バス待ち人のやるせなさ
バス待ち人のやるせなさ
バス停に立っている人たちは不思議な関係だ。まったくの他人なのに一つの目的のために同じ場所にかたまって立っている。
あるバス停では整然と並び、あるバス停では雑然と広がる。空の上から宇宙人が観察していれば、群が二種類あると思うだろう。群れている方からすれば、並ぼうが並ぶまいが知ったことではない。
並ぶ方のバス停に並んでいたときのことだ。列の脇をすりぬけて一番前に立った人がいた。平日の通勤ラッシュの時間帯にそぐわないジャージ姿で髪がボサボサの男性だった。
男性は最前列で振り返りポケットから紙切れを取り出した。左手に持ったその紙切れを見ながら、右手を指揮するように振って大声で歌いだした。
ひっくりかえった塩辛声、右手は狂ったリズムをきざみ、メロディーというものはなく、声の調子は一定で、時おり急に高くなったり、時おりさらに高くなったりして、その場はジャイアンのリサイタル会場と化した。
列に並んでいる人は男性を見ないフリをしていたが、耳だけは聞かないわけにはいかず、男性が満足して去るまでの十数分間、みんなの気持ちは一つになった。早くこのリサイタルが終わりますように……!
上から宇宙人が見ていたら、リーダーが群に指示でも出すために大声を張り上げたように見えただろうか。
宇宙人よ、私たちはあわれな小羊の群なのだよ。ジャイアンの前ではこんなにも無力なのだ。
さて。
バスが来た。ごちゃごちゃと、並ばない群が一つの乗降口に殺到する。私も群の後に続いてリーダーがいない混雑を満喫するとしよう。




