世界がちがう
世界がちがう
大学で、初めて出来た友達。
瑠璃葉ちゃん。
「百円ショップって、なんですか?」
っていうから、つれてきてあげました。
「あの、渡さん? この乾電池、お値段の表示がないようですが、店員さんに尋ねたほうがよろしいでしょうか?」
「いやいやいや。この店で売っているものは、ずべて百円。消費税込み百八円です」
「ええ!? だって、乾電池って、電気でしょう? 電気は、お高級なものですわよね?」
「いやいやいや。電気も、少量ずつ、切り売りすれば、とても安くあがるのです。節電、エコ、クールビズ、などと言うものは、すべて、その、ほんの少しを、節約しようと言う知恵なのです」
「まぁぁあ。存じませんでしたわ。では、わたくしも、およばずながら、少量の節電にはげみますわ」
そういうと、彼女は、乾電池を元の棚に戻した。
「……あの、瑠璃葉さん? 乾電池が、ご入用だったわけではないのですか?」
「はい! 我が家では、とくに、乾電池を使用する機器は、ないようですので」
じゃあ、なんで手にとったんだ!? という疑問は飲み込んだ。
百均とは、そういうものだった。おちつけ。
「あの、渡さん、このサングラス、お値段の表示がないようですが、店員さんに尋ねたほうがよろしいでしょうか?」
「いやいやいやいや。この店で売っているものは、ずべて百円。消費税込み百八円ですって」
「ええ!? でも、これ、サングラスですよ!?」
「ええ、そうですね」
瑠璃葉さんは、ハンドバッグの中から、ずさ! っと、立派なサングラスを取り出して見せた。
「だって、こちらのサングラスは、14万8千円いたしました! このサングラスも、同じように黒いです! なぜ、このサングラスは、百円なのですか!?……もとい。税込み百八円なのですか!?」
渡は、笑顔を引きつらせて、瑠璃葉が握り締める二つのサングラスを半眼で睥睨した。
「えーと、こちらのおたかい方は、高性能なんですね。紫外線を防止したり、デザイン性に優れていたり、エトセトラ、エトセトラ……。で、こちらの、お安いほうは、黒いだけなんですよ。その違いですね」
「なるほどぉ!! よくわかりましたわ!!」
それからも、彼女の疑問にいちいち答えつつ……大変に、疲労困憊した。
結論。お金持ちを百均に連れて行ってはいけない。
店を出て、瑠璃葉はにっこりと、振り返っていう。
「とても楽しい時間でした。ぜひ、また、ご一緒させてください!!」
渡は、片頬を引きつらせながら、うなずく自分を止められなかった。消費税が10%になったら、どう説明しよう? と悩みながら。