人として軸がぶれている
人として軸がぶれている
少年科学文化センターの夏休み工作教室は盛況だったため九月になっても続けられることになった。ただ、ボランティア講師をしてくれていた梶山氏の都合がつかず、急遽、センター職員である昌子が講師を担当することになった。
ところが昌子はすこぶるつきの不器用さで折り紙で鶴を折ると、つぶれたカエルの干物のようなものを作り出すような腕前だった。
新しく始まる工作教室の第一回は段ボールとつまようじで作るコマだった。昌子はためしにいくつか作ってみたが、回るどころか持ち上げただけで、つまようじがポロリと落ちてしまう始末。焦った昌子は梶山氏に助けを求めた。
梶山氏の自宅をたずねた昌子は手土産の水羊羹と共に自作のコマらしきものをテーブルに乗せた。梶山氏は段ボールをつまんで持ち上げたが、中央に刺していたつまようじはポロリと落ちる。
「刺すときにまっすぐ刺さないと。ななめに刺したら穴が大きくなっちゃう」
昌子は言われたとおりにまっすぐにつまようじを突き刺そうとしたが、つまようじの先がつぶれてしまったり、段ボールが破れてしまったり散々だった。だが、梶山氏が根気強く指導してくれたおかげで、一時間後にはつまようじが落ちないコマができた。
嬉々として回してみたが、コマはすぐにパタリと倒れた。
「軸がぶれてるから回らないんだよ」
梶山氏のさらなる指導をもってしても昌子のコマが回ることはなかった。
「だめだねえ。今日がクジの日だからかねえ」
「クジの日だとなにか関係ありますか」
「じくが逆さにぶれている」
「……え?」
「いや、だからね、じくが逆さになるとクジになるでしょ。で、今日は9月2日でクジの日でしょ。ほら、かけてるの」
「あ、ああ……。ギャグですか」
「座布団、何枚だった?」
「え……、じゃあ、一枚……」
梶山氏はあきらかにがっかりしていたが昌子はそれ以上付き合っていると自分のじくがぶれそうで黙っていた。昌子は笑いには厳しい質だ。聞かなかったふりをしてコマと格闘したが、とうとうきちんと回るコマは出来上がらなかった。
「きっと明日はうまくいくよ。クジの日じゃないから」
昌子はそれも曖昧な笑みでかわして梶山宅から帰っていった。
帰ってコマをよく見て気づいたが、つまようじは湿気を含んだのか均等にまっすぐに伸びてはいなかった。わずかに波打っている。その日はもう遅かったので翌3日に新しいつまようじを買ってくるとコマは簡単にクルクルと回った。
梶山氏が言った通りになったことに昌子はえも言われぬ不愉快さを感じた。よく回るコマを放りだすと、なんとか曲がったつまようじで回るコマを作ろうと四苦八苦した。どうやら昌子はつむじ曲がりであるらしい。




