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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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列に並ぶ

列に並ぶ

 昼休み、久々に外食しようと会社を出た。話題のラーメン屋に行くと、すごい行列ができていた。店の角を曲がって、次の角も曲がって、どこまで続いているのか見えないほど並んでいる。

 そんなに並んでまで食べたくなるほどうまいのか。これは食ってみなければ。俺は行列を逆にたどった。


 角を曲がって、角を曲がって。すごいぞ、この街区に沿ってずらっと並んでる。

 まっすぐ列をたどりながら並んでる人の顔を見ていると、どの顔も期待に満ちてとても明るい。並び疲れたなんて感じは微塵もしない。これはますます期待してしまう。どれほどうまいんだろう。


 早足でずんずん進む。列はまだまだ続く。また角を曲がってもまだまだ続く。次の角を曲がると店の看板が見えた。列は、その看板の下まで続いていて……。


 おや? 列は店に向かっていない。この列は、いったいどこの店に並んだ列なんだ? 最後尾はどこなんだ? 最前列は?


 列をさかのぼって、店のある街区を二めぐりした。列は切れ目なくぐるりと輪になっていた。


「ちょっと、あなた」


 列に並んでるサラリーマンらしいオジサンが、俺に声をかけた。


「私ね、もう行かないと会議があってさ。あなた、代わりに並びませんか」


「あ、ええ、はい」


 オジサンが抜けた隙間に入り込む。後ろの人に会釈したが、とくに割り込みに怒っている様子もない。それはそうか。この列には先頭も最後尾もないんだから。


 列は少しずつ進む。しばらくするとラーメン屋の前まできた。店はすいている。列から離れればすぐにでもラーメンを食べられる。けれど俺は列を抜ける気にはなれなかった。この列に並んでいれば、もっとすごい店に行き着くかもしれない。だってこんなに並んでも、みんなちっとも苦にしてないじゃないか。みんな期待に目を輝かせているじゃないか。きっとすごいことになるぞ。

 俺は込み上げる笑いをこらえつつ、自分の番が来るのを待った。

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