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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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うどん屋で基礎英語

うどん屋で基礎英語

 昼休み、うどん屋に入ったが、いつもの「いらっしゃいませ」が聞こえない。店内を見回すと、いつものポニーテールの店員さんが二人の男性客を相手に四苦八苦していた。旅行者らしい二人の客はイタリア語で話し合ってから店員さんに話しかける。


「THIS?」


「うどんです」


「UDODE?」


「ノー、うどん」


「UDON」


「イエス、うどん」


 メニューの写真を指差しながら二人の客はまたイタリア語でなにやら話し合っている。

 ぺらぺらぺらっとイタリア語で彼女に何か話しかけたが、彼女は首を横に振って「イングリッシュ」と毅然と言いきった。

 客はどうやら英語が苦手らしい。指を二本立てて「2 UDON」と注文した。


「何うどん?」


 彼女は日本語ではっきりとたずねた。


「NANI?」


「ホワッツうどん」


「Whats?」


 メニューにずらっと並んだ写真を指差しながら、彼女は説明を始めた。


「エッグうどん、ビーフうどん、テンプーラうどん……」


 次々とメニューが紹介されていく。


「カリーうどん、コールドうどん、フォックスうどん」


「Fox!?」


「イエス、フォックスうどん」


 イタリア語のひそひそがしばらく続いた。彼女は辛抱強く待った。


「two Foxes」


 二人はおそるおそるきつねうどんを注文した。彼女は満足げに厨房に注文を通すと、私の注文もとってくれた。


 二人の客はひそひそと話し続けた。丼が彼らの前に置かれると、なかなか上手な箸使いで揚げをつまんで、しげしげと眺めた。片方が目をつぶって揚げに噛みついた。アチアチというふうな音をもらしながら揚げを噛んでいく。

 彼女が二人の後ろにたって「どう?」と聞いた。


「delicious」


 揚げを飲み込んだ方が親指を立てて言った。彼女は大きくうなずいた。


「ぐっど」


 小さなほのぼのとした国際交流だった。二人の客は会計を終えて、笑顔で彼女に手を振り去っていった。きっと日本での楽しい思い出の一ページが書き上げられたことだろう。

 うどんに対するちょっとした誤解とともに。

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