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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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一年一年クリスマス

一年一年クリスマス

 今年の初クリスマスツリーを見た。

 初というのは正月にはよく言うけれど、年末も近くなっては珍しい。


 キラキラ輝くオーナメントを見ながらつらつらと思う。我が家からクリスマスツリーが消えたのはいつ頃だったろうか。

 たしか姉が中学に上がったころはまだあった。それまでは親が飾り付けも片付けもすませていたのだが、姉が中学生になったからということでクリスマスツリーの管理をすべて子供たち、私と姉と妹に任された。


 クリスマスシーズンが近づいてくると、脚立を持ち出して押し入れの天袋からクリスマスツリーの箱を下ろす。ベランダへ通るドア脇の、少しのスペースをきれいに掃除する。クリスマスツリーの箱の埃を拭って蓋を開ける。


 高さ1メートルほどのツリーは幹と根方が着脱式で、三股の丸太に緑の葉が繁った幹を立てるようにできていた。

 この着脱が固くて固くて、緑の葉が手に刺さるのを我慢して「ぐぎぎぎぎ」などと唸りながら突き刺したものだ。


 箱の中には雪に見立てる綿がもこもこ詰められていて、それを取り払うとオーナメントが顔を出す。

 黄色いリボンがついた赤い小さなプレゼントボックス。赤い長靴。金や銀のボール。どれも発砲スチロールに色を塗った安っぽい物だった。でもどれもキラキラしていた。美しかった。

 赤と緑が交互に光る小さなランプを無数に連ねた飾りもあった。部屋の灯りを消してクリスマスツリーが光るのを見るのはとても楽しかった。


 残念ながら我が家にはサンタクロースは来なくて、クリスマスはごちそうとケーキを食べて両親からプレゼントをもらう日でしかなかったのだが、それでもクリスマス近くには良い(のフリを)していたものだ。


 クリスマスツリーを最後に飾った時には、もうクリスマスにそんなに興味がなくなっていて天袋から下ろすのも面倒くさかった。家族団欒を楽しむ年でもなかったのだろう。母が羽毛布団を買ったときに代わりにツリーの箱は天袋から押し出され、ランプをふっと吹いたかのように、消えた。


 もうあれから何年もたち、家も移り、クリスマスツリーを持たないままの生活が続いている。子供でもいれば買い求めるのかもしれないが、押し入れの天袋には残念ながら隙間はない。しかしクリスマスはやはり、ごちそうとケーキを食べる日だ。昔とは違い食卓にはワインが並ぶ。


 数年前、ビーズアクセサリーの店で、指貫ほどの小さなツリーを買った。緑と白と赤でモミの木をかたどってあり、上にはちゃんと星も乗っている。クリスマスの食事時にワインと並べて、ちょこんと置く。やはりクリスマスツリーがあるのは心がはずむ。クリスマスがやってきたんだという気持ちが胸にすとんとおさまる。

 きっと胸のなかにクリスマスツリーの形をした穴が開いていて、そこにぴたりとはまるんだろう。穴は昔々になくした団欒と、面倒くさがる心持ちが針のようにチクチクと開けていったのだろう。


 街中でクリスマスツリーを見ると足が止まる。深呼吸してきらめくツリーを胸いっぱいに吸い込む。そこには暖かな働き者の空気が満ちていて、私は少しだけなくしたクリスマスツリーを懐かしむ。

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