午後二時二十八分晴れ時々ラクダ
午後二時二十八分晴れ時々ラクダ
なにもない午後だった。ラクダは寝そべったまま畳の上を這いずって窓辺に寄った。初冬の日差しはやわらかな熱をもって部屋の中を温めている。ラクダは大きく伸びをすると日差しを顔に浴びたまま目を閉じた。
夏の日差しをまぶたに浴びると、まぶたの裏の世界が真っ赤にそまる。秋は金色にそまる。冬は白銀に輝く。真っ白な世界をたっぷりと味わってラクダは目を開けた。
白銀を見つめた後の部屋の中は、不思議にひやりとして、黒緑色に塗りつぶされたように暗かった。天井の隅の暗がりがとくに冷え冷えとして、まるで深海のようだった。
ラクダは右手をついて上半身を起こすと左手でカーテンを閉めた。薄暗くなった部屋はゆったりとたゆたう波の下のようになった。ラクダは畳に腹をつけて、しばしの遊泳を楽しむ。
ゆらり、ゆらり、ゆらり。
カーテンを透かして差し込む光はラクダの背中を撫でるようにささやかな温かさを落とす。
ゆらり、ゆらり、ゆらり。
ラクダはいつしか目をつぶり眠ってしまった。砂の砂漠に潮が満ちてシルクロードが回遊魚の通り道になる夢を見た。ラクダは海の底をどこまでも、南極までも歩いた。
目を覚ますと部屋はすっかり暗くなっていた。ラクダは冷えてしまった部屋を暖めるためにストーブに火を入れた。ぽっと灯った赤い火が嬉しい。
冬が、やってきた。




