫山戯てるのかそいつらは。先に仕掛けたのはそっちだろーが。俺が機動殻持ってると分かれば手の平を返しやがって!!」


 2ndは怒りも露わにトレーラーから機動殻を下ろすと、か細い作業アームに掴まれていた装甲刀を抜き取り、加速ユニットを目一杯稼働させ"敵"に向かって機動殻を発進させる。

 通信相手も正面から向かってくる2ndの行動を返答と受け取り、回避行動を見せるが、200km/hもの速度で地表ギリギリを飛行する機動殻から逃れられる筈も無い。

 接敵した2ndは7メートルを超える巨体を回転させながら二本の装甲刀を振るい、折り畳まれた刃が遠心力によって展開され、二倍の長さにまで伸びた刀身の切っ先を地面に這わせ、先頭にいた2両の軽戦車を意図も簡単に引き千切る。

 真正面から突っ込む形で敵軍に一撃を加えた2ndは右手の装甲刀を背にあるハンガーに仕舞い、機動殻用ライフルに持ち替えて機動殻を迂回して装甲車に向かっていたヘリに銃口を向けて引き金を引く。

 機動殻の巨体相応の弾丸がヘリに突き刺さり、機体を容易く引き裂いた。


《―――――――!!》

「だからさぁ、旧語はわかんねーって言ってんだろーが!!」


 2ndは未だに開いている回線から届く罵詈雑言に言い返し、機動殻の右腕では装甲刀を振い、左手ではライフルの照準を合わせながら引き金を引いていく。

 軽戦車が放つ砲弾は躱し、機動殻に向けて小型ミサイルを放とうとするヘリも居たが2ndは慌てる事無くで撃たれる前に撃ち落とす。一振り、また一振りと装甲刀を振るい、ライフルの照準を合わせて射撃をして行けばヘリは墜ち、戦車は鉄屑に変わる。

 そうしてものの数分で気付けば傍に動く者は無く、遠くに逃げていく二台の改造車が写っていた。


「おいおい、逃げられると思うなよ?」


 2ndは逃げていく改造車にライフルを向ける。


「バン! バン!」


 声と同時に単発で放たれた弾丸は逃げ帰っている改造車に命中し、爆炎を上げる。2ndがそんな車を満足気に眺めていると通信に声が乗る。


《此方に向かってきていた敵は排除いたしましたが、3km先にはまだ残っているようです。また、その者達は何処かへ連絡を入れようとしていたため、通信できないように指向性ジャマーを展開しておきましたので、通信が回復する前に始末することをお勧め致します》

「オーケー了解。さすがM-2さん、仕事が早い。そんじゃまぁ、やられた事は倍返し……これが世界の常識だと教えに行こうかねぇ」

《大人気ないですね》

「子供心は忘れないようにしてるからな」


 2ndはそう言い残し、再度推進剤を燃やして残党達の元へと向かうのだった。




 ◇ ◇ ◇




 3キロ先に残っていたのはミニガンなどを積んだ改造車二台。

 2ndは保守派と思われる人間を巻き込まない様に細心の注意を払いながら装甲刀を振るい、過激派を殲滅させた。普通の自動車を改造しただけの車が機動殻に勝てる筈もなく、遭遇してからものの数十秒で殲滅は完了した。

 そして追われていたが何とか生き残っていた軍人、しかも2ndに依頼をしてきた人物が居た為に現状の説明を受けていた。


「なるほど、過激派が逆に奇襲を仕掛けてきた訳か。それで街を占領されたと」


《あぁそうだ、決行に至ったのは我々の予想より二か月も早く傭兵が集まったのが理由だろう。そこで貴君には街の奪回を頼みたい。

 ただ我々とて貴君ら残り者(レムナント)のやり方を蔑ろにする気はない。例え仕事を断っても依頼内容を急遽変更したのはコチラであってインド総合技術社、延いてはIPMBユニオンも貴君に対して第一種企業法契約に基づき一切の罰則は課さないと誓う。

 また救助してもらった事に対する報奨金も既に上層部との交渉を済ませている》


 なるほどなぁと企業間共通語を話す男の声を機動殻内で聞き、頷きながらも2ndは考える。

 再建中の新ジャーンシー街の奪回ならば復興作業が進み、機動殻の盾として使える建造物もある為、以前の依頼よりは2ndの戦闘スタイルに合うものになると予想は出来る。

 しかしここで問題になるのは敵の戦力である。

 依頼主達が依頼を出した理由は敵戦力が整う前に相手戦力に痛打を与え、仮設基地の完成を防ぐと同時に革新派全体の足並みを遅らせる為だと考えられる。それが逆に襲撃を受けると言う事は、既に向こうには十二分な戦力が整ったと言えるだろう。


「報奨金と罰則に関しては礼を言っておこう。ただ依頼を受けるかどうかは相手の戦力が分からんことには否も応も言えないってのが正直な所だ。

 一体どんな規模の傭兵が雇われてたんだ?」


《それが………雇われた傭兵は恐らく一人だ》


「はぁ!?」


 2ndは仰天の余り、スピーカの音割を起こす程大きな声を出してしまう。対して依頼主はずいぶんと無念を表した表情を見せていた。


《相手の傭兵についてだが、正直なところ殆どわかっていないと言っても過言ではない。

 襲撃を受けてからものの数分で哨戒していた機動殻を含め殆どの戦力が索敵外からの狙撃で沈黙してしまったのだ。

 だが作業員や一般市民が避難する際に街の中へ侵入してきた機動殻を目撃していた者が何人かいたから、それをまとめた部下達の報告によるとユニオン所有の機動殻以外は一機、恐らくそれが革新派が雇った傭兵なのだろうとの事だ。

 それと傭兵と思われる機体の肩部には"風を纏った両刃の剣"のエンブレムがあったそうだ》


「風を纏った両刃の剣……もしかしてその機動殻って四脚可変型の二脚でサンドカラーをメインにしたデジタル迷彩じゃなかったか?」


 2ndの発言を受け、部下にその事を確認している依頼人を尻目にM-2のみに繋がる回線を開いた。


「なぁM-2。街を襲撃した傭兵って"テンペスト"だと思うんだけど、どう思う?」


《確定するには些か情報が少ないですが、彼の活動範囲等を考慮しますとその可能性は高いかと》


「……だよなぁ、そしたら今回の仕事は受けといて損はねーか?」


《そうですね。詳しい交渉をしてみない事には何とも言えませんが、以前の依頼よりは大きな利益が出るのはほぼ間違いありませんし、相手が“テンペスト”様ならやりようは幾らでもあるでしょう》


 あとは依頼人の報告次第だな、と付け加えるも2ndは今回の依頼を受ける気まんまんであった。

 彼の予想が間違っていなければ相手側に居る傭兵は2ndが良く知る人物であり、戦い方も、使用しているだろう火器の種類までも把握している。

 何よりその人物には大きな借りがあった。


《目撃者に確認したが、傭兵は貴君の言っていた通りの四脚可変型だった可能性が高い。

 報酬については上層部に確認を取らねばならないが、十分な物を支払うと約束しよう。私としては依頼を受けてもらいたいのだが、どうだろうか?》


「良いよ」


 あっさり受託した2ndに依頼主はキョトンと間抜けな表情を晒すが、咳払いと共に顔を引き締め直した。


「ただし報酬は受ける筈だった依頼の三割増し、それと出来れば身長130cmの女の子が着られる服と共通語の教本か何かを貰えれば十分だ。詳細は前に送った連絡先で確認してくれ。

 弾薬とかの消耗品は天引きか、こっちが勝手に買っちまうがそれでいいなら依頼を受けるが、どうする?」


《我々はそれで構わないが、通るとは思うが一応上に確認したい。しかし、子供服か。一体何に……いや、聞くのはマナー違反だな。

 上層部が許可を出したらジャーンシー内の地図や詳細情報、確認できた範囲での敵の情報はあの連絡先に送ればいいのか?》


「あぁ頼む」


 急いで通信機を片手に何やら話し始めた依頼主を見るが、特に声を荒らげている様子もなければ悪い空気感も見られなかった。値段交渉に否定的ではない上層部のお偉いさん方に感謝しつつ2ndは機動殻を動かしてトレーラーに近づくと、トレーラーの外装が開かれる。


《依頼主からの情報を無事受け取りました。精査した後、順次機動殻へ情報を送ります。機動殻の武装は如何致しましょうか?》


「随分と対応が早いな、まだ一分も経ってねーぞ。上層部が優秀なのかジャーンシーを革新派陣営に渡したくないのか、それともその両方かね」


 しかしそうだな、と考え込んだ2ndは機動殻に送られてきた地図を見ながら頭の中でどうやって戦うかを思い描く。新ジャーンシーの立体地図には五階建て以上のビルが立ち並んでおり、ビル群を使った高速戦闘も可能そうである。


「そうだな、この地形だと近接戦闘がメインになるかな。

 装甲刀はかなりガタが来てるっぽいからミョルニルに換装しといてくれ。それと使った分の弾薬の補給も忘れずにな」


《承知致しました》


 了承の返事を聞き、トレーラーに背を向ければ作業アームが2ndの注文通りの動きを見せる。


「さぁて、あの時の借りを返してもらうとしますかねぇ。なぁ"テンペスト"」


 淀みなく動き続けるアームを画面越しに眺めながら、2ndの口元は狂気すら感じる程に吊り上がっていた。



 ※2ndは特殊な訓練を受けています。大変危険なので良い子の皆さんは真似しないで下さい。


 それではここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 誤字・脱字・質問なとがありましたら、お気軽にお尋ねください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ