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今日のおはなし  作者: 溝口智子
金の糸 15
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腹の底にひそむ虫

腹の底にひそむ虫

 知ってるかい?

 生き物の腹の底には虫が隠れているんだ。どんな生き物も例外はない。


 でも、その虫はすごくひっそりとして、すごくすごく小さい。だからみんな腹の底に虫がいるなんて気づかない。お医者さんでも見抜くことはできない。


 虫は何を食べて生きているかって?


 それは「若さ」さ。


 生き物はみんな「若さ」を吸いとられながら生きているんだ。

 腹の底の虫は小さいからほんの少しずつ食べるだけだ。毎日、ほんの少しずつね。


 だから生き物はみんな自分の「若さ」がいつなくなっているのか気がつかない。けれど少しずつ確実に「若さ」はなくなっていく。


 そうしてある日突然気づくのさ。自分の変わり果てた姿を鏡の中に発見して。


 腹の底の虫を退治したいって? それはやめた方がいいなあ。


 なぜって、よーく自分の腹の底の音を聞いてごらん。ずくんずくんと脈打つ音の底に虫の声が聞こえるはずさ。


「生きたい、生きたい、生きたい、生きたい」


 それが生き物みんなの腹の底で鳴っている。耳をふさいでも無駄さ。本当はみんな聞こえてるんだ。


 だって腹の底の虫こそが「君」そのものだからさ。


 なにより君が大事にしている「若さ」を食べて腹の底の虫は少しずつ少しずつ大きくなっていく。


「生きたい、生きたい、生きたい、生きたい」


 大きくなったその声は、いつか誰かの声と共鳴して新しい虫を産み出すのさ。


 おや。

 君の腹の虫が鳴ったね。それは腹の底の虫じゃないね。そろそろ夕飯の時間かな。


 君が満腹になって眠ってしまったら君のママが君の腹を優しく撫でながら子守唄を歌うだろう。腹の底の虫に「ゆっくりゆっくり大きくなって。いつまでもいつまでも子どもでいて」と言うだろう。


 けれど君の腹の底の虫は食いしん坊だ。君は明日、明後日、明明後日、どんどん若さをなくしていくのだ。「生きたい生きたい」と叫びながら。


 どうだい、腹の底に虫がいるなんて信じられないかい?

 それが自分自身だなんて信じられないかい?


 それならそれでいいのさ。それでも君は生きていくのだから。


 ああ、長く話して退屈だったね。あくびがで出した。


 おやすみ、ぼうや。また明日。

 いつかまた今日より老けた君と会おう。腹の底に住む虫が君を食べ尽くしてしまう前に。君の腹の底の虫が満腹で「生きたい」と言わなくなるその前に、また会おう。

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