雨のあと
雨のあと
ばたっ
と額に水がかかったな、と思って空を見上げようとした時にはすでに豪雨が降りかかって来ていた。
考える間もなく、目についたマンションのエントランスに逃げ込む。たったの5メートル程度の距離だったが、肩からしずくが垂れるほども濡れてしまった。圭介はぶるん、と頭を振る。しずくが飛んで壁を濡らした。
真夏日が続く晩夏と言っても、濡れ鼠では体温が下がる。まして外は水のカーテンをひいたような土砂降りで気温はぐんぐん下がっている。このままでは風邪をひくな、とは思うのだが。
どわーー。と言う雨音に耳をふさがれ、どうすべきなのか判断できないまま突っ立っていた。
マンションの扉の向こうから、猫がぬるりと入ってきた。ヒゲが垂れるほど雨に濡れているというのに、走るでもなく慌てた様子もない。 圭介の足元まで近づいてくると座り込み、毛づくろいを始めたが、二三度後ろ足のあたりを舐めただけで、後はちょこんと行儀良く座り、外の雨を眺めている。
圭介はしゃがんで猫の耳の後ろをかいてやった。猫は首をかしげ気持ち良さそうにゴロゴロと喉をならす。
雨の音に混じって雷の音がする。雨はまだまだ止みそうもない。
圭介は猫をかかえあげた。胸の辺りでゴロゴロと音が鳴り、人より高い体温が冷えていた体を温めてくれる。猫のアゴのあたりを撫でてやる。
猫がすっかり満足して目でうったえている。圭介はしゃがんで、そっと猫を床に下ろす。猫は一度、圭介の足に体をすり寄せると、するっと外へ出て行った。
雨の中、どこへ行くのだろう?と思った瞬間、ぴたりと雨が止んだ。
外へ出て空を見上げる。真っ青な空が見えていて、黒雲が遠くへ走っていくのが見える。雨に洗われた空気はひんやりと透明で、秋が始まったことを伝えていた。