ミズムシのアシのユビ
ミズムシのアシのユビ
ミズムシのアシのオヤユビが言いました。
「昔はよかったよなあ」
ミズムシのアシの二番目のユビが聞きました。
「昔っていつだい」
ミズムシのアシの三番目のユビが答えました。
「子供のころだよね」
ミズムシのアシの四番目のユビがたずねました。
「なんで?」
ミズムシのアシの小ユビが返事しました。
「子供のころはミズムシじゃなかったじゃないか」
ミズムシのアシのユビたちは一斉にうなずきました。
「ミズムシになって一番イヤなことはカユイことだよ」
ミズムシのアシのオヤユビが言いました。
「そんなことより皮がめくれることだよ」
ミズムシのアシの二番目のユビが言いました。
「いや、ツメが変形することだね」
ミズムシのアシの三番目のユビが言いました。
「ひどくなると痛むのがイヤだよ」
ミズムシのアシの四番目のユビが言いました。
「それよりなにより」
ミズムシのアシの小ユビが言いました。
「五本ユビ靴下のせいでみんなの顔が見えないのがつらいよ」
五本のユビはしんみりと黙りこみました。
「昔はよかったよなあ」
誰ともなく言いました。
「毎日ビーチサンダルで駆け回って健康だったなあ」
「本当に。今だってビーチサンダルを履けばいいのに」
「無理だよ、ネクタイと革靴はビジネスマンの甲冑だよ」
「でも、クールビズじゃないか」
「ジャケット一枚脱ぐだけだよ」
「沖縄県庁はカリユシウェアだそうだよ」
「宮崎県庁はアロハだっけ?」
「そこからビーチサンダルを導入してくれないかなあ」
「いいなあ、ビーチサンダル通勤」
「でも」
ミズムシのアシの小ユビが言いました。
「満員電車で裸足をハイヒールに踏まれたら、たまらなく痛いよ」
ミズムシのアシのユビたちは、しょんぼりしてしまいました。革靴越しにでもハイヒールに踏まれたら、それはそれは痛いのです。
「昔はよかったよなあ」
ミズムシのアシのオヤユビの言葉にユビたちは静かにうなずきました。




