小さくなったくまちゃん
小さくなったくまちゃん
「ママ、くまちゃんのマフラーは?」
衣替えもとっくに終わった初冬の晴れた日に、てるくんはママに聞きました。ママはドキリとした気持ちをかくして、いつも通りに答えます。
「あら、いないの? タンスに入れたはずなんだけど。どこかにお散歩に行っちゃったのかな?」
「くまちゃんはお散歩に行かないもん」
てるくんはもう四歳です。小さなくまの絵がついたマフラーが歩かないことくらい知っています。けれどママは知らないふりをします。
「じゃあ、かくれんぼかな」
てるくんはママをにらみますが、ママはそっぽを向いてしまいました。
じつは去年の冬の終わり、ママはお洗濯に失敗して、くまちゃんのマフラーを小さく縮めてしまったのです。ママの手編みのマフラーは、てるくんの首にはとても巻けないくらい小さく小さくなってしまったのです。
てるくんはママに聞くのをやめてひとりで探すことにしました。
てるくんのお洋服が入ったタンスの中をすみからすみまで見ました。おもちゃ箱も、おもちゃを全部出して見ました。洗濯機の中も見ました。ママのタンスもパパのタンスも見ました。けれどどこにもくまちゃんのマフラーはありません。
てるくんは掃除をしているママのところに行くと、腕組みをして恐い顔をしてみせました。ママは口笛を吹きながら戸棚にはたきをかけています。
てるくんはママの後ろをいつまでもいつまでも付いて回ります。お風呂掃除をしている時も、お庭のお花に水をやっている時も、お昼御飯のしたくでキッチンにいるときも、てるくんはママの後ろにぴったりとくっついていました。
お昼ごはんができあがって、テーブルにてるくんの大好きなオムライスが出てきても、てるくんはママの後ろから離れません。
ママは小さくため息をつくと、ママの鏡台に、てるくんをつれていきました。鏡台の鏡の裏の小さな隙間から、ママはくまちゃんのマフラーを取り出しました。
「くまちゃんのマフラー!」
てるくんは大喜びでマフラーを受けとると、首に巻こうとしました。けれどマフラーは小さくて、てるくんの首には巻けません。
ママはてるくんが泣いてしまうのじゃないかと思って、心配しました。ところが、てるくんは嬉しそうに、にっこり笑いました。
「ぼく、すっごく大きくなったね。もうくまちゃんのマフラーじゃ小さすぎるよ」
てるくんはくまちゃんのマフラーを大事そうにくるくると丸めるとタンスの奥にしまいました。それからママに言いました。
「ママ、新しいマフラーはネコちゃんがいいな」
ママは嬉しそうに笑って、てるくんと指きりしました。かわいいネコちゃんのマフラーは、少し大きめに作ろう、来年もてるくんが使えるように、とママは決めました。