表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
879/888

街灯の下で

街灯の下で

 雪がふりつもる寒い夜、街灯の足元に一人の青年が倒れるように座り込みました。汚れたコートは薄っぺらく、とても寒そうにしていました。

 青年の財布はからっぽで食べるものもないのでした。


 たったひとつ、手にぶら下げていたギターケースから大事そうにギターを取り出して、かじかむ指をこすりあわせ温めて弾きはじめました。


 どれだけたくさん練習したのでしょう。ギターは青年の体の一部のように馴染んで、青年の声のように歌いました。


 青年は何曲も何曲も弾きつづけました。誰かに語りかけるようにギターは歌いました。

 けれども道には青年の他に誰もいないのでした。ただ、青年の上に降りかかる雪があるだけなのでした。


 街灯が少しだけ明るくなりました。青年はまるで舞台の上でスポットライトに照らされたように見えるのでした。

 その光の中で青年とギターは輝いていました。その輝きは誰も見るものがなくとも、いいえ、誰も見るものがいないからこそ真に美しいのでした。


 ふっ、と街灯の明かりが消えました。青年はギターを弾く手を止めて、街灯を見上げました。

 雪明かりのなか、青年の瞳はきらりきらりと輝きました。自分だけのスポットライトを目に宿したようでした。


 青年はギターを大事にケースにしまうと、立ち上がり歩いていきました。雪の上にしっかりと、まっすぐな足跡をきざんでいきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ