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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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あの子がほしい

あの子がほしい

「かーってうれしい はないちもんめ」

「まけーてくやしい はないちもんめ」


小学校のそばを歩いていて、なつかしい歌を聞いた。

立ち止まり、校庭をのぞく。

女の子が数人、二列にわかれて、肩を組んでいる。

そういえば、私も、小学校の頃にはよくやったなあ。


「あーのこが ほしい」

「あーのこじゃわからん」

「そうだんしましょ」

「そうしましょ」


そうそう。

あの相談の後、「ほしい」と言われないと、くやしかったんだよね。

なんだか、負けた気になって。

ほんとは、もらわれたほうが負けなのにね。


「きーまった」

「あいちゃんがほしい」

「あいちゃんはやらん」


そうそう。

ああいって、「やらん」って言ってもらえたら、うれしかったなあ。

…あれ?

相手にやっていいときは、なんて言うんだったっけ?


校庭をながめながら、考える。

あれ?思い出せないな…


考え込んでるあいだにも、校庭では「花いちもんめ」がつづいていく。


「みーえちゃんがほしい」

「みーえちゃんはやらん」


「かーずちゃんがほしい」

「かーすちゃんはやらん」


あれ?あいちゃん…みえちゃん…かずちゃん…

みんな、私のおさななじみの名前だ。

校庭で遊んでいる子供たちを見る。

距離が離れていて、子供たちの顔までは見えない。


そうだ。

ああやって、好きな子はやらん、やらんって、言い続けて、いつも、きまって、あの子がもらわれていったっけ。あの子。いつも鼻をたらした子…そうだ、たえちゃん。みんな、ほんとは

たえちゃんと遊びたくなくて、いつも花いちもんめで押し付けあったっけ…。

そういえば、たえちゃんは、卒業式のときにはいなかった。

どうしてだっけ…たえちゃんに、なにがあったんだっけ…


「さとちゃんがほーしい」

「さとちゃんをやろう」

「きーまった!」


さとちゃん…私も、小さいころは「さとちゃん」と呼ばれていた…

そうだ、たえちゃんも、私を「さとちゃん」と呼んだ。いやだった。

登山遠足の時、足の遅い私とたえちゃんが最後尾になって、たえちゃんが言ったんだ。

「待って、さとちゃん」

私は、そう呼ばれるのがイヤで、たえちゃんを振り切って、山頂へ急いだ。

そうだ。

たえちゃんは、山から帰ってこなかったんだ。

急いだあまり、道からはずれて、急な崖からすべり落ちて、あの子は死んでしまった…

どうして、わすれていたんだろう…?




花いちもんめをしていた子供たちは、わーっと列を崩し、こちらへ向かって走ってくる。

え、やだ、やだやだ。

なんで、こっちにくるの?私はたしかに「さとちゃん」だけど、花いちもんめには、かたってないのに…


思わず、一歩、さがった私の足が、なにかやわらかいものを踏んづけた。

びっくりして振りかえると

そこに、たえちゃんがいた。

あの日のまま、幼いたえちゃんがリュックを背負って、そこにいた。






「さーとーちゃん。つーかまーえた」










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