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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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ぷかりぷかり

ぷかりぷかり

煙草をくわえて煙をすいこむ。

 胸まですわず喉もとでとめる。

 それからそっと口をすぼめて、ぷかりぷかりと輪っかを吐き出す。


 そんなことを繰り返し、イルカみたいだな、とさくらは思う。

 水族館のイルカ。

 小さい頃父に連れられて行った青い青い世界。水の中、イルカは楽しそうにぷかりぷかりと輪っかを吐いていた。

 煙草で輪っかを作ってみせたのは父だった。煙草をくわえ、目を細め煙を吐く姿を見て、さくらはいつも大きくなったら自分も輪っかを作るのだ、と心に決めていた。


 父がいなくなった時、さくらは煙草をやめた。中学からすいはじめた煙草。四年も続けた行為を止めるのには、それなりの困難があった。けれど、胸の中、煙は丸くはならなかった。


 結婚が決まって、父の居場所を母が隠していたのだと初めて知った。父は小さな部屋に一人座り、ぷかりぷかりと煙を吐いていた。窓の外は馬鹿に晴れて、真っ青な空が見えていた。

 イルカみたいだな、とさくらは思う。青い青い水の中にいるみたいだ、と。


 結婚式が終わり、さくらは煙草を一本、すってみた。

 ぷかりぷかり。

 それは苦くてのどに痛くて目にしみた。

 さくらは目元をぬぐうと、残りの煙草をゴミ箱に捨てた。

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