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耳各々
耳各々
姉が耳掃除をしている。
……と、思うのだが、なんだかヘンだ。
耳の中にピンクの綿棒のようなものを突っ込み、しばらく、じっとする。
耳から綿棒を取り出し、眺めては、また突っ込み、じっとする。
「……なに、してるの?」
「んー?耳掃除」
綿棒を突っ込み、じっとしたまま答える。
「それ、綿棒?」
「いや、耳粘棒。使う?」
一本もらう。
綿棒の綿にあたる部分が、ペタペタした粘着質な材質でできている。
なるほど、耳垢をくっつけて取るわけか。
耳に突っ込みペタッとくっつけて離す。
あ、なんだか、快感。
ペタッ。ぱり。ペタッ。ぱり。ペタッ。ぱり。と三回ほどペタッとして
耳粘棒を取り出して見てみたが、耳垢はちっとも取れていない。かろうじて、耳の産毛が2本取れた。
なんだか、耳がむず痒くなってきて、私は耳かきを引っ張り出し、耳に突っ込んだ。
「あー。すっとした」
「いいなあ、耳垢が乾燥タイプだと、耳掃除楽しそうだね」
と、姉が言う。
耳垢を羨ましがられるなんて、多分、人生で一度きりだろうなあ。
と、思う。
耳垢だって人それぞれだし。
人生は思ったより、深い。