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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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キシャポッポ

キシャポッポ

 ハルくんは電車がだいすき。

 毎日ママにおねがいして駅まで電車を見に行きます。


「キシャ キシャ シュッポ シュッポ♪」


 ママにおそわった歌を歌いながら、走っていく電車に手を振りました。



「あれ?」


 ハルくんは五年生になったとき、ふと思いました。


「キシャって、なんだろう? シュッポってどんな意味だろう?」


 ママに聞けばすぐに教えてくれたでしょう。

 けれど、ちょうどこの時、ハルくんはママとケンカをしていました。


 ハルくんは国語の辞書をひきました。


「キシャって列車のことなの? 蒸気機関車ってなに?」


 ひとつの言葉を調べると、知らない言葉が出てきて、また調べる。ハルくんは面白くなって次々とページをめくりました。


 キシャのことはよくわかりましたが、シュッポのことが分かりません。


「インターネットで調べればすぐに分かるのになあ」


 ハルくんはネットゲームばかりして勉強をしないので起こったママがLANケーブルを抜いてしまったのでした。

 それでハルくんはママとケンカをしたのです。


 ハルくんがパソコンをうらめしげににらんでいると、リビング に入ってきたママが言いました。


「ハルくん、だめよ。ゲームは禁止です」


「違うよ、調べたいことがあるんだ」


「そんなこと言ってもダメよ。ゲームするための言い訳でしょ」


「ちがうよ! 本当に調べものだよ!」


「なにを調べたいの?」


 ハルくんは黙りこみました。まだ仲直りしたくなかったハルくんは、ママにないしょで調べたかったのです。


「ほら、やっぱり」


「うそじゃないったら!」


 ママはもうハルくんの言葉を聞かずに行ってしまいました。


 その夜、ハルくんはパパに聞いてみることにしました。


「ねえ、パパ。シュッポってなに?」


「ええ? シュッポ? なんだ、そりゃ」


「ほら、歌があるでしょ、汽車汽車シュッポシュッポって」


「ああ、そのシュッポか。それはな……」


 パパは天井に目をやって少し考えました。


「ジッポのことだよ。ほら、ライターの。ジッポの古い言い方がシュッポ」


「ライターと汽車になんの関係があるの?」


「昔は蒸気機関車といって蒸気を動力にして走る列車だ」


「それは知ってる」


「そうか、物知りだな。それで、だ。蒸気を作るために石炭を燃やす。その火をつけるために使われたのがシュッポ。いわゆるジッポだ」


「ジッポじゃないとダメなの?」


「国が決めた正規品がジッポだったんだ」


「へーえ」


「勉強になってよかったな」


「うん」


 ハルくんは満足してシュッポのことを次第に忘れていきました。




 ハルくんに子供ができて、お父さんになったころ、ハルくんはシュッポがジッポだったんじゃないことを知りました。


 汽車が煙を吐く時の音を歌っているのだと知って、パパのウソにちょっぴり怒りました。


 けれど、煙よりもジッポの方がずっとカッコいいと思いました。


 ハルくんは眠っている赤ちゃんに「汽車汽車シュッポシュッポ」と歌ってあげました。

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