由香と夫のパンツの話
由香と夫のパンツの話
「おかしいわねえ」
洗濯物を畳みながら呟いた由香に夫が尋ねた。
「何が?」
「パンツの数が合わないのよ」
「パンツの数? 何それ」
「あなたのパンツと私のパンツ。いっつも畳む時に数が違うの」
「なんだそれ。由香のパンツが下着ドロにでも持っていかれてるのか」
「違うの。私のパンツの数よりあなたのパンツの方が少ないのよ」
「ええ? なんで? 俺、毎日穿きかえてるよ」
「だよねえ」
「由香が二枚重ねて穿いてるんじゃないの」
「そんな面白いことしないわよ。あなた、おもらししてパンツをこっそり手洗いしてる?」
「しないよ! 数が合わないってことは僕のパンツはどんどん減ってるの?」
「そういうわけでもないのよ。絶対数は変わらないのよ」
「相対数が変わってるわけ?」
「だから、私のパンツと相対的にくらべるとあなたのパンツが少ないわけ」
「それ、相対の意味、まちがってない?」
「しらな―い」
「とにかく、パンツ紛失事件は毎日、起きているわけだ」
「毎日でもないわね、三日に一回くらいしか洗濯機回さないから」
「え、そうなの?」
「二人分じゃ、そうそう溜まらないもの」
「しかし紛失は起こり、喪失はしない」
「そう」
「ミステリーだね」
「家内制ミステリーね」
「で、名探偵・由香はどう考えてるわけ」
「ないないの神様の仕業だと思うのよ」
「ないないの神様?」
「そう。イタズラ好きで大事なものをこっそり隠すの。それで人が必死に探すのを面白がって、飽きたら返してくれるの」
「それ、神様じゃなくて妖怪じゃないか」
「とにかく、それに違いないわ。それしか考えられない」
「まあ、パンツがいつかは出てくるんなら必死に探すほどでもないよね。お風呂行くからタオルちょうだい」
「はい」
「……これ、僕のパンツですけど」
「え、あら。大きいからバスタオルと間違えちゃった」
「もしかして、タオル置き場にいつも僕のパンツがあるのは、僕に便利なように置いていてくれたんじゃなくて、パンツとバスタオルを間違えてたの?」
「……てへ?」
「てへぺろじゃないよ。それがパンツ紛失の原因じゃないか」
「見たか、名探偵・由香の華麗な推理!」
「まったく当たらなかったけどね」
由香はしらぬふりをしてバスタオルの中から夫のパンツを救出していった。




