ぷかりぷかり
ぷかりぷかり
煙草をくわえて煙をすいこむ。
胸まですわず喉もとでとめる。
それからそっと口をすぼめて、ぷかりぷかりと輪っかを吐き出す。
そんなことを繰り返し、イルカみたいだな、とさくらは思う。
水族館のイルカ。
小さい頃父に連れられて行った青い青い世界。水の中、イルカは楽しそうにぷかりぷかりと輪っかを吐いていた。
煙草で輪っかを作ってみせたのは父だった。煙草をくわえ、目を細め煙を吐く姿を見て、さくらはいつも大きくなったら自分も輪っかを作るのだ、と心に決めていた。
父がいなくなった時、さくらは煙草をやめた。中学からすいはじめた煙草。四年も続けた行為を止めるのには、それなりの困難があった。けれど、胸の中、煙は丸くはならなかった。
結婚が決まって、父の居場所を母が隠していたのだと初めて知った。父は小さな部屋に一人座り、ぷかりぷかりと煙を吐いていた。窓の外は馬鹿に晴れて、真っ青な空が見えていた。
イルカみたいだな、とさくらは思う。青い青い水の中にいるみたいだ、と。
結婚式が終わり、さくらは煙草を一本、すってみた。
ぷかりぷかり。
それは苦くてのどに痛くて目にしみた。
さくらは目元をぬぐうと、残りの煙草をゴミ箱に捨てた。