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ぷかぷかと
ぷかぷかと
バスの一番前の席に座って夜の街を見ている。ラッシュは過ぎた時間のはずが、道は混んでいてなかなか先へ進まない。
たくさんの車のテールランプが暗い街に赤い川を描き出す。その川をゆっくりと流されていく。
血の色の川にひそむ人間たちは魚のようにひっそりと、冷たい肌をしている。群れているのにとても遠い。人と人のすきまを、よどんだ赤い川が生ぐさい臭いを発しながら埋めていく。このまま赤くそまってぬめりながら腐っていくような。
赤の上にぽつりと青く信号がともった。川はよどみを抜けて流れ出す。渋滞はいつの間にか終わって、道はただの道に戻る。私はただの乗客に戻る。ただ少しだけ生ぐさくなった私は魚の気持ちを離れない。ぷかぷかと空気を求めて上を向いた。




