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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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きれいな言葉をさがしてる。

きれいな言葉をさがしてる。

 学校に行かなくなった依子は一日中ベッドで寝ていることが多くなった。寝ているといっても目をつぶっているだけで眠れはしない。眠れなくなって、動けなくなって高校を休学したのだ。

 からだは一向に良くならない。薬を1ダースも飲んでいるのに、眠りはやってこない。ただ少しだけでも、体を休めるためになるだろうかと目をつぶる。うとうとと少しだけの安息の、瞼の裏の何もない暗闇を見つめ続ける。


 横になっていて出来ることは少ない。とくに病気の時は。本を読もうと思ったこともあったが、眠れない頭で長い文章を理解するのは無理だった。けれど何かしていないと長い長い苦痛ばかりの一日は終わらない。依子は携帯でネットサーフィンするようになった。

 携帯電話は手に持ちやすいように設計されているのだろう。力が弱っている依子でも長時間持っていられた。


 いろいろなサイトを巡った。いろいろなブログを読んだ。時事ニュース、ネコの写真、何かの論文、料理のレシピ。ネット上には数えきれないくらいの言葉があった。依子は、どの言葉も頭の中をすり抜けていくように感じていた。どの言葉も自分には関係のない遠い世界のことと感じていた。ただ寝そべっているだけの自分には必要な言葉などない。ただ時間を無為に浪費しているだけだから。早く、早く、良くならないと。

 そんな時に田口ランディの言葉を見つけた。


『時間は最大の味方、最高の魔法です。時間を恐れないこと。急がせているのは人生ではなく、上司か先生だから。』


 急がなくていいのかな。もう少し布団の中で、動けないままでもいいのかな。

 依子はほっと息が軽く吐けるようになった気がした。依子は言葉をさがしつづけた。

 携帯を開いていると、言葉がどんどんやってくる。


『おやすみなさい。明日もいい日でありますように、みんな、あるべきことがあるべきようにすすみますように。』


 いろんな人がいろんな言葉を持っている。


『人は海のようなものである。 あるときは穏やかで友好的、あるときは時化て悪意に満ちている。 ここで知っておかなければならないのは、 人間もほとんどが水で構成されているということです。』


 いろんなことを考えて、いろんなことを言葉にしている。そうして誰かに伝えようとしている。


『あなたは、あなたであればいい。』


 誰かから言われた言葉は数知れない。けれど覚えている言葉は数えるほど、いや、あるいは少しもないのかもしれない。言葉は空気のなかに消えてなくなるしかないものかもしれない。


 だけど依子は誰かに伝えようと思った。真っ暗な絶望のなかに、明けない夜の始まりに、灯りをともしてくれる言葉を。


 だから依子は、心の中に、きれいな言葉をさがしている。







※ひとつ目、二つ目は田口ランディ、三つ目はアインシュタイン、四つ目はマザー・テレサの言葉です。

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