書を読む
書を読む
大人になってから字の練習を始めた。書道と呼べるほどきちんとしたものではない。仕事で使う何百文字だけを繰り返し練習している。
それだけでも見えてくるものはあり、「繰り返す」ということのすごさを実感した。
文字には人柄が出る。自分の文字を見てつくづく思う。ただ、文字を見て得たイメージを言語化することは難しい。文字は意味を持つがゆえに、別の意味を重ねにくいのかもしれない。
美術館に書を見に行く機会も増えた。難しい崩し字などもちろん読めないのだが、それでも書を眺めるのが楽しい。
書には色彩がある。筆が産み出す線の一本一本が美しい世界を産み出す。すばらしい書に出会えば、墨色の中に虹色の光を見つけることができる。線の流れは音楽のように体のすみずみまで響き渡る。読むことができないがゆえに深く感じることができる。美しい表装に包まれた生き物のような躍動感を。
文字は練習しないとすぐに元の下手に戻ってしまう。一日怠れば一日分、我が怠惰を文字の中に見ることになる。それはなかなかに眉をしかめたくなるものだ。怠惰は醜いものだと思い知らされる。けれどそんな醜さも自分の中にあると知ることができるのも書の面白さなのかもしれない。
実は一週間、練習をサボっている。さて、こんどはどんな自分が見えるだろうか。一種楽しみでもあるのだ。




