恐怖の強風
恐怖の強風
かずくんのおじいちゃんはすごく強い。
空手、柔道、剣道、どれも強い。
頭もいいし、かっこいい。
かずくんは自慢に思っているけれど、怖いときもある。
かずくんは泣き虫でこわいものがたくさんある。
虫も、犬も、雷も、暗いところも。
おじいちゃんは、かずくんに強くなってほしくて虫や、犬や、雷や、暗いところを怖がっているかずくんの背中を押す。かずくんはますます怖くなって泣いてしまう。
おじいちゃんは「やれやれ」と言ってため息をつく。
おじいちゃんのため息を聞いていて、かずくんはふと考えた。
「おじいちゃんは何が怖いの?」
おじいちゃんは胸を張った。
「何も怖いものはないぞ」
「おばけも?」
「怖くない」
「ニンジンも?」
「怖くない」
「プールも?」
「怖くない」
かずくんは、なんだかがっかりした。自分だけが怖がりで、かっこ悪い。かずくんはおじいちゃんと遊びに行くのが嫌になった。
台風がきた。かずくんは怖くて布団の中に隠れた。おじいちゃんがかずくんの布団をはいだ。
「なんだ、かずはまた怖がって」
かずくんは泣きべそをかいた。
「おじいちゃんは台風が怖くないの?」
「ぜんぜん怖くなんかないぞ」
「じゃあ、外に出られる?」
おじいちゃんは「うっ」と言って黙った。
「やっぱり、おじいちゃんも台風が怖いの?」
「怖くなんかない! そこで見ておきなさい!」
そう言っておじいちゃんは外へ出た。かずくんは窓から外を見ていた。
おじいちゃんは庭で仁王立ちになって胸を張っている。片手で風に荒らされている髪を押さえている。
「すごいや、おじいちゃん!」
かずくんが笑顔で両手をふると、おじいちゃんもバンザイして手をふった。
その時、すごく強い風が吹いて、おじいちゃんの髪の毛がぴゅーっと飛んでいった。
おじいちゃんの頭がつるっと光った。おじいちゃんは飛んでいく髪の毛をあわてて追いかけていった。かずくんはぽかんと口を開けて見ていた。
やっと帰ってきたおじいちゃんは全身ずぶ濡れで、くちゃくちゃになった髪の毛をかぶっていた。おじいちゃんはかずくんと目が合うと、
「台風は怖いな」
とぽつりと言った。




