眠れぬ夜のたわむれに
眠れぬ夜のたわむれに
午前0時、由美は皿に乗った料理を三角コーナーに捨てる。
三角コーナー。
なんて変な名前かしら。三角で、コーナーだなんて。用途をちっとも表さない。
三角で、コーナー。形だけ。
由美は三角コーナーに、サワラの香草ワイン蒸しを捨てる。キャベツとベーコンのソテーを捨てる。ニンジンとツナのサラダを捨てる。コーンポタージュスープを捨てる。夫の好物たち。
三角コーナーに臭いが染み付く。魚の臭い、油の、青菜の、クリームの臭い。臭いが染み付き、腐臭になる。
生ゴミを処分しても、三角コーナーから異臭がする。生ゴミを取り去っても臭いは残る。魚の、青菜の、クリームの臭いが。
臭いが由美をいらだたせる。
大量の消臭剤を三角コーナーにふりかける。何度も何度もふりかける。三角コーナーはただ黙って、そこにあるだけだ。
そしてどんなにふりかけても、腐臭は消えない。
由美はバケツに水を張り、三角コーナーを水底に沈める。
浮かび上がろうとするのを、両手で押さえつけて沈める。
何度も何度も沈める。
水に閉じ込められた三角コーナーから、やっと腐臭が消える。
由美は満足して手を離す。
三角コーナーはゆっくりと、うつぶせたまま水面に浮かぶ。
「なんだ、起きてたのか。寝てていいのに」
夫の声に、由美は笑顔で振り替える。
「あら、お帰りなさい。お食事は?」
「いい。すませてきた」
「そう、お風呂は? すませた?」
「……いい。寝る」
夫が立っていた場所に、知らないシャンプーの臭いが残る。
由美は三角コーナーをつまみ上げてシンクにもどすと、
消臭剤をたっぷり振りかけた。