表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
754/888

風がつよい日

風が強い日

 びゅうびゅうごうごうと耳のそばで風が鳴る。マントの裾がはためいて肌を叩かれているようだ。一面にキリンソウが咲く丘は黄色の世界だ。吹き荒れる風が花粉を巻き上げる。空まで黄色に染まった丘で道をなくして佇んでいた。


 丘の向こうは高い崖ではるか下に荒れた海がある。振り返るとどこまでも続くくさはらがある。見渡すかぎり人はいない。それどころか動物もいない。白い雲だけが生き物のように走っていく。


 ふと風の中に人の声が聞こえた気がした。長く尾を引くように誰かの名前を呼んでいる。空を見上げても鳥もいない、海を見下ろしても舟もない。ただ風だけが吹いていた。


 耳に聞こえる名前を呟いてみる。ぽっ、と明かりがともったような、夜空に星を見つけたような、不思議にやわらかな感情を覚えた。


 この名前を胸に抱いてどこまでも歩こう。揺れるキリンソウが指し示す先へ歩いていこう。いつかこの名を呼んでくれる人に出会うまで、風とともにどこまでも、どこまでも歩こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ