表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
798/888

午後二時二十八分晴れ時々ラクダ

午後二時二十八分晴れ時々ラクダ

 なにもない午後だった。ラクダは寝そべったまま畳の上を這いずって窓辺に寄った。初冬の日差しはやわらかな熱をもって部屋の中を温めている。ラクダは大きく伸びをすると日差しを顔に浴びたまま目を閉じた。


 夏の日差しをまぶたに浴びると、まぶたの裏の世界が真っ赤にそまる。秋は金色にそまる。冬は白銀に輝く。真っ白な世界をたっぷりと味わってラクダは目を開けた。


 白銀を見つめた後の部屋の中は、不思議にひやりとして、黒緑色に塗りつぶされたように暗かった。天井の隅の暗がりがとくに冷え冷えとして、まるで深海のようだった。


 ラクダは右手をついて上半身を起こすと左手でカーテンを閉めた。薄暗くなった部屋はゆったりとたゆたう波の下のようになった。ラクダは畳に腹をつけて、しばしの遊泳を楽しむ。


 ゆらり、ゆらり、ゆらり。


 カーテンを透かして差し込む光はラクダの背中を撫でるようにささやかな温かさを落とす。


 ゆらり、ゆらり、ゆらり。


 ラクダはいつしか目をつぶり眠ってしまった。砂の砂漠に潮が満ちてシルクロードが回遊魚の通り道になる夢を見た。ラクダは海の底をどこまでも、南極までも歩いた。



 目を覚ますと部屋はすっかり暗くなっていた。ラクダは冷えてしまった部屋を暖めるためにストーブに火を入れた。ぽっと灯った赤い火が嬉しい。

 冬が、やってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ