両手の達人
両手の達人
「あれ。左利きですか?」
握力測定の係のお兄さんに聞かれた。
「いえ、右利きですけど…どうして?」
「左の方が、握力が強いから。利き手の方が強いんです、普通。」
じゃあ、私は普通じゃないと言うのか。
多少、ムッとしたが、まあ、いい。
普通じゃないことなんて、世の中いくらでもある。
例えば、保健所主催のヘルスアップスクールが無料だから、と、わざわざ有給休暇を取って参加した、今日の私とか。
わりと、普通じゃない。
しかし、久々に握力やら肺活量やら計ってみたくなったのだから、しょうがない。
計測結果を受け取り、ぶらぶら帰る道すがら、ふと、小さいころ、左手を骨折したことを思い出した。
しばらくの間、スプーンが持てなかったので、母にごはんを食べさせてもらったのだった。
…おや?
何か変だな。
帰宅すると、すぐにアルバムをひっくり返し、自分の写真を探す。
骨折してギプスをつけた写真がある。
横に「佳代、3才、骨折中」と書いてある。
それより前の写真を探す。
「佳代、2才、誕生日」
と書いてある写真に写る私は、左手にフォークを持ち、ケーキを食べている。
その頃の写真を見ると、明らかに左利きなのだが、
3才の骨折を境に、フォークは右手に写っている。
どうやら、私は生れつきは左利きだったらしい。
試しに、昼食時、箸を左手で持ってみた。
味噌汁のとうふを木っ端みじんに破壊しただけで諦め、普通に右手に持ち替えた。
やはり、普通が一番なのかも知れない。




