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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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しましま日和

しましま日和

 ボーダーのセーターとボーダーのニット帽で、ボーダー重ねすぎたらちょっと恥ずかしいかなと思いながら外へ出ると、自分とまったく同じ装いの人が通っていった。

 うわあ、完全にかぶったよ、と半分不愉快に、半分偶然に驚きながら大学へ向かう。途中、ベビーカーを押した若い女性とすれちがったが、彼女も、赤ん坊もボーダーの服を着ていたし、ベビーカーさえボーダーだった。

 偶然ってすごいなと思いながら駅へ向かうと、駅前はしましま天国になっていた。あの人もボーダー、この人もボーダー、散歩中の犬の服さえボーダーだった。

 何が起きたのかと呆然としたが、みんななんとも思っていないようで澄ました顔で歩いている。


『今日は晴れやかなボーダー日和となりました』


 駅前の大型ヴイジョンから聞こえた声に引き寄せられて画面を見ると、見覚えのあるお天気お姉さんがボーダーのワンピースを着て天気図を指し示していた。

 水色のバックに浮かぶ日本列島がボーダーに塗りつぶされている。


「全国的にボーダーな一日になりそうです」


 お天気お姉さんはお辞儀をしてニュースは終わった。代わりに始まったCMではボーダーの服を着たアイドルがボーダーのパッケージのペットボトルのお茶を飲んでいた。次々に目まぐるしく代わるCMの出演者はみんなボーダーの服を着て、ボーダーのパッケージの商品をすすめていた。


「なんだこりゃ……」


 しばらく突っ立っていたが講義に遅れそうな時間になっていることに気づいて電車に飛び乗った。

 電車もボーダー、座席もボーダー、ご丁寧に手すりまでボーダーだった。自分は定期券だから分からないが、もしかしたら切符もボーダーだったかもしれない。


 電車を降りてもやっぱりボーダー。道行く人はみんなボーダー。なんだか目がチカチカしてきた。


 大学の門をくぐって、あまりのことに、あんぐりと口を開けた。校舎が、ボーダーだった。


「どうした、間抜けなツラして」


 声をかけてきたのは同じサークルの島田だった。


「どうって……、島田こそなに、その格好」


「なにって、なにが」


 島田はだぶだぶのトレーナーとだぶだぶのズボンで、もちろんそれらはボーダーで、古いコントに出てくる収監者のようだった。


「監獄帰り?」


「なに言ってんの、おまえ。おまえこそ、このしましま日和になんで半しまなんだよ」



「半しま?」


「しまらねえなあ」


 島田は首を横に振ってため息をついてみせると、いずこかへ去っていった。


 教室へ入って、やはりかと何やら諦念を覚えた。黒板がボーダーだった。その前に立つ教授は普通のスーツだと思ったら、ネクタイがボーダーだった。


「課題のレポートを返します」


 名前を呼ばれて教授の元へ歩いていく。レポートまでボーダーになっていたらどうしよう、と心配したが、紙は普通に白かった。

 レポートの表紙に、「D」と大きく書いてある。


「君、再提出ね。Cがボーダーラインだから」


 見ると、他の人たちのレポートはきれいな青と白のボーダーだった。

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