列に並ぶ
列に並ぶ
昼休み、久々に外食しようと会社を出た。話題のラーメン屋に行くと、すごい行列ができていた。店の角を曲がって、次の角も曲がって、どこまで続いているのか見えないほど並んでいる。
そんなに並んでまで食べたくなるほどうまいのか。これは食ってみなければ。俺は行列を逆にたどった。
角を曲がって、角を曲がって。すごいぞ、この街区に沿ってずらっと並んでる。
まっすぐ列をたどりながら並んでる人の顔を見ていると、どの顔も期待に満ちてとても明るい。並び疲れたなんて感じは微塵もしない。これはますます期待してしまう。どれほどうまいんだろう。
早足でずんずん進む。列はまだまだ続く。また角を曲がってもまだまだ続く。次の角を曲がると店の看板が見えた。列は、その看板の下まで続いていて……。
おや? 列は店に向かっていない。この列は、いったいどこの店に並んだ列なんだ? 最後尾はどこなんだ? 最前列は?
列をさかのぼって、店のある街区を二めぐりした。列は切れ目なくぐるりと輪になっていた。
「ちょっと、あなた」
列に並んでるサラリーマンらしいオジサンが、俺に声をかけた。
「私ね、もう行かないと会議があってさ。あなた、代わりに並びませんか」
「あ、ええ、はい」
オジサンが抜けた隙間に入り込む。後ろの人に会釈したが、とくに割り込みに怒っている様子もない。それはそうか。この列には先頭も最後尾もないんだから。
列は少しずつ進む。しばらくするとラーメン屋の前まできた。店はすいている。列から離れればすぐにでもラーメンを食べられる。けれど俺は列を抜ける気にはなれなかった。この列に並んでいれば、もっとすごい店に行き着くかもしれない。だってこんなに並んでも、みんなちっとも苦にしてないじゃないか。みんな期待に目を輝かせているじゃないか。きっとすごいことになるぞ。
俺は込み上げる笑いをこらえつつ、自分の番が来るのを待った。