からあげくん教
からあげくん教
今日は幼稚園の遠足です。祐実ちゃんは前の日から楽しみで楽しみで、ずっとニコニコしています。
「ママ、明日のおべんとう、なあに?」
「くまさんのおにぎりと、たまごのサラダと、からあげよ」
「からあげくん!? やったあ!」
祐実ちゃんはママのからあげが大好き。飛び上がって喜びました。
遠足の日の朝はきれいに晴れました。祐実ちゃんはリュックサックを背負ってキッチンに行きました。
「ママ、からあげくん入れて!」
ママに背中のリュックサックを見せると、ママはからあげをひとつラップにくるんでリュックサックに入れました。
「ママ、からあげくん入った?」
「入ったわよ」
「それはね、幼稚園に行く途中のおやつ。ママ、からあげくん入れて!」
ママはまたラップにくるんだからあげくんをリュックサックに入れました。
「それはね、バスの中で食べるおやつ。ママ、からあげくん入れて!」
「でも、祐実ちゃん。あんまりたくさん入れても食べきれないでしょう」
「大丈夫! からあげくんなら大丈夫!」
ママは困った顔をしましたが、リュックサックの中につぎつぎとからあげを入れてあげました。
祐実ちゃんはおべんとうと、たくさんのからあげを背負って幼稚園に行きました。
行きがけにからあげをひとつ、ポイと口にほうり込みます。
「おいしーい」
祐実は幼稚園のみんなとバスに乗りました。またからあげを口にポイ。
「おいしーい」
その時、隣の席の泰斗くんが「わあん」と泣き出しました。
「おべんとう、わすれちゃった!」
泰斗くんは下を向いてしくしく泣いています。
「泰斗くん、祐実のおべんとう、あげる」
泰斗くんはびっくりして顔を上げました。
祐実ちゃんはリュックサックの中からおべんとう箱を取り出すと泰斗くんに渡しました。
泰斗くんはびっくりした顔のまま祐実ちゃんの顔とおべんとう箱を見くらべています。
「でも、祐実ちゃん。おなかがすいちゃうよ?」
祐実ちゃんはリュックサックを開けて泰斗くんに中身を見せてあげました。
「わあ、からあげがいっぱい!」
「祐実はからあげくんがあるから大丈夫だよ」
「すごい、祐実ちゃん。ぼくがおべんとう忘れること、知っていたの?」
祐実は声をひそめて答えました。
「からあげくんがあったら、大丈夫なんだよ」
泰斗くんも小さい声で言いました。
「すごいや。ぼくもからあげのこと、からあげくんて呼ぶよ」
こうして、からあげくん教徒がまたひとり増えたことを知らないママは、帰ってきた祐実ちゃんのからっぽのおべんとう箱とリュックサックを見てびっくりしました。
「祐実ちゃん、ぜんぶ食べちゃったの? お腹痛くならなかった?」
「からあげくんだから大丈夫!」
祐実ちゃんは楽しそうに笑います。
「ママ、晩ごはんもからあげくんがいいなあ」
ママはますますおどろいて目をぱちくりして、からあげくんのすごさに感心しましたとさ。




