「いま」を生きている男
「いま」を生きている男
マシューが入院したと聞いて多くの友人が彼を見舞った。
「マシュー、調子はどうだ?」
そう聞かれてマシューはじっくりと自分の体と対話する。そうしてその時の本当の調子を答える。決して判で押したような答えは返さない。マシューは現在という時間を何よりも大切にしている。過去や未来は彼には価値がない。過去は変えられないし未来は必ず「いま」になる時が来るからだ。
マシューの病気は治らないものだ。もう彼に残された時間は少ない。けれどもマシューは焦ったり落ち込んだり悲しみにくれたりすることはない。「いま」、彼は生きていて考えていて、世界を愛しているからだ。彼は彼自身も、彼の病気をも愛している。空気も水も木も鳥も愛している。すべてが彼を「いま」に存在させてくれるものだからだ。
マシューに最期の時がやってきた。彼の両親はマシューの手を握り泣いた。しかしマシューは悲嘆にくれることも死を恐れることもなかった。マシューは言った。
「いま、僕は素晴らしい体験をしている。誰もが一度きり体験する、人生で一番大切な時を」
マシューの母親は息子の額にキスをして彼の「いま」が幸せであることを祈った。マシューはその祈りに見送られて永遠の「いま」に旅立った。




